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観光の世界的専門家が教える オーバーツーリズム対策、いくつものヒント

Travel
国連世界観光機関(UNWTO)上級部長のマニュエル・ブトレール氏=2019年12月、京都市

――いまオーバーツーリズムへの対応が世界的に議論になっています。

まず私は「オーバーツーリズム」という流行語にあまり賛成しません。いま問題になっているのは、多くの場合、観光客の集中や混雑にどう対応するかというマネジメントの問題です。つまり「観光客の集中への対応」が問題なのです

この現象は最近になって目立ってきたもので、慎重に考えなくてはいけません。

まず大前提は、旅というのは地元のコミュニティーの福祉に貢献するものでなければならない、ということです。同時に私たちには旅をする権利があることを考えなくてはいけません。昨年9月のUNWTOの総会では、参加国が(観光を受け入れ国に役立つものにすることや、観光する権利の保障などを定めた)世界観光倫理憲章を、(法的な縛りのある)枠組み条約とすることに賛成しました。つまり、地元の福祉と旅行者の人権をいかに調和させるかということが鍵なのです。

――では集中のコントロールはどうしていけばいいと考えていますか?

ひとつはっきりしていることは、ひとびとの認識と現実に乖離があることです。私たちはさまざま都市の住民を対象に調査をしています。そこで分かったことは、観光客の集中による問題はある都市の特定の場所で起きていることがほとんどなのに、都市全体に広がっているように思われてしまっていることです。
たとえばバルセロナでの調査によれば、市民に大きな問題はなにかと聞けば2番目か3番目に観光客の問題が上がります。ところが、観光問題が回答者個人に与えた影響の大きさを聞くと、その個人の抱えている問題の中では10番とか15番とかいった順位になるのです。つまり、市内のごく特定の地域で起きていることへの認識が、増幅されてしまっているのです。

――たしかにSNSなどでは混雑の問題が拡散されがちです。

ある特定の時間に起きたことを、あたかも1年中起きているように増幅するのです。これはとても危険なことです。さらに一部の過激な市民の認識が、ほとんどの市民はそう考えてもいないのに広がっているという問題もあります。ですから、まず旅は人権だと認識されなければいけません。健全な観光というのは常に、平和のもとで、旅先の人々を理解することなのです。

2019年12月に京都で開かれた国連観光文化会議

――現実には、多くの観光客は地元を理解するというよりも、写真を撮ってSNSに上げたいだけでは?

そこで、観光客がなんのために来るのかが問題になります。旅とは、ある特定の地域を、特定の期間に、特定の目的を持って訪れるものです。たしかに中には適当ではない場所で、適当ではない行動をする観光客もいるかもしれません。しかし、もしも予防的な政策が採られれば、状況はかなり改善すると思います。

――予防的な政策とはどういったものでしょうか。

たとえば、旅行者の流れは場所によっても違いますし、季節によっても違います。時間帯によっても違います。そこで、これらをうまく調整する方法を考えています。京都はこうした政策に成功した都市のひとつでしょう。

そのためにはプロモーションが非常に重要だと思っています。全方位にプロモーションするのではなく、この観光客にはここ、この観光客にはここ、とターゲットを分けていく。それは観光地にもいいことだし、観光客もより高い満足度を得られるでしょう。とくにミレニアルと呼ばれる若い世代は、単に何かを見るだけでなく、新たな体験やふだんとは違った暮らしをしたいと考えているからです。

また、テクノロジーを使って観光客が集中する場所への影響を軽減し、人の流れをコントロールすることもできるでしょう。スマートフォンなどのデータを使い、地図上に観光地や道路の混雑状況を示して、ほかの目的地を勧めるといったことです。

観光客で混雑する京都・清水寺前

――中には、観光客お断りといった声もあります。

それは前向きとは言えません。だれも、人にどこかに行くなということはできません。それは人権なのです。

――しかし観光客には地元のマナーを理解しない人もいます。国連の観光文化会議でも、京都市長がマナー違反の問題を指摘していました。

京都での取り組みのように旅行者に「すべきこと、すべきでないこと」を教えるのは大事なことです。旅行者も、地元のコミュニティーを大事にしたいと考えているのですから。

――イタリアでは、中国から警察官を招いている例もあります。

とても意味のあることだと思います。スペインでも同様の取り組みをしています。たとえば、パルマデマヨルカにはかなり前からイギリスの巡査が来ていますし、フランスの警察も来ています。これは旅行者と市民との相互理解を進めるのに貢献しています。観光は国境を越えますから、対応も国境を越えていいのではないでしょうか。

スペイン階段で、階段に腰を下ろした観光客に立ち上がるよう促す警察官=2019年12月22日

――来る側と受け入れる側の相互理解が重要だということですね。

私たちは4月、観光都市の市長を集めて議論を重ね、「リスボン宣言」を出しました。この中のとても重要な考えは、観光客は「一時的な住民」だと考えるべきだというものです。観光客には、どのように行動すべきか、どうすれば地元のコミュニティーの一員になるかを考えてもらうということです。

――迎える側はどうすればいいのでしょう。

こうした取り組みは、双方向であるべきでしょう。だから観光客をいかに地元のコミュニティーに取り込むかが大事になります。京都では「外国人にやさしいタクシー」がありますが、これも旅行者を理解し、そして彼らとコミュニケーションをとるいい例だと思います。地元の価値観をより簡単に観光客に伝えることができるからです。

問題を解く鍵は、観光が社会に与える影響を考えることです。そして、それはここしばらく見過ごされてきたものでもあります。

――なぜでしょうか。

どうしても旅行産業の経済的な側面ばかりが注目されてきたからです。たとえば旅行業の影響を人数で考えることがあります。さらに収入で考えることもあります。収入を最大化しようと考えるわけです。以前は、こうしたマクロ経済的な側面が注目されていました。GDPにどれだけ貢献したかといったことです。
しかし、今ではその他のことも重要です。たとえば、大気や水、CO2やその他の温室効果ガス、そして社会的な影響です。いまでは住民の福祉に貢献しているかどうかが問われています。ここ数年、旅行業界はどんどん大きくなり、影響も大きくなりました。そのぶん責任も大きくなってきたのです。

Manue Butler Halter 1959年スペイン生まれ。スペイン観光機関や欧州観光委員会のトップなどを歴任し、2018年から国連世界観光機関(UNWTO)上級部長。