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カメラだけじゃない、監視社会を丸ごと輸出する中国 ケニアで見た、その実情

World Now
ナイロビの街のあちこちに取り付けられたファーウェイ製の監視カメラ。キノコの帽子の部分に「HUAWEI」のロゴが見える。カメラ部分はぐるりと回転し、ズームもでき、遠隔操作で映像を見ることができるという=2020年2月2日

中国がアフリカに「監視社会システム」を輸出している、という話を聞いたのは昨年秋のことだった。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が、世界のデジタル覇権を制するため力を入れている「デジタルシルクロード」の好例だという話だった。

街じゅう監視カメラのあの社会?

信号無視したら顔認証カメラで人物が特定され、交差点の画面に顔写真がさらされるシステム?

上海や北京の特派員などで6年半を中国で過ごした身としては、まさかと思いながら、ケニアへ飛んだ。

【合わせて読む】足跡すべてを政府が把握 中国の監視社会とは

■ファーウェイのカメラ、そこかしこに

2月上旬、首都ナイロビに着くと、まさに街は監視カメラだらけだった。

空港からダウンタウンに向かう途中にも、頭上からカメラとストロボが車に向けられている。こんなにすぐ監視カメラに出くわすとは思っていなかったので、助手席から、ここにも、あそこにもと興奮しつつシャッターを切っていると、迎えに来てくれた朝日新聞の現地助手アモスはあきれて言った。「何を驚いている、こんなもんじゃない、街じゅうにあるよ」

ケニア第2の都市モンバサにも取り付けられたファーウェイ製の監視カメラ。時計の上から人や車の流れを追っていた=2020年2月6日

ホテルに荷物を置き、街の中心部を歩いた。確かに監視カメラはあちこちにあった。交差点にはキノコの形をしたカメラが2~3個ずつついている。時おり、下半分がぐるっと回転し、街ゆく人をじろりと見渡しているみたいだった。交差点だけでなく、店や会社が並んでいる通りの軒下にも取り付けられていた。

ナイロビ中心部の、人がたくさん集まるケニア国立公文書館前の広場に行ってみた。仕事を終えた人が夕涼みをし、リュックを背負った学生やカップルが行き交っている。大きなテレビモニターを搭載したトラックが広場にとめられ、数日前に亡くなったモイ元大統領の映像が流れていた。24年におよぶ強権政治の「功績」を映す政治色の強い映像の真上でも、キノコ型カメラが、集まった人を見回している。

建物の2階の高さにあるカメラをよく見ると、「HUAWEI」のロゴが見えた。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ、中国・深セン(土へんに川))製だった。

ケニア国立公文書館前の広場ではモイ元大統領の功績をたたえる映像が街頭テレビのように放映され、スクリーンの真上にあるファーウェイ製の監視カメラは集まった人たちを見渡せる場所にあった=2020年2月

夜になると、さらに監視カメラの存在を感じる。車に乗り、路上のカメラの下を通るたび、ピカッと白い光を浴びるのだ。場所によっては10~20秒ごとにストロボを浴び、治安当局がイスラム教の少数民族ウイグル族への締め付けを強めている中国の感覚を思い出した。誰がいつ、どこを走っているかが筒抜けであることを実感し、不気味さを感じた。

いったいこれは、どんなシステムなのだろう。翌日、取材のためナイロビ郊外のファーウェイ・ケニアに向かった。ファーウェイが街を安全にするため世界各地で導入している「Safe City(セーフシティ)」の仕組みを模した展示場のような応接室に、副CEOのアダム・レインがいた。

ファーウェイはケニア政府、同国通信最大手サファリコムと手を組み、2015年から監視カメラの設置を進めている。交差点などにあったキノコ型カメラは、特定の人物をズームし、動画や写真を撮ることができる。警察の指令センターとつながっており、特別なスマートフォンを持つ警官は、何かあれば、端末から映像を見て現場に駆けつける。ナイロビと同国第2の都市モンバサの1800カ所以上に取り付けられている。

これとは別に、路上に車監視用のストロボ付きカメラが数百カ所にある。ナンバープレートや車種を識別し、車内の人物も撮影でき、盗難車や容疑者が乗った車を追うことができる。誰が、いつ、どこを通過したか、すべて調べることができるのだ。

