みんなが集いたくなるオフィス
港区の神谷町駅近くにあるPHONE APPLI。エントランスにはアロマの香りがふわっと漂い、森の環境音が心地よく響く。オフィスのしつらえは木目調で揃えられ、そこかしこにグリーンが並ぶ。エントランスから奥をのぞくと、アウトドアテイストのテーブルとチェアがずらっと並んだフリーアドレス席の奥に、ドーム型のテントまで張られていて——。
「オフィスは『集う場所』だと考えています。この考え方はコロナ禍以前と以後で出社比率が変化しても同じで、みんなが集うのであれば、みんなが気持ちよく仕事できる空間を作りたいと思っています」と話すのは、同社取締役副社長の中川紘司さん。「社員が最もパフォーマンスを発揮できる場所にしたい」。行き着いたのは普遍性があり、汎用性が高い「自然」をテーマにしたオフィス作りだった。
2018年2月に完成したPHONE APPLIの新オフィスは、CaMP(キャンプ=Communication and Motivation make Performance)の愛称がつけられている。ドーム型テントやチェアなど並んでいるキャンプ用品はすべて、アウトドアレジャーメーカー「スノーピーク」の製品。スノーピークビジネスソリューションズ協力のもと作られ、ショールームも兼ねているオフィスだ。テントやチェアが木目調のオフィスによく馴染み、また人工芝の上に大きなビーズクッションを配置しリラックスしたスタイルでコミュニケーションの取れるオープンスペースなど、目にも体にも心地よい環境だ。
「ルール」「ツール」「プレイス」という軸
PHONE APPLIは、連絡先をクラウドで一元管理して社内・社外の連絡をスムーズにするWeb電話帳「PHONE APPLI PEOPLE(旧・連絡とれるくん)」や、オフィス内で誰がどこにいるかを可視化してコミュニケーションの効率化をはかるサービス「PHONE APPLI PLACE(旧・居場所わかるくん)」など、テレワークにも最適なツールの開発と提供をしてきたIT企業。これらのツールを自社で活用したPHONE APPLIの新しい働き方を参考にしようと、同社が開くオフィスツアーに多くの企業が参加している。
新しい働き方が注目される同社が働き方改革に着手したのは、オフィス移転のおよそ1年前。「社員が100名を超えてコミュニケーションがうまくいかなくなった」のがひとつのきっかけだった。「製品の市場での売り方が変わってきたことも要因のひとつです。カタログを使っての営業が製品のクラウド化により価値が薄れてきました。そこで、働き方改革というひとつの柱をたて、自分たちの働き方もモデルケースにしてお客様に対して価値を出していこうと考えました」。いまでは、ツール開発のみならず、オフィスデザインや業務プロセスに関するコンサルテーションなど、各社の働き方改革をトータルで支える事業も展開している。
中川さんは生産性が上がるオフィス作りにおいて「ルール」「ツール」「プレイス」という3つの軸を大切にしていると言う。
「私たちはオフィス移転前の1年間、じっくりとルールとツールを考えました。ルールは良い案があればすぐに導入できますし、ツールもクラウド化により極端を言えば明日からでも変更することができます。ですからルールとツールでトライアンドエラーをした後に、理想のオフィスというプレイスを作り上げていきました。プレイスはコストも大きいので、ルールの後にツール、その後にプレイスという順番が働き方改革にとっても、オフィス作りにとっても大切になります」
PHONE APPLIの「ルール」「ツール」「プレイス」の関係を理解するためのわかりやすい例は、1on1だ。モチベーションアップや信頼関係構築のために上司と部下の毎週1回30分間の1on1というルールを作っていた。だが2017年頃には上司1人に対して30人の部下がいたため上司は週に10時間以上もの時間を割くことになってしまった。そこで部下の数は7人までにするという新しいルールを決めた。
ここでも柔軟なルール変更が行われているが、1on1でまた課題が生まれる。チームごとにモチベーションに差が出てきたのだ。上がったチームは上司が部下の話をよく聞いていたのに対し、下がったチームは多くの時間を上司が話していたことがわかった。
この課題を解決するのがツールだ。発話量をフィードバックするセンサーを導入した。「意外と自分がどのくらい話しているのかわからないものなんですよね。私も部下の話をよく聞いたと思っても80%くらい自分が話していることがわかりました(笑)。デジタルで可視化されるのはインパクトがあって、今では部下が話す割合が増えています」と中川さんは言う。
新オフィスでは1on1専用のコンパクトで遮音性が高い小箱のようなブースを設置して、気兼ねなく会話ができるプレイスをつくった。コロナ禍ではテレワークと出社の社員でも1on1を実現するために、シスコシステムズの高画質高音質の大画面モニターをセットした一人専用ブースも設置し、まるでリアルに対面しているかのような環境だ。
コロナ禍でのPHONE APPLIの取り組み
つねに働き方をアップデートしているPHONE APPLIだが、コロナ禍ではどのような働き方をしているのだろうか?
