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教育は、進化する—— 「学び」と「つながり」をささえるオンライン授業最前線

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緊急事態宣言からわずか1週間でのオンライン授業

「卒業式は参列者を各家庭1名に限定してオンライン中継も行いましたが、入学式はコロナの影響で実施できませんでした」

こう語るのは東京・自由が丘にある私立玉川聖学院中等部・高等部の櫛田真実(くしだ・まさみ)中高等部長だ。玉川聖学院は2020年に創立70周年を迎える、伝統あるミッションスクールだ。

2020年4月7日の緊急事態宣言を受け、学校という学校が「登校して教室で授業を受ける」という、これまでの当たり前を続けることが難しくなった。

そんななか、玉川聖学院は緊急事態宣言からわずか1週間後の4月13日には高等部でのオンライン授業をスタートさせ、中等部もその10日後にオンライン授業が始まった。

なぜ、ここまで素早い対応ができたのか?
コロナ禍で「ウェブ会議システムプロジェクト」のリーダーを務めたのは、高校3年のクラス担任を務める情報科の大沼祐太先生だ。大沼先生にオンライン授業開始までの道のりを聞くと、教員たちの奮闘をうかがい知ることができた。

櫛田真実中高等部長(左)と大沼祐太先生

教員たちが見せたチーム力

大沼先生が残していたメモがある。それによると、緊急事態宣言前から日々刻々と変化する状況下で、綿密な準備があったことがわかる。


4月4日の段階で、すでに生徒向けのマニュアルを作成し、全生徒に配布されていたiPadにウェブ会議ツールのWebex Meetingsをインストールし、4月に入学した新入生にも1台ずつiPadを配送していたというから驚きだ。4月10日には、高等部で遠隔ホームルームを開催し、各家庭の接続環境を確認した。ネット環境が不安定な家庭にはポケットWi-Fiを配布した。教員は授業開催マニュアルをつくり、また教員同士でオンライン授業についての疑問点を書き出して回答を作成し、情報共有をおこなった。

教員が一体となり考えられる万全の体制を整えたことで、生徒にも教員にも混乱が生じることなく授業がスタートした。大沼先生は「教員同士で科目ごとにチームを組み、これからの授業の進め方を考えていたことも大きい」と話す。

「当初はクラスごとの時間割通りに授業すべきという意見もありました。しかし慣れないオンライン授業を教員がひとりで担当するのは無理が生じることが予想できました。そのため最初は学年主任のクラス時間割を元に、複数のクラスが一つにまとまって授業をしました。そうすると一つの授業に複数の教員が入り、チームを組むことになるわけです。教員のなかにはITが得意な人もいれば苦手な人もいますので、お互いに学び合いながら授業をつくるスタイルにしました」

授業の様子を複数の教員が見て学び合う

20年前から力を入れてきたICT教育

これだけスムーズに進んだ背景として、玉川聖学院が20年前からICT教育に力を入れてきた学校だという点も大きい。

「2000年の校舎改築と同時に校舎全域にLAN環境の整備を行い、その後は全教室にプロジェクターを配備しました。2015年には高等部の生徒全員にiPadをひとり1台所有させるプロジェクトも開始しました」と櫛田中高等部長が話すように、学校全体のインフラを早期に整えていたからこそ、コロナ禍でもスムーズに対応できた。

実際にICT教育推進の中心である大沼先生は、「教育現場でICT活用の要となるのは、アプリよりもネットワーク環境の整備です。早い時期から高速で安定しており、かつセキュリティが万全なシステム環境整備の計画をスタートしました。そこで本校が採用したのは信頼度の高いシスコシステムズのサービスでした」と語る。情報系大学出身の大沼先生は、学生時代からシスコの製品を利用しており、その利便性、安全性などを熟知していたというのも導入のきっかけになった。

「女子校ですから、画面に多くの女子生徒が映るという点でも、ハッキングや情報流出が絶対にあってはいけません。セキュリティ重視がシステム環境の大前提でした。その点での信頼性は、世界的に見てもシスコに敵うサービスはありません」

玉川聖学院が現在利用するサービスは、チャットやファイル共有も簡単にできる「Webex Teams」とデジタルホワイトボードとして使える「Webex Board」、双方向授業にかかせない「Webex Meetings」、最大1000人へ配信ができる「Webex Events」だ。教職員の会議にはWebex Teamsを使用し、Webex Boardは、九州にいる学院理事長のバーナード・バートン先生とのやりとりにも使用している。櫛田中高等部長は「いつもWebex Boardでバートン先生と話しています。飛行機で来ていただいていたときよりも頻繁に話すことができています」と笑う。

