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「在宅勤務義務化」で、ニューヨークで働く日本人たちの暮らしはどう変わったか

LifeStyle
ニューヨーク・ハーレムの郵便局。通達されている6フィート(180cm)をはるかに超える距離を保って列に並ぶ人々。局内には一度に10人ずつ入れる

新型コロナウイルスによる死者数は、国別ではアメリカが4.5万人と世界最多となっている。米国の中ではニューヨーク州が1.6万人と飛び抜けて多く、さらに人口860万人のニューヨーク市では1万人を超えた。加えて市は、検査を受ける前に自宅や老人施設で亡くなった5,100人を「おそらく新型コロナウイルスによる死亡」としている(4月23日現在)。

毎日が死と隣り合わせといっても過言ではない環境で暮らすニューヨーク市民だが、今以上の感染拡大および死者数の増加を防ぐために必死の努力を重ねている。必須業務以外はオフィスを閉鎖の上、全てテレワークとしているのも、その一環だ。

ただし、自宅にこもり、テレワークを行なっている限り感染を回避できるかと言えばそうではなく、少なくとも食料品の買い出しには行かねばならない。感染を避けるためにほかの人と6フィート(180cm)の距離を保つことを徹底するよう通達され、スーパーマーケットは一度に店内に入れる客数を制限している。そのため、外で列に並ばなければならない。以前はごく当たり前に行っていた日常の行動が、今では心身にとって非常に大きな負担になっている。

市民が集まり、かつ幼児が遊具を舐めて感染する危険性もあることから閉鎖されたニューヨークの児童公園とバスケットボール・コート

食品調達にはネットショッピングも活用されているが、品薄かつ物流の停滞で、到着日が読めない。加えてスーパーにせよ、ネット購入にせよ、入手した食品は包装を消毒ワイプで拭いてから冷蔵庫や棚にしまう人が増えており、その消毒ワイプも入手困難になっている。

こうした日々の大きなストレスを抱え、かつ24時間走り回る救急車のサイレンを聞きながら、人々はテレワークという新たな挑戦に挑んでいる。ニューヨークやその近郊に勤務(していた)、もしくは居住している3人の日本人に、テレワーク事情を聞いてみた。

登場いただくのは次の3人だ。

・内藤陽子さん:日系の人材紹介会社TOP NYの上級コンサルタント。業務内容は就職希望者や顧客企業へのコンタクト、採用候補者との面接など

・Mさん:ペンシルバニア州にある大学のアカデミック・アドバイザー。学生と一対一のカウンセリング(履修科目のアドバイス、取得単位のトラッキング、学内リソースの案内など)を仕事にしている。

・鈴木奈緒さん:フリーランスのグラフィック・デザイナー。コンピューターを使っての新聞、広告、ウェブのデザインが仕事だ。

内藤さんとMさんは今回のコロナ禍でテレワークを始めた。鈴木さんはフリーランサーとして以前より自宅でテレワークを行なっている。

グラフィックデザイナーの鈴木奈緒さん。愛猫が仕事の "邪魔" をすることもあるが、すでに一ヶ月を超えたロックダウン下では大きな慰めとなっている

内藤さんは自宅での仕事に私有のラップトップを使っている。デバイスを持たない社員には勤務先が貸与した。現在はメールやチャットツール、ウェブ会議ツールで仕事をしている。個人の携帯電話を業務に使わないよう会社から通達が出た。自宅で個人契約しているインターネット回線を使うことになるが、会社が何らかの補助を出す予定だそうだ。

大学のあるペンシルバニア州で一人暮らしをしていたMさんは、アパートのwifiアクセスが不安定だったことから、ネット環境の整ったニューヨーク市内の家族の家に移動し、以後ニューヨークから主にウェブ会議ツールを使いながらテレワークを続けている。テレワークの徹底化で、さまざまなウェブ会議ツールが普及した。セキュリティー上の問題も指摘されている。IT関連に詳しい鈴木さんは、セキュリティーにも気をつけながらツールを使っているという。

■リモートで心を読み取る苦労

業務の主な内容が他者とのコミュニケーションである場合、リモート環境で不十分さを感じることもあるようだ。

内藤さんは上級コンサルタントとして、社員への指導助言も業務の一環だ。部下や後輩からは「顧客や候補者と話していて困った時、すぐに横から助けてもらえないので不安」という声を聞いている。部下たちの不安にこたえるため、「少し元気のなさそうな人にはビデオ通話ツールを通して顔を見ながら話すなど、密にコミュニケーションを取るようにしています」と言う。