多くの企業は慣れないテレワークに悪戦苦闘していたが、PHONE APPLIの決断と行動はとにかく早い。新型コロナによる緊急事態宣言は4月7日だが、3月26日には全社員テレワークがはじまり、3月31日には社員の自宅のWi-Fi整備など「テレワーク環境手当」を支給した。
また社員のケアとモチベーションアップのために、中川さんは「困りごと・相談はないですか?」とコロナ禍でアンケートを送り続けた。そして、匿名で戻ってくるアンケートには柔軟に対応する。
「たとえばテレワーク開始3週目には、『寂しい』というような精神面についての声が多くあがるようになりました。そこで、毎日30分雑談の時間を設ける『雑談ルール』を新設しました」
さらに、社員同士のコミュニケーションを絶やさないために「Fun Fund」という制度をつくり、コミュニケーションを取り合う飲食代などの費用を会社負担にして精神面をケアしていった。物理的に離れていたとしても、人とのつながりや、褒めたり褒められたりできる環境作りを大切にしている。
テクノロジーで距離を縮める
すでに出社とテレワークが組み合わさったハイブリッド型の働き方が、企業文化として根付いているPHONE APPLI。この働き方にかかせないのが、高品質かつビジネスにかかせないセキュリティを兼ね備えたツールだ。チャットやウェブ会議、ファイル共有などがシンプルなUIで直感的に操作できるシスコシステムズのコミュニケーションツール「Webex Teams」や、モニターやカメラなどウェブ会議をサポートするウェブ会議デバイス「Cisco Webex Room」シリーズなどのツールを整備している。この高品質なツールが揃っているからこそ、テレワークでもオフィスと遜色なく仕事に取り組めるのだ。
「いまは65%の社員が『週1日出社を希望』という結果になっており、実際の出社率も社員に対して15%程度となっています」。ツールや環境が整ったオフィスで働きたいという社員も多いが、現在は一日の在席率を50%に制限している。「オフィスの在席率も可視化されています。シスコのクラウド管理ネットワークMerakiと弊社のPHONE APPLI PLACEを組み合わせることで、どの社員がオフィス内のどのスペースにいるかが誰でもひと目でわかるようになっているので、密も避けられますし、『あの社員に相談したいからあのスペースにいこう』と無駄も省けるようになっています」
オフィスを見渡すと、すべての会議室とオフィスの至る所にシスコのウェブ会議システムが設置されている。カメラ・モニター・マイクスピーカーが搭載されたシスコのウェブ会議端末は、タッチスクリーンで直感的な操作が可能で、オフィスのどのエリアにいても簡単にテレワーク中の社員ともコミュニケーションを取ることができる。中川さんは「ちょっと萩につなげますね」と言うと、山口県萩市のサテライトオフィスにワンタップでつなぐ。5k対応で発言者に自動でフォーカスされるカメラを使ったウェブ会議は、まるで会議室がつながっているような臨場感で、遠距離でも高画質高音質でミーティングが可能だ。中川さんは「よりいっそう、距離がなくなってきた感じがありますね。もしコロナがなかったら東京のメンバーと話すことが多かったと思いますが、コロナにより地方との距離がなくなりました。今は萩のメンバーと話すことのほうが多いかも」と笑う。現在萩にはアプリ開発センターがあるが、萩のメンバーも東京のメンバーとまったく情報格差なく仕事に取り組める。これも操作性でも機能性でもストレス0のツールが揃っているからこそだ。
現在は外国在住の社員やコロナ禍以前よりフルリモートの社員もいるが、萩のサテライトオフィス同様に、Webex Teamsなどのツールを使うことで心理的な距離感は感じていない。またコロナ禍に入社した社員が少しでも早く社内メンバーに顔を覚えてもらえるよう、オフィス内の壁にデジタルサイネージのCisco Visionを使ったプロジェクションマッピングで新入社員の自己紹介映像が流れている。これもコミュニケーションのひとつであり、新入社員へのケアのひとつでもある。
今後の「働き方」をアップデートするには
最高のオフィス環境を整えながらもルールとツールを活用してテレワークも定着するハイブリッド型の働き方をするPHONE APPLIだが、今後のアップデートについて中川さんに尋ねると、「次に考えているのは、社員の自宅に働きやすい環境を提供するためにはどうするか、ということですね」と言う。
「会社にとって、これまでは社員の自宅はアンタッチャブルな領域でした。しかしそこまで踏み込まないと、これからのニューノーマルには対応できなくなります」。社員の自宅での環境も整えようと今月から始めたのが、椅子の支給だ。主として働く場所が自宅になる場合、プライベートと仕事を切り分けるのは難しい。ただ、オフィス、自宅とわず、働く環境を整えるのが会社の役割と考えれば、今後は少し踏み込んで考えていくことも働き方改革のひとつだ。
「テレワークでとても大事なのは、まず『あなたの成果はこれで測ります』と明文化することだと思います。そしてそれ以上に大切なのが、コミュニケーションとモチベーションをあげるルールとツール。あとは離れていても『ありがとう』を言える環境を作ってあげることですね。これができればどの場所で働いても社員はイノベーションを起こすことができます。いまはコロナ禍で萩のオフィスにはなかなか行けないですが、もう少し落ち着いた頃にはワーケーションも計画しています」
コロナ禍で「会社に行かなくてもできる働き方」が増え、オフィスの意味が問い直されている。中川さんは「オフィスは雑談するためにあるんです」と言う。オフィスに出社すれば最高のコミュニケーションとコラボレーションの環境があり、テレワークでもコミュニケーションと快適に働く環境が整い、その方法は日々アップデートされていく。リモートとオフィスのハイブリッドを実現するPHONE APPLIのモデルは、「新しい働き方」を考える格好のヒントと言える。