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ポケモンGOでカナダ軍基地に一般市民が 内部文書が物語る混乱ぶり

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
FILE -- A user plays Pokemon Go in New York's Central Park Central Park on July 11, 2016. After the app was available in Canada, the Canadian Armed Forces issued a public warning, urging civilians to avoid military property when searching for Pokémon. (George Etheredge/The New York Times)
ニューヨークのセントラルパークで「ポケモンGO」を楽しむユーザー=2016年7月11日、George Etheredge/©2019 The New York Times

ときは2016年7月、カナダの軍基地に、どこからともなく一般市民が車で入り込んできた。それもヘンな時間帯に。人びとは携帯の画面に気を取られながら、政府施設の中をうろつき回った。いったいどういうことなのか?

軍当局も、どう対処していいのか分からなかった。

そのころ世界各地で、「ポケモンGO」という、スマホを使った位置情報ゲーム、いわゆる「拡張現実(AR)ゲーム」がダウンロードチャートのトップに躍り出ていた。リリースされてからわずか数週間で、数百万人が「ポケットモンスター」というデジタルキャラクターを追いかけていた。立ち入るべきではない場所に入ってポケモンを追い求めた。

あの騒ぎから3年以上が過ぎ、カナダの軍当局者は同国公共放送CBCニュースネットワークに内部文書を公表した。不可解さと混乱の中、軍当局がいかにこの人気アプリに対応したのか、文書はそのいきさつを明かしている。内部文書によると――。

オンタリオ州キングストンにある基地駐在の少佐ジェフ・モナハンは、メールにこう書き記した。「守衛たちにアドバイスをお願いします。フォート・フロンテナック(訳注=キングストンの陸軍施設)はどうやら『ポケジム』と『ポケストップ』になっている。正直なところ、私はそれが何なのか分からない」

別々の基地に駐在していた少なくとも3人の警務隊員が、スマホとメモ帳を持って歩き回り、「ポケモン」、「ポケストップ」、それに「ポケジム」を探し出すよう命じられた(ユーザーはポケストップでモンスターボールを入手でき、そのモンスターボールを使ってポケモンを捕まえることができる。ユーザーはポケジムでトレーニングしたりチームに参加したりする)。

「この問題の解決を手助けしてもらうために、我々は12歳の子どもを雇ってもいいくらいだ」。オンタリオ州ボーデン基地のセキュリティー担当官デービッド・レベニックはそうメールで伝えた。ポケモンGOのアプリが出てから数週間後、カナダ政府当局も人びとの間に奇妙な行動が増えてきたことに気づいた。

ある軍事基地では、1人の女性が3人の子どもと一緒に戦車によじ登っていた。彼女はポケモンGOをプレーしていたのだった。

ノバスコシア州グリーンウッドの軍事基地の駐車場で、警官が「不審な動きをしていた」一台の車を見つけ、停車させた。だが車内で見つかったのは数人のポケモンの「追っかけ」だった。

ある基地では、1人の男性が立ち入りを阻止されたが、彼も同じアプリを使っていた。彼は自分の子どもたちより多くポイントを獲得しようとしていた、と軍当局者に弁明した。

アプリがリリースされて間もなく、カナダ軍は警告を出し、ポケモンを探す際には軍事基地を避けるよう市民に呼び掛けた。

その直後、カナダ軍国家調査局はすべての警務隊員に犯罪警戒情報を送った。「カナダ国防省及びカナダ軍の敷地や施設のいくつかの場所が、ゲームの目印(ポケストップとポケジム)と不思議なデジタル『生物』(ポケモン)の舞台になっていることが判明した」という内容だった。

CBCニュースは、その段階で情報公開を申請した。それから3年以上が過ぎ、カナダ国防省はこのゲームに関する471ページの内部文書を交付した。規定によると、普通なら60日以内に返答することになっているが、国防省報道官は、受け取ったリクエスト数が多く、見直しのプロセスが遅れたと明かした。

内部文書によると、ポケモンGOのゲーム及びそれによる市民の異常な行動は、カナダ全土の軍事基地でさまざまな反響をもたらした。

CBCニュースによると、ノースベイ基地(オンタリオ州)の当局者は、株式会社ポケモンと組んでポケモンGOを共同開発したスタートアップ企業Niantic Inc.(ナイアンティック)に対し、基地内に設定されたポケストップの位置情報によって「訪問客」が増え、基地本来の活動に悪影響を及ぼす、と苦情を申し立てた。

だが、そのほかの軍当局者たちは、基地内を歩き回る人びとが増えたことについて、もっと楽観的に見ていた。

「たぶん、もっと多くの人たちが基地のミュージアムを訪問するだろう!」。オンタリオ州ペタワワ基地の少佐アリシア・ソーシアはそう記した。

ポケモンGOは、現実世界とデジタル技術を融合させたARゲームで、プレーヤーはスマホを使ってモンスターボールやポケモンジム、そして日本企業が販売権をもっている風変わりなモンスターのポケモンを探すことができる。

ポケモンGOのアプリは、新規ユーザーに「ポケモンは地球上のあらゆるところで見つけることができる」と保証している。

それが問題を引き起こしたのだった。

デジタルキャラを探して、ユーザーたちは、記念碑や墓地、それに軍事基地を含め、これまで立ち入ったことのないような場所にまで群がって入り込んだ。ゲームに関連して負傷者や死者も出た。そうして世界各地で関係当局が警告を出した。

サウジアラビアでは、当局者がポケモンGOのアプリを「反イスラム」と呼び捨てた。ボスニア・ヘルツェゴビナでは、1990年代から国内に埋設されたままの地雷の近くでポケモンなどを探さないようプレーヤーに警告した。エジプトとロシアの当局者は、治安上のリスクになり得る、と警告した。

アプリがリリースされて1カ月後、米国防総省は米軍および他の防衛関係者に政府支給の携帯からポケモンGOを削除するよう呼びかけた。ユーザーがポケモンに気を取られながら歩いたり運転したりしていて、何人もけがをしているとの報告が相次いだ後の措置だった。(抄訳)

(Mariel Padilla)©2019 The New York Times

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