2000年に改築された校舎

生活リズムを崩さないために

自宅からの授業だと「生活リズムが崩れてルーズになってしまうのでは…」と心配な点もあるが、玉川聖学院では生徒のために規則正しい生活をつくることを心がけている。

大まかな一日の流れは、次の通りだ。

朝8時20分にWebex Eventsで朝の礼拝が捧げられ、8時50分からWebex Meetingsで授業がスタート。授業時間は以前より10分短縮して40分としているが、午後まで授業が行われる。授業は、教員がWebex Meetingsで設定することで自動的に生徒にURLが送信される。質問がある生徒は休み時間にもオンラインに残り教員と話す。帰りはWebex Meetingsで連絡と生徒が順番に話す終礼で一日を終える。

Webex Meetingsの予定が並ぶカレンダーは、生徒にとって時間割。この規則正しい流れは、生徒たちの家族にとってもよい影響があるようで、櫛田中高等部長は「保護者の方からは、本校の生徒が一人いるだけで、家族みんなが一緒に朝起きてご飯を食べて礼拝に間に合うようにセットする、というリズムが家庭内にできて助かったという声がありました」と話す。

生徒のGoogleカレンダー

心のケアのために「生の授業」にこだわる

櫛田中高等部長は今回のコロナ禍でのオンライン授業について、次のように振り返る。

「緊急事態宣言により、国として経済を心配する声は多かったのですが、子どもの“心の健康”に関する話はあまり出てきませんでした。私たち教員が一番心配しているのは“生徒の心”です。生徒のなかには、心の弱い子もいますし、長期休校の中で、普段は元気な子でも進路やクラブ活動など将来が見えない中で不安を感じている子もいる。そういう子たちとのつながりを大切にしたかったのです。それが実現できるデジタル環境をまず考えていました」

ひとくちにオンライン授業といっても、あらかじめ作成した授業の動画を配信して生徒が視聴するスタイルなど、やり方はさまざまだ。玉川聖学院は「生の声、生の表情」を重視した。

理科の実験の授業中の様子

「ニュースで毎日流れるのは感染者数など悲しいニュースばかりでしたが、そういうときだからこそ、生徒へ神の愛を伝え続けていくことが大事だと思いました。毎朝リズムをつくって規則正しくオンライン授業を行い、生徒と教員でお互い表情がしっかり見えるようにして今までと同じように毎日声をかける。この期間に、これまで不登校でなかなか授業に参加できなかった生徒たちが出席できるようになったという出来事もありました。オンライン授業によって彼女たちなりのリズムができたようで、中にはとても前向きに、課題を一番に出してくれる子もいると報告を受けています」

クラスでのコミュニケーションが苦手な生徒や、普段は発言しづらい生徒も、チャット機能を使うことで教員と直接コミュニケーションをとることができる。これもオンラインならではのメリットだ。

教員たちによる生徒への応援プロジェクトも配信された

これからの教育に必要なこと

玉川聖学院では毎年4月に開催されていた体育祭が中止となり、新入生のオリエンテーションも中止になった。高校3年生の担任である大沼先生は、体育祭で演じる予定になっていた高校3年生の創作ダンスの発表をWebex Meetingsで開催できたと話してくれた。

「教室にプロジェクターと電子黒板を5枚ほど並べて生徒全員を映した状態にして、生徒たちはそれぞれの家庭から踊ってくれました。それを教員たちが観る。体育祭が中止になり見られないかと思っていたので、感動で涙が止まりませんでした」

高校3年生のダンス発表を教員たちは教室で鑑賞

家から出られないという状況下で、Webex Meetings により、教員と生徒、そして生徒同士の”つながり”が再確認できた。

大沼先生は言う。「教員の教育に対する熱意と努力、それにデジタルネイティブの子どもたちの適応能力と保護者の方のサポートのおかげです。それをシステム環境がささえてくれています」

緊急事態宣言解除後の6月3日からは、ようやく学年ごとの分散登校がスタートした。これからの授業について、櫛田中高等部長は次のように考えている。
「第二波、第三波が来たときのために、全てオンライン授業になった場合の時間割など複数のパターンを教員たちが懸命に作っています。万が一のために、どういう状況でも対応できるよう、いま準備をしているところです。私たちの学校はもともとグループワークや友人と協力するような”体験”を大切にする学校です。それを、今後はいわゆる”ソーシャルディスタンス”を取りながらやっていくわけですね。今回の経験で、デジタル環境の重要性にあらためて気づき、また直接会うということの尊さも再確認しました」

学校にとって何より大切なのは、子どもたちの学びの場をつくること。「どんなことが起きても、子どもたちの学びを途切れさせないために——」。玉川聖学院の熱い想いが見えた。

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