ホテルが単にベッドやデスク、そしておそらくミニバーを意味した時代は過去のものになった。宿泊施設の新しい波は、はてしなく圧倒的にインスタ映えするユニークな体験を提供することで、従来の宿に対抗している。ガラスイグルーでくつろぎながらオーロラを見たいのか?それとも、透明のカプセルに入って必死になって崖にしがみつきたいのか?
最近は、そうしたことがすべて可能になっている。もちろん、それなりの料金はかかる。
野生動物に近づく――本当に近くへ
アフリカには、この大陸のすばらしい動物たちに限りなく近づきたいというゲストのために豪華なサファリロッジが点在している。他よりも、もっと近づけるところがある。ザンビアのムフウェ(Mfuwe)は、二つの大きなラグーンの周りに18のシャレー(訳注=山小屋風の家)が配置されたロッジで、夕方遅くにやって来るゾウを見るには最適の環境がつくられている。
しかし、動物にぐっと近づける場所を提供している大陸はアフリカだけではない。タイのバンコクにあるアナンタラ・ゴールデントライアングル・エレファントキャンプ&リゾート(Anantara Golden Triangle Elephant Camp & Resort)のジャングルバブル(Jungle Bubble)は、透明のバブル(訳注=この場合はシャボン玉型の宿泊施設)で、そばを通るゾウを見ながら一夜を過ごす機会を提供する。
米国在住なら、動物に接近するために遠くまで旅行する必要はない。ニューヨーク州ワトキンズ・グレンのファーム・サンクチュアリ(Farm Sanctuary)では、小さなハウスを予約すれば、虐待や酷使から救出された家畜800頭の一部と触れ合うことができる。
ムフウェロッジは1人400ドルから。ジャングルバブルはダブルルームが567ドルからでリゾート代もかかる。ファーム・サンクチュアリはダブルルーム1泊275ドルから。
四季を通じて根強い人気のツリーハウス
そこが世界のどこであれ、ツリーハウススタイルの宿泊施設に泊まれるチャンスは十分にある。ブラジル・アマゾン地域のアナビルハナス・ジャングルロッジ(Anavilhanas Jungle Lodge)は、ネグロ川を見下ろすアマゾンのキャノピー(訳注=アマゾン熱帯雨林の林冠)にある快適な宿泊施設だ。北スウェーデンの松林にある高い木々の上方のツリーホテル(Treehotel)は、ゲストを外側が鏡張りで立方体をした部屋や樹上のキャビンに泊まらせるが、その一つは形がUFOに似たものもある。
南アフリカのクルーガー国立公園の一角には、今年2月オープンの新しいアンドビヨンド・エンガラツリーハウス(& Beyond Ngala Treehouse)がある。客は低木に囲まれた専有地内の樹上の部屋に滞在し、そこから車で野生動物を見るサファリにでかけることができる。
コスタリカにある一風変わったツリーハウスは、ホテル・コスタベルデ(Hotel Costa Verde)だ。そこはお役ご免になった飛行機をジャングルキャノピーの中に再建したもので、客はその飛行機に泊まるのだ。旅行客の中には、ツリートップよりもさらに高い場所に行きたいという人もいる。ペルーのスカイロッジ・アドベンチャースイート(Skylodge Adventure Suites)へは、客は1300フィート(約400メートル)を超える高さまでハイキングをしてくるか、ジップライン(訳注=岩肌に張られたワイヤロープ)を次々とスーパーヒーローのように伝い歩きして行く。そこの部屋は「聖なる谷」の全景を望む崖にかけられた透明のカプセル型だ。
アナビルハナス・ジャングルロッジはパノラマスイートの部屋が1人325ドルから。ツリーホテルはダブルルーム540ドルから。アンドビヨンド・エンガラツリーハウスは1人695ドルから。ホテル・コスタベルデはダブルルーム260ドルから。スカイロッジ・アドベンチャースイートは交通費込みで1人467ドルから。
海中に泊まる
