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王室メディア危機のさなか 「求む、エリザベス女王のSNS担当」

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Britain's Queen Elizabeth visits the new headquarters of the Royal Philatelic society in London, Britain November 26, 2019.    Tolga Akmen/Pool via REUTERS
ロンドンの王立郵趣協会を訪問した際のエリザベス英女王=2019年11月26日、ロイター(代表撮影)

それは、あなたが大手メディア企業やシリコンバレーのスタートアップ企業で探し求めている職位ではなかろうか。デジタル関連のトップ。年俸は最高で5万ポンド(1ポンド=145円換算で725万円)。無料のランチ付きだ。

ただ、#ootdと混同しないように。こちらは「今日の服装」のハッシュタグだが、求人の方はOBE。大英帝国勲章(Order of the British Empire)だ。

リンクトイン(LinkedIn、訳注=ビジネス向けSNS)によると、93歳の女王エリザベス2世が、ソーシャルメディア担当の責任者を探しているようだ。彼女には数百万ものフォロワーがいるが、王室のアカウントのコンテンツ開発や彼女のフォロワーとのやり取りを手助けする専門家を探しているというのだ。

求人のお知らせは2019年12月12日、リンクトインに投稿され、応募者は同サイトを通して王室のウェブサイトに通知される。年俸は経験により4万5千ポンド(同652万5千円)から5万ポンド。1週間の労働時間は月曜日から金曜日までの37・5時間としている。

求人投稿には「あなたの作るコンテンツを数百万人が見ることになります」「これは国民の目に映る英女王の存在感、国際舞台における英女王の存在感を維持するため、立ち止まることなく新しい方法を探る仕事です。だからこそ英王室の仕事には格別な意義があるのではないでしょうか」と記されていた。

この職位は、英国の君主にとってまさに激動の時期に求人掲載された。児童買春などで起訴された米資産家ジェフリー・エプスタインとアンドルー王子が親交を結んでいた疑惑で、王室は悪評の矢面に立たされている。エプスタインは起訴後の同年8月に自殺した。多くの人びとは君主の世継ぎについても関心を強めている。女王は、王室が抱える課題にもっと積極的に取り組むとみられるチャールズ皇太子に王位を継承させようとしている。

今回の求人については、バッキンガム宮殿が既存のソーシャルメディア担当の空白を埋めるためなのか、それとも新しい職位を設けたための求人なのか、今のところはっきりしない。宮殿では同年5月、デジタルコミュニケーションズ・オフィサーの欠員募集をSNSに投稿した。その際の給与はおおよそ3万ポンド(同435万円)としていた。12月12日に宮殿にコメントを求めたが、即答はなかった。

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バッキンガム宮殿でインターネットを通して会話をするエリザベス女王(右)とアンドルー王子=2014年6月9日、ロイター(代表撮影)

今回の応募の締め切りは、リンクトインの職務説明によると12月24日で、理想的な応募者は「知名度の高いウェブサイト、ソーシャルメディア、その他のデジタル形式の管理と編集」の経験者、と記していた。リンクトインによると、同月12日夕現在、45人が同サイトを通じて応募したという。

近代英国史が専門のボストン大学准教授アリアン・チャーノック(Arianne Chernock)に12日、インタビューした。彼女は、今回求人した職務は、王室のイメージ管理にソーシャルメディアが役立つという認識を示したものだ、と語った。

彼女は「王室はどうしたらメディアともっと積極的な関係を構築できるか模索してきたと思う」と言って、王室が自分のYouTubeチャンネルを持っていることも指摘した。ただし「実は彼らが投げかけているのは、(国民との)結びつきや親しい関係を持てるという幻想なのだ」。彼女はそう言うのだった。

だからといって、米大統領ドナルド・トランプのツイッターのように意識を自由に流せると期待してはいけない、と彼女はくぎを刺した。

「王室のそれは自発的な発信とはいかないだろう。むろんもっと即座に対応はできる。けれど、そこには違いがある。思い付きの発言を見せるようなことはしないだろう」。彼女はそう言った。

サセックス公爵のハリー王子とメーガン・マークル公爵夫人は共同の公式インスタグラムで定期的に写真を共有しており、1千万近いフォロワーがいる。7月には長男アーチーの洗礼式の写真を投稿した。

だが、それとは対照的に、11月にアンドルー王子が行ったBBCとのインタビューでは、王室の広報戦略は非難の矢面に立たされた。インタビューでは、エプスタインとの関係についてさまざまな質問が出された。アンドルー王子は、エプスタインが未成年女性の買春で服役した後の10年にもニューヨークを訪れ、彼と一緒にいた。ヨーク侯爵のアンドルー王子はインタビュー後、公務から退く意向を表明した。

王室はメディア危機には慣れていて、1990年代にチャールズ皇太子とダイアナ妃が離婚した段階でそのイメージも定着した、とチャ―ノックは言った。

彼女は「今度の動きは、エプスタイン・スキャンダルが起きるずっと前から始まっていたメディア戦略の一部だ」と解説する一方で、「エプスタイン・スキャンダルで、新たな緊急性が出てくるかもしれない」と語った。

給料に関しては、少なくとも広報のベテランの一人が、デジタル・ディレクターとしては思いのほか安い、と言った。

米コネティカット州グリニッジで広報、ソーシャルメディア、イベント企画を請け負う会社を経営するJen Danziは「もっと若手のような給料。それにしてはかなり責任重大なポストのように思える」と言った。

彼女は、バッキンガム宮殿が女王との結びつきや宮殿での経験を対価の一部と見ているのではないか、と言った。

また、うまくこのポストに就いた人がソーシャルメディアに投稿する際、どれほど独立性を持ちうるのか、特に守秘義務の契約などに縛られないか、その点も気がかりだ、とも語った。

「そんな指揮命令系統の中では、自分の居場所はどうなる?」とDanzi。「やりたいことをする自由はある? ソーシャルメディアと守秘義務は実際には両立しない」と言うのだった。(抄訳)

(Neil Vigdor)©2019 The New York Times

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