香港での反体制的な言動を取り締まる「香港国家安全維持法(国安法)」。高度な自治を保障する「一国二制度」を台無しにする、と欧米などから反発を招きながらも、中国政府が導入に踏み切った背景には、2019年6月以降続いた大規模な反政府抗議運動があった。
AFP通信のニコラ・アスフーリ(47)は同年9月と12月に香港に入り、激化するデモなどの様子を撮影した。抵抗歌「香港に再び栄光あれ」の合唱の中、抗議のポスターを掲げる男性、抗議運動を象徴する雨傘を広げて行進する女性、運動に対抗して出動する警官隊。アスフーリは自分の知る「いつも平和で、人々が親切で礼儀正しく、教育水準が高い香港」の風景が一変していると感じ、自由と民主化を求める人々にカメラを向け続けた。
14年の民主化デモ「雨傘運動」も取材したアスフーリにとって、19年の抗議運動は統率がとれ、中高生ら若い人の姿が目立ったことが印象的だった。中高生は登校前や下校後、ときには制服姿のまま、手をつないで運動への支持を示す「人間の鎖」に参加した。「12歳や14歳、16歳の若者は、民主主義や自由のことを日々考えたりしないものだ」。それだけに力強さを感じたという。
「一連の写真は、強力な政府に立ち向かった若者らの闘いの記録」と語るアスフーリ。国安法の施行で抗議運動を続けることが難しくなった今、改めて写真の力に期待を寄せる。「私にとって世界報道写真コンテストの受賞で重要なのは、展覧会やオンラインで多くの人に写真を見てもらえること。香港で起こっていることへの関心を高め、人々に力を与えたい」
■香港の抗議運動と国安法
香港の抗議運動の発端は、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案だ。主催者発表で200万人規模の反対デモに発展し、香港政府は改正案の撤回に追い込まれたが、その間に抗議運動は過激化した。
国安法は違反行為に最高で終身刑を科し、外国人も処罰の対象にする。今後の活動を危ぶむ香港の民主派団体が相次いで解散を発表するなど、影響が広がっている。(太田航)