高地ではない場所? それなら、水の中での体験を提供する宿泊施設という選択肢もあり、海中深い場所へと行くこともできる。モルディブのコンラッド・モルディブ・ランガリアイランド(Conrad Maldives Rangali Island)には、インフィニティープール付きで海中16フィート(約5メートル)に達する2階建てのムラカ(Muraka)がある。
タンザニアのザンジバルに近いペンバ島沖のザ・マンタリゾート(The Manta Resort)では、執事がボートで同リゾート専用の水中島(訳注=海に設けられた建物の部屋の一部が海の中にある)まで客を迎えに来てくれる。また、米フロリダ州のキーラーゴでは、スキューバの認定書を持っている旅行客なら潜って行き、海底のジュールス・アンダーシーロッジ(Jules’ Undersea Lodge)に宿泊できる。
コンラッド・モルディブ・ランガリアイランドは9999ドルから。ザ・マンタリゾートは最低3日以上の連泊で、ダブルルーム1泊1900ドルから。ジュールス・アンダーシーロッジはシングルルーム675ドルから。
ヒュッゲを味わうホテル
世界で最も寒冷な場所のいくつかに突然出現した一連の新しいホテルは、居心地の良い満足感というデンマークの考え方「ヒュッゲ(hygge)」を味わう機会を提供している。カナダのニューブランズウィック州にあるシエロ・グランピング・マリタイム(Cielo Glamping Maritime)では、ゲストは森の中のドームで寄り添うことができる。そこからは、雪に覆われた日没の景色がよく見える。寒さを感じずにオーロラをながめてみたくはないか? フィンランドのカクスラウッタネン・アークティックリゾート(Kakslauttanen Arctic Resort)は、そうした人向きに設計されている。ベッドに寝そべってオーロラをながめるためのガラスイグルーと雪の吹きだまりを掘った洞窟のスノーイグルーが目玉だ。そこはおしゃれなゲレンデの花たちにとって完璧な場所である。
ゴビ砂漠のど真ん中にいるとすれば、環境に優しいスリーキャメルロッジ(Three Camel Lodge)に滞在するのがいい。ゲルと呼ばれるモンゴルの伝統的なテントで、ラクダの毛でできたブランケットで暖かく過ごすのだ。
シエロ・グランピング・マリタイムはダブルルーム2泊で311ドルから。カクスラウッタネン・アークティックリゾートはガラスイグルーが566ドルから。スリーキャメルロッジは3食とアクティビティー(遊覧など)、交通費込みで1人1千ドルから。
ロイヤルナイトという選択
そして、動物にもツリーハウスにも、はたまた寒冷地にも魅力を感じないというなら、いつでも王宮という選択肢がある。インドのムンバイの有名なタージマハールパレス(Taj Mahal Palace)の名を耳にしたことがあるかもしれない。1903年以来、ぜいたくな観光旅行を象徴してきた代表的なホテルだ。知らなかったかもしれないが、インドのジャイプールには同地のマハラジャ(藩王)の館だった王宮の一つ、スジャン・ラージマハールパレス(Sujan Rajmahal Palace)があり、そこの部屋を予約できる。また、英国王族の雰囲気の一端を味わうなら、ザ・ヌート・イン・サマセット(The Newt in Somerset)にチェックインすること。領主の大邸宅のイングリッシュガーデンを散策し、屋敷でお茶を飲むことができる。あるいは、スカンディナビア流を堪能するには、デンマーク・コペンハーゲンのニムホテル(Nimb Hotel)を試してはどうか。1909年築の城郭で、ムーア建築に触発された外観を有する。
タージマハールパレスはダブルルーム314ドルから;スジャン・ラージマハールパレスはダブルルーム771ドルから。ヌート・イン・サマセットはダブルルーム343ドルから。ニムホテルはダブルルーム440ドルから。(抄訳)
(Shannon Sims)©2020 The New York Times
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