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新型ウイルスとの戦いに投入された米海軍の病院船とはどんな船か

ミリタリーリポート@アメリカ
米海軍の病院船「コンフォート」(写真:米海軍)

新型コロナウイルス感染拡大は東アジア地域に限定されているものであるとみなしていたトランプ政権は、2月末にアメリカ西海岸ワシントン州で感染拡大が始まると、ようやく本格的な対策に乗り出した。

3月に入るとワシントン州だけでなくカリフォルニア州やニューヨーク市でも急速に感染拡大が確認され始めたため、トランプ政権は挙国一致態勢、すなわち全ての連邦政府機関、連邦議会、各州政府機関、軍組織そして国民が協力して「対ウイルス戦争」に打ち勝つための態勢をさらに一層強化するよう呼びかけた。

それをうけて、米国防当局も米軍が有する諸資源を可能な限り対ウイルス戦争に投入するために、政府機関や民間組織と具体的調整を開始した。米軍は恒常的に世界各地の軍事紛争地域に展開し戦いを繰り広げ続けている戦闘部隊である。そのため、常に戦闘出動態勢を維持しておかねばならない。したがって、日本の自衛隊と違い、国内での非戦闘任務に出動するのは特殊なケースとされている。

3月17日、国防総省そして海軍当局は、シアトルやニューヨークそれにロサンゼルスなどの新型コロナウイルス感染が急激に拡大している沿岸域都市部に対して、海軍病院船を派遣する方針を打ち出した。

■病院船は何のためにあるのか

外敵がアメリカ領域に侵攻してくる以前に外敵を打ち破ることを国防戦略の大原則に据えているアメリカでは、外敵が本拠地を進発する以前にその敵軍を敵本拠地で撃破してしまうことが理想とされている。敵軍が出動できなければ100%アメリカは安全だからだ。そのため、アメリカ軍は世界中に兵力を送り込んで戦闘に勝利できるような外征システムをバックボーンとしており、そのための戦略、組織、装備を構築し維持している。

このようにアメリカを遠く離れた地域で戦闘することを前提にしているアメリカ軍は、将兵の命をできるだけ守るために、戦地あるいは戦地近接地域に展開できる各種の遠征医療システムを保持している。その一つが、海軍病院船である。

アメリカ海軍はマーシー級病院船を2隻、「マーシー」(MERCY:慈悲)と「コンフォート」(COMFORT:癒やし)を運用中である。両船とも海軍海上輸送司令部の指揮下にあり、海軍が保有している。だが、USSと分類される戦闘艦艇ではなくUSNSと分類される補助艦艇に含まれており、通常は少数の民間人要員によって保守運用されている。

米海軍海上輸送司令部の病院船「マーシー」(写真:米海軍)

両船ともタンカーを改装して生み出された大型船で、最大排水量はおよそ7万トン(メトリックトン)である。出動時には60名程度の民間人要員、約1000名の海軍医療要員、それに200名程度の海軍支援将兵が乗り組んで作戦行動を実施する。

それぞれの病院船の最大収容患者数は1000名で、それぞれ1000の病床には集中治療病床80床や中間治療病床280床などが含まれている。このほか手術室が12室、集中治療室、火傷治療室、減菌室、CTスキャン装置を含む各種放射線設備、病理学設備、歯科設備、眼科設備、血液バンクなどの医療設備のほか、2基の酸素製造装置、真水製造装置、医療装置用自家発電機、それに患者用ランドリー設備や霊安室などが設置されている。

米海軍の病院船「マーシー」のCTスキャン装置(写真:米海軍)

■「ウイルスとの戦い」での役割

このように強力な医療システムを積載しているマーシー級病院船ではあるが、アメリカ海軍の一員であるため、外地で戦闘を展開するアメリカ軍部隊の負傷者や病人を収容し治療を加えて後方の安全な病院に送り届けることが、病院船にとっての第一義的使用目的であることは言うまでもない。

実際には、海外で発生する大規模自然災害などに際して派遣され人道支援活動に従事するケースが多いが、あくまでもマーシー級病院船が対応するのは、戦地での傷病将兵であり、そのための各種設備と医療スタッフ(ただし今回の出動に際しては、小児科と産科は準備されていない)が乗り組んでいるのである。

したがって新型コロナウイルス対策に軍の資源を投入する議論が開始された際に、「感染症対策が全くとられていない病院船にはCOVID-19患者を収容するわけにはいかない」と言う理由で、病院船の活用を疑問視する声がないわけではなかった。

もちろん病院船に新型コロナウイルス感染者を収容することは絶対避けねばならないのではあるが、病院船は大いにウイルスとの戦いに貢献することが可能である。すなわち、病院能力がパンク状態になってしまっている都市の港湾に接岸した病院船に、新型コロナウイルスやその他の感染症ではない病気や怪我による入院患者を転送することによって、都市病院の病床は最大1000床をCOVID-19患者に振り分けることができ、医療スタッフの負担も軽減することになるのだ。

3月17日に出動命令が発せられた海軍病院船マーシーはカリフォルニア州のサンディエゴ海軍基地を、コンフォートは東海岸のバージニア州ノーフォーク海軍基地をそれぞれ母港にしている。

当初マーシーは、多数の死者が発生しているシアトルに向かうものとみられていたが、シアトルには陸軍医療部隊の2、3個部隊が投入されることになり、マーシーはシアトルと並んで感染者が集中しているロサンゼルスを救援することになった。

一方、東海岸のコンフォートは急激に事態が悪化しているニューヨークへ向かうことになったが、出動命令が発せられた時点ではあと数週間が予定されていたメンテナンス中であった。

両船とも、通常は少数の民間人要員だけで保守運用されている。このため海軍当局は、病院船に乗り込んで支援出動する医療スタッフ計2000名近くを、海軍関係の医療機関や予備役要員などから緊急にかき集めなければならなかった。

何といっても病院船は海軍に所属しており、ウイルスとの戦いへの出動も海軍の作戦行動である。あらゆる軍事作戦にとってスピードが成否を左右することは言うまでもない。そのため、規定どおりに5日以内に両船ともにそれぞれ1000名近いスタッフを乗り込ませて支援態勢を確保した。

マーシーは3月23日にサンディエゴ海軍基地を出港し、船上で医療スタッフや支援将兵の最終的トレーニングを実施しながら北上し、3月27日、ロサンゼルス港に到着した。一方、コンフォートのメンテナンスも突貫工事で出動可能状態に持ち込み、3月28日、ノーフォーク海軍基地を出港。3月30日にはニューヨーク港に到着した。

マーシーとコンフォートの活動状況とその成果は、「海上自衛隊も病院船を持つべきなのか?」といった議論とともに、追って紹介したい。