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劇的に改善してきたイギリスの食が、ブレグジットで破壊される

マイケル・ブースの世界を食べる 更新日: 公開日:
北村玲奈撮影

2016年6月、世界中と同様に日本のみなさんも困惑の中にあったことと想像する。英国にとって加盟以来、事実上いい結果しかもたらさなかった27カ国の隣国との経済同盟を去る。そのことについて英国民が投票し、賛成52%、反対48%の結果となった。自爆としか思えないこの事態、一体どう説明すればいいのだろう? 何が起こったのか?

早い話、与党・保守党の裕福な観念的過激論者が議会の議事を乗っ取り、推進力を失っていたキャメロン首相(当時)に国民投票を強要した。キャメロン氏はEU残留派が勝つと思っていたが、結局、離脱派が勝った。有権者にウソをつき、選挙に普段行かないような人々に狙いを定めて、「支配権を取り戻せ」といった意味のないスローガンで鼓舞してだ。

例のごとく、私は食というプリズムを通しブレグジットを見る。ブレグジットの議論の中で、食はどんな役割を果たしてきたのか。EUとの貿易協定締結に向けた交渉の場では、どんな役割を果たすのか?

EUについての離脱派のウソの中でも多くの人が懸念したのが、英国の食に対する脅威だ。EUは我々の魚を盗み、我々のソーセージを禁じ、曲がったバナナを違法にしようとした。いや、待て。まっすぐのバナナだったか、思い出せない。いずれにせよ、ばかげた話だからどうでもいい。ウソの中にはジョンソン現首相が作り上げたものさえある。英紙デイリー・テレグラフのブリュッセル特派員時代、EUについて彼が報じていたものがそれだ。

首相になるための政治キャンペーン中、彼は食というテーマに回帰した。討論会での演説中には、ニシンのくんせい(ニシンは特にスコットランドの伝統的な朝食によく出される)を振り回し、EUのルールが魚の輸出入にダメージを与えると訴えている。本当のところ、このルールは英国政府によって導かれたものだったのに。

食の安全が脅かされる

ばかばかしいことだが離脱派は、戦争時代の魂を呼び起こそうとした。彼らは叫んだ。自分たちの食べ物は自分たちでまかなう! 輸入品はいらない! 現実は、英国は自給自足できる状態からほど遠いし、この先も無理だろう。実際にこの先、米国や他の国と新たな貿易協定を結ぶために、英国はEUよりも低い食の水準を受け入れなければならないだろう。

最も知られた例が、米国が売ろうとしてくる、塩素消毒された鶏肉だ。EUでは禁じられている。排水口の掃除や市民プールでしか使わないもので鶏肉が洗われている事実を言いたいのではない。重要なのは、こうした米国産の鶏肉は飼育方法上、かなりの菌に汚染される。抗生物質やホルモン剤、ステロイドを注入し、消毒剤で洗浄する必要がある。米国はEUよりはるかに食中毒件数が多く、結局、塩素処理は機能していない。

日本の多くのみなさんの、英国の料理や食品に対する評価が低いことは経験上知っているし、理解できる。偉大な評判があるわけではなく、失うものは何もないと言う人はいるかもしれない。しかし、この20年で我が故郷の食風景は劇的に改善した。伝統的な農業は戦後の工業化で縮小し、女性の労働市場参加で食の伝統の多くが失われた(もちろん、働く女性が増えることが悪いと言っているわけではない。単に現状を述べている)。それがここ数年、英国固有の食文化や食品の品質に対する関心が非常に高まっている。

これをブレグジットは脅かしている。そのほかにもたくさんある。離脱派が追い返そうとする外国人労働者に依存する農家やレストランも、質の悪い食品により何百万人もの健康や福祉も脅かされている。隣国との関係もだ。これらは全部なんのため? 個人的には、ブレグジットのいい面を聞いてみたい。なぜなら今のところ、誰の口からも聞こえてこないから。(訳・菴原みなと)