正解のない時代のために 「白でも黒でもない」を追求するメディアへ

明けましておめでとうございます。
2019年も多くの人に出会い、また多くの記事を世に送り出した1年でした。その中で特に心に残ったキーワードが2つあります。
「この世界は複雑だ」と「この世界に正解はない」です。
例えば、日本の移民問題について積極的な発言を続ける「ニッポン複雑紀行」編集長の望月優大さんへの編集長インタビューで、彼が日本と移民について語った次の言葉。
「私たちはこれまで、目の前にあるはずの複雑さをあまり見ないようにしてきた。むしろ複雑ではないということを誇りにしてきたようなところがあります。そうではなくて、複雑さをしっかり直視しようよ、と」
(GLOBE+編集長インタビュー「『複雑』な日本で、移民問題を考える」から)
白でも黒でもない、「ニュアンスある議論の空間」を一枚の風刺画で表現した、オーストラリアの風刺画家キャシー・ウィルコックスさん。
「実社会では、異なる意見が対立するさまざまな問題で、中間点や妥協点が存在します。それは、味方チームから応援されたり、相手チームから批判されたりするだけでは見えてきません。時間をかけて双方の正しさや間違いに触れて、初めて見えるものです」
(「とかく白黒つけたがる世の中へ グレーゾーンの価値を伝える風刺画」から)
あるいは、最新作『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)が話題のブレイディみかこさん。
「不確実な時代って、みんな正しい答えをほしがります。迷ったり、間違ったり、道を踏み外したりすることを恐れる。そういう機運が、ますます閉塞を強める。だから、そういう時代こそ『迷ってやる』くらいの気持ちが必要じゃないかな」
(「ブレイディみかこ『ネットに答えなんか載ってない。迷えば違う世界が見える』」から)
また学校特集で登場いただいた、教育評論家のおおたとしまささん。
「冗談のような質問を受けることがあります。『これからの正解のない世の中に、子どもたちを送り出すための教育は、何が正解なのでしょうか?』。正解主義から離れられないのです。正解などありません。だから、多様な教育を認めて、子どもたちが自分に合うところを選ぶ。『どんな教育もありなんだ』『どんな育ち方をしてもいいんだ』という価値観ができていく。そうして子どもたちが認められて、居場所があると感じられる社会になっていけばいい」
(「なぜ多様な教育?『教育に正解はない』からです おおたとしまさインタビュー」から)
教育のあり方でも、移民問題への取り組みでも、アジアの隣国との付き合い方でも、およそ世の中の問題にただ一つの正解なんてものはない。だから白のチームと黒のチームが意見を戦わせて、多くの人が納得する中間点を見つけるていねいな営みが必要です。そしてその必要性はますます高まっていくだろうと思います。
私はGLOBE+の編集長を任されて以来ずっと、「GLOBE+は世の中にどんな付加価値を提供できるメディアか」ということを考え続けてきました。マスメディアが情報の流通を独占していた時代は遠くに去り、だれでも情報のありかと受け手をつなぐ存在になれるという意味では、「だれもがメディアになれる」時代ではあります。であれば、伝統的な意味でのメディアの存在意義って何だろう。「自分たちにしかつくれない付加価値があるかどうか」しかない、というのが私の考えです。
世の中の課題について、考えるヒントになるような視点や切り口。ウィルコックスさんの言葉を借りれば、白と黒の間にある複雑な空間をできるだけ広げていくこと。それが、私が考える、GLOBE+がみなさんに提供できる付加価値です。
その思いを大事にして、2020年も多彩なコンテンツをお届けしていきます。ご期待ください。
GLOBE+編集長 堀内隆