「すごい! トレビの泉!!」。頭にバーチャルリアリティー(VR)用のゴーグルマスクをつけた男女4人の大学生が驚きの声を上げた。日本に緊急事態宣言が出される前の3月21日、東京・池袋にある体験施設「ファーストエアラインズ」を訪ねた(感染拡大にともない、同月29日から休業中)。
建物の一角に、国際線のファーストクラスで実際に使用されていた座席で旅客機の機内を再現。機内アナウンスや映像が流れて約2時間のフライトを疑似体験できる。目的地はイタリアやフランス、ハワイなど9カ所。「客室乗務員」のスタッフが、行き先に応じた料理をサービスするほか、VRを使うことで、実際に現地にいるような感覚を楽しめる。
料金は料理込みで5980円だが、悔しい思いをした学生のため、通常の半額ほどでサービスを提供する「卒業旅行プラン」も設定した。このプランを提案したのが「客室乗務員」として3月末まで働いた岡田瑞季(22)。やはりスペインなどへの卒業旅行をあきらめた。「少しでも学生最後の思い出作りにしてほしかった」と理由を語る。
最前列に座ってグループで盛り上がっていたのが横山賢人(22)と山崎政宏(23)。二人で3月初めにイタリアへの卒業旅行を計画していたが、搭乗予定の便が欠航になり断念。親から旅行禁止を言い渡された横山は、山崎のほかにバイト先の仲間ら2人も誘い、「気分だけでもイタリアに」と訪れていた。
イタリアで観光するはずだったローマのコロッセオやベネチアのサン・マルコ広場の映像を楽しみ、料理に舌鼓を打った横山は「イタリアへの気持ちはさらに強まった。落ち着いたら絶対に行きたい」と決意を新たにしていた。
実は私もシンガポールに出張する計画があったが、感染拡大に伴い中止せざるを得なくなった。そこで、一緒に体験してみることにした。
薄暗い機内で座席に腰を下ろす。それだけで日常から少し離れたような高揚感に包まれてきた。シート横のモニターには、窓からの風景が映し出され、轟音と振動を響かせながら離陸。ほかの客の歓声が聞こえると、仕事中とは言え、ちょっと楽しい気持ちになった。機内食や現地の映像で旅気分を味わった後は、少しは満たされた気がした。
このほか、スペイン南部のアンダルシア地方をイメージした志摩地中海村(三重県志摩市)や、イギリスの村を再現した湯布院フローラルヴィレッジ(大分県由布市)など外国の雰囲気を味わえる施設には、やはり例年以上に多くの学生が3月に訪れてにぎわったという。