ファーウェイはこうしたカメラや端末だけでなく、通信設備、ソフトウェアも含めたシステム全体を供給している。

ナイロビの道路の上方に取り付けられた監視カメラ。夜になるとこの下を通過するたびにフラッシュが車に浴びせられる=2020年2月2日

■キノコのカメラがくれる「安心」

カメラの最大の効果は「抑止力」だとレインは言う。「人々は常に自分が見られていることを知っている。だから犯罪を思いとどまらせることができる」

ふと、英作家ジョージ・オーウェルが、監視によって国民を管理する社会を描いた小説「一九八四年」が頭に浮かんだ。街のいたる所に取り付けられた画面の向こうで、全知全能の「ビッグ・ブラザー」率いる党が、人々の会話や顔の表情まで読み取り、監視する世界。常に見られていると、人々は悪事をはたらいたり、党に反感を抱いたりすることを控えるようになる。オーウェルが21世紀のあり得る社会を、約70年前に予見していたことに改めて驚く。

レインはセーフシティの利点をこうも説明した。「犯罪が起きても、すぐに容疑者を捕まえられる」

実際に昨年1月、ナイロビの高級ホテルで起きたテロ事件では、通報システムやカメラのおかげで、数十秒で警察が事件を認識し、数時間で事態を掌握したとレインは説明する。

確かに警察にとっては便利なシステムだろう。しかし、これだけ街は監視カメラだらけで、バチバチ白い光を浴びせられたらさすがに国民も息苦しさを感じているのではないか。そう思って、街の人たちに話を聞いてみることにした。

まずレストラン2階で夕食を食べていた医療品会社のマネジャー、エルドレット(38)に声をかけた。窓のすぐ外で、まさにすぐ目の前でキノコ型カメラが人の動きをモニターしている。

だが、返ってきた答えに拍子抜けした。中国企業の監視カメラを導入しているとオンラインニュースで見たことがあるという。「カメラのおかげで強盗が捕まったと聞いた。安全になったと感じます」。ケニアには技術がないので、といい、「中国製でも、使うのはケニア政府。ちゃんと管理しているはずだから、特に不安は感じない」。

外に出て、カメラの下に座っていた古着商のジェームズ(45)にも聞いた。約2年前、数人の中国人が監視カメラを取り付けるのを見たという。「このあたりは人が多く、犯罪も少なくない。でもカメラが撮った映像に証拠が残るから、犯罪者を捜しあてることができる。とても役立っていると思うよ」

ナイロビの街のあちこちに取り付けられたファーウェイ製の監視カメラ。キノコの帽子の部分に「HUAWEI」のロゴが見える。カメラ部分はぐるりと回転し、ズームもでき、遠隔操作で映像を見ることができるという=2020年2月2日

毎日、運転中に白いフラッシュを浴びているタクシー運転手、シモンさん(68)も「私は何も悪いことしていないので、写真を撮られて困ることはない。世の中には悪い奴がいるから、カメラは強い抑止力になる」と、これまた賛成意見だった。

話を聞いた約10人はみな歓迎していた。そして、治安に不安を持っていた。15年には大学が襲撃され、学生ら約150人が射殺された。60人以上が死亡した13年の大型ショッピングモールでの人質立てこもり事件と同様、隣国ソマリアを拠点とするイスラム過激派「シャバブ」が犯行声明を出した。駅やビル、ホテルに入るときは常に体をチェックされ、いつ、どこで爆発が起きるかわからないピリピリした雰囲気がある。

ファーウェイ・ケニアのレインはこうも語る。「監視カメラに人工知能(AI)のソフトウェアを導入すれば、道ばたに置かれたバッグの周囲に人がいないなどの不審な状況を、カメラが判断して警告してくれる。そこには爆弾が仕掛けられているかもしれない」

■見守りが監視に変わるとき

ケニアと中国の国情は違う。でも、治安がよくなるのなら監視カメラはあってもいい、という国民の感覚はとてもよく似ていた。中国の友人に聞くと、監視されていることのマイナス面より、治安がよくなる、犯罪捜査に役立つといった利点を強調する人が圧倒的に多い。