大学アカデミック・アドバイザーのMさんは、普段は個室のオフィスに学生を呼び、PCの画面で学生のデータを見ながらセッションする。現在は自宅のPCにデータ画面を開き、学生の顔はモニターの隅に「消しゴムくらいのサイズ」でしか写せない。

Mさんは普段のカウンセリングでは「学生の手の動きや姿勢など、言葉と表情以外のボディランゲージ」からも学生の内面を判断している。今はそれが読み取れないだけでなく、「家庭環境、経済状況が画面の背景からみてとれるため、ビデオをオフにして音声のみで話す学生もいます」とのこと。Mさんは、家族にカミングアウトしていない性的マイノリティの学生たちが、どれほど正直に話ができているかをとりわけ憂慮している。

■オンオフの切り替えが重要

ニューヨークでは店舗閉鎖に伴い、強奪などを恐れて板を打ち付けている店も。ハーレムでは、そこに早速グラフィティが描かれている

テレワークであっても就業時間が定まっている企業勤務者とフリーランスでは時間管理が異なり、異なるメリットとデメリットがある。

内藤さんは「片道1時間の通勤がない分、自由になる時間が増えました」。新型コロナウイルスは中国から感染が広がったことで米国ではアジア系への差別事件が頻発している。Mさんは「通勤中に非アジア人から凝視されることもあり、その不快感がなくなりました」とテレワークを歓迎している。

テレワーク歴の長い鈴木さんは「スケジュール管理次第で自由な時間がより多く持てます」としながらも、「オンとオフの切り替えを意識しないと、起きてから寝るまで仕事モードのまま終わったり、逆に仕事に集中できないままで終わることもあります」と言う。

それを防ぐために「ビジネスアワー、特に終業時間をきっちり決めており、夕方5時以降は業務しない、メールの返信もしない」など工夫している。だがこれまでオフィス勤務だった相手からは就業時間以外にもメールが届くようになった。鈴木さんは「外に出られず、コンピューターやスマホに向かう時間が長くなったからでは」と推測している。

■今後にも活かせるテレワーク経験

テレワークが増えていく日本社会に、どんなアドバイスができるだろうか。内藤さんは「コロナ禍は命に関わる問題なので、できる、できない、ではなく、何としてもテレワークにする、という前提で、個々の会社でアイデアを出して対応してほしい」「今回の強制的な在宅勤務への切り替えが今後の災害時にも活かせるはず。台風の日に2時間かけて通勤するくらいなら、自宅から8時間集中して業務に当たる方が生産性が上がるでしょう」と言う。

Mさんは「テレワークになることで、こなせる業務量に個人差が生じることをあらかじめ知っておくと良いでしょう。アメリカでは個人のキャパシティとモチベーションに違いがあることは、テレワーク移行前からの共通認識です」と言い、他国でテレワークをする友人の具体例を挙げた。

「イギリスで民間企業勤務の友人は、1歳と5歳の2児を手元に置いてテレワーク。就業状況の監視のためか、2時間おきにビデオでの短いミーティング。子供の相手とミーティングに時間を割かれ、業務に集中できるのは家族が寝静まった夜中。とうとう先日、こんな働き方はできませんと上司に伝えたそうです」「様々な事情で一人の空間が確保できない環境での業務は、本人がどれだけ努力してもオフィスで働いていた時と同様には進みません」

Mさん自身、現在は家族の家に暮らしており、「業務と無関係の日常会話や生活音が気になります」と言う。

鈴木さんは「この危機が過ぎ去った後も、部分的にせよ、テレワークを続ける業種が増えるのではと考えます。これまでテレワークを想像もしなかった業種も必死でリモート対応した結果『なんだ、できるんだ』と気付くはず。そうなればオフィスに拘束される生活には戻れません。通勤などの無駄な時間を削って、プライベート時間を有意義に過ごす生活に変化すると思います」

「ただし通勤時間やオフィスでの同僚とのおしゃべりは無駄が多いと思う半面、気晴らしにもなります。それがなくなると結構なストレスかもしれません。リモートに切り替える際に必要なデバイスだけでなく、気晴らしになるものも準備すると良いでしょう。音楽やアロマ、お気に入りのマグカップ、鉄アレイなど、仕事の合間にちょっとリラックスできそうなもの」

業務内容もテレワーク手法も異なる人々が、それぞれに工夫を凝らし、自身のストレスと折り合いをつけながらテレワークを続けている。自身と家族、地域社会、ひいてはアメリカという国自体、さらにはグローバル化で繋がる全世界を過酷なコロナ禍から守るためだ。

専門家が長期にわたるだろうと推測するコロナ禍。終焉はまだ見えないが、個々人、各企業が「Stay home」を地道に守り、かつ経済を持続するためにテレワークを続けることが、収束時の速やかな社会復興につながるだろう。

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