この感覚は、日本人であっても無縁ではない。昨年、北京へ出張に行ったときのこと。初めて中国へ取材に来た日本人女性も、「北京は町中に監視カメラがあるからかえって安全。夜でも一人で大丈夫」と真顔で話し、夜道を一人で歩いて帰った。監視カメラには「見守られている」という安心感を人に与える効果があるのか。しばし考え込んだ。

一方で、ケニア国民がデータプライバシー侵害のリスクを理解して監視システムを受け入れているかというと、必ずしもそうとは言えない。国連貿易開発会議の「デジタル経済リポート2019」によると、ケニアでオンラインのプライバシー侵害を懸念するのは44%。調査した25カ国・地域で最も低かった。ナイロビ大学のサミュエル・ニャンデモ上級講師(開発経済学)は、「中国の監視カメラがどう使われ、個人情報がどう管理されているのかを把握するだけの知識が、ケニアでは十分にない」と指摘する。

さらに、ケニヤッタ大統領率いる政権与党は、中国共産党から「中国式」の政権運営や国民統治のノウハウ、イデオロギーも学んでいるとも指摘する。ケニアの中国大使館などによると、16年以降、ケニアの政権与党と、中国共産党の幹部を養成する共産党校の幹部が相互に使節団を送りあっている。

そこで中国側は、「中央集権化」を進めてきたことが中国の成功の決定的要因だったとケニア側に講義。「党の下位のレベルは上位に従い、少数は多数に従い、個人は組織に従う」。これこそが、党を強くし、国の安定につながると説いた。まさしく中国の全体主義的な統治手法を、国造りの「秘訣」として伝授しているのだ。

ケニア政権与党のラファエル・トゥジュ幹事長も「政権与党が強く、一貫性のあることが、国の安定につながる」と応じ、中国にならって党アカデミーをケニアにつくる計画まで披露した。

ニャンデモ氏は、ケニア政府が中国式の監視社会システムを導入する別の理由をこう説明する。「中国式のイデオロギーは、アフリカの政権与党にとっても(国民を統治・管理するうえで)とても便利なものだからだ」

ナイロビの街のあちこちに取り付けられたファーウェイ製の監視カメラ。キノコの帽子の部分に「HUAWEI」のロゴが見える。カメラ部分はぐるりと回転し、ズームもでき、遠隔操作で映像を見ることができるという=2020年2月2日

もし、中国の監視システムを導入するアフリカの国々が、中国式の統治手法も学び、市民監視を強めたら――。中国で暮らし、記者として中国共産党の統治手法を見てきた身としては複雑な思いがある。

セーフシティは、治安をよくするだろうし、市民に安心感も与えるかもしれない。その一方で、政府のやり方次第では、市民や野党、反体制派らの監視のために悪用することもできる。この最新のデジタル技術は、両刃の剣にほかならないのだ。

ケニア政府もこうした懸念にこたえるため、昨年11月、新たな「データ保護法」を成立させた。世界で最も厳しいプライバシー保護法制といわれる欧州連合(EU)の「一般データ保護規則(GDPR)」を参考にしたとされる。個人のデータを使う際には、その目的やプライバシーがどう守られるかなどの情報を通知することを求めている。

しかし、TMI総合法律事務所ケニア現地デスクの平林拓人弁護士は、「国の安全保障や公共の利益のために必要であれば、この法律の適用が除外されると規定されている」と指摘する。除外の範囲は広範で、例えばテロ対策や新型コロナウイルス防止などの理由であれば、ケニア政府の行う個人情報収集の多くは適用外と解釈される可能性があるという。「政府が行う個人情報の収集に対しては、この保護法ではプライバシーの保護はなかなか難しいと思われます」

強権的な手法を好む指導者がいる国に監視システムを輸出することは、民間企業として道徳に反するのではという主張に、ファーウェイ関係者がこう反論するのを聞いたことがある。

包丁を作る会社は、人殺しを勧めるために包丁を作っているのではない。ファーウェイは、生活を向上させるためのサービスを提供しているにすぎない――。

別の関係者はこうも言った。

中国ばかりが非難されるが、米国は世界中に武器を輸出し、その武器が使われて戦争になり、人々は殺し合っている。すべては、使う人次第だ、と。

ファーウェイはセーフシティを中国をはじめ、アフリカ、南アジア、中南米など90カ国以上、230の都市で展開。いまこの瞬間も、計10億人以上の人々の動きをカメラが追っている。