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Brexit、イスラエル総選挙、広がる抵抗運動……期待通りにならない2020年(後編)

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英国のボリス・ジョンソン首相

米大統領選、北朝鮮問題、中東情勢……期待通りにならない2020年(前編)はこちら

 Brexitの行方

2020年はいよいよ4年にわたってくすぶり続けたイギリスのEU離脱に決着がつくことになっている。ボリス・ジョンソン首相は、12月の総選挙で大勝し、保守党が単独過半数を得たことで、これまでの「決められない政治」を脱し、EUとの離脱合意を議会で承認させることに成功した。これで2020年1月に設定された離脱期限までに合意に基づいて離脱手続きが進むこととなる。離脱が成立した後、イギリスとEUは貿易協定など、今後の両者の関係に関わる交渉を行うこととなるが、その期限は2020年末となる予定である。しかし、交渉が難航することは予想され、とりわけEUの共通漁業制度から離脱することで水産資源の奪い合いなどでは合意を得るのが難しいとみられている。

大方の予想では、ジョンソン首相は交渉期限を延期し、円満な形の離脱(いわゆるソフトBrexit)を目指すものと考えられていた。12月の総選挙で安定した過半数を得て、強硬な離脱派の影響も受けずに政権運営出来るため、じっくりと交渉して経済的な影響を最低限に抑えるものと期待されていたが、ジョンソン首相は2020年末に交渉を打ち切る方針を示しており、それによってEUに圧力をかけて有利に交渉を進めようとしている。逆に、新たに欧州委員長となったフォンデアライデンは、2020年末にはまとまらないとして交渉の延長が不可欠とみている。

ジョンソン首相はある種のギャンブルに出た形になったが、これがジョンソン首相の期待通りに交渉の加速化をもたらす可能性は、残念ながらあまり高くない。もし合意がないまま2020年末を迎えることになれば、合意のないまま離脱をする、いわゆるハードBrexitと同じ結果になる。総選挙で保守党が大勝したことで秩序あるEU離脱が実現出来ると期待した人にとっては、その通りにならない可能性は否定出来ない。

 イスラエル総選挙

2020年で一番先が読めないのはイスラエルの政治情勢の行方だろう。2019年に二度の総選挙を行い、いずれもネタニヤフ首相率いるリクードと、元参謀総長のガンツが率いる「青と白」が拮抗し、二度とも組閣できない状況となったため、2020年3月に三度目の総選挙が行われる予定となっている。

三度目の総選挙でも、有権者の政党支持は大きく変わらないとみられているが、いくつか注目に値する要素がある。一つはネタニヤフ首相が起訴された中での選挙である、という点である。これまでネタニヤフ首相は政権に有利な報道を行うことを要求するような、権力濫用や腐敗に関与していたことが報じられており、政権との関係も深い検事総長をしても不起訴にすることが出来なかったほど明白な証拠が出てきたことで、裁判は始まっていないとはいえ、かなりクロに近いグレーの状態で選挙に臨むことになる。有権者はネタニヤフ首相の腐敗は知りつつも不安定な中東情勢において、安全保障を最優先に考えるとネタニヤフ首相に任せるしかないと見てきた。しかし、元参謀総長のガンツが野党第一党のリーダーとして頭角を現したことで、ネタニヤフ首相の優位性は失われつつある。

もう一つのポイントはアメリカの大統領選挙がもたらす影響である。2019年の二度の総選挙の前には米国大使館のエルサレム移転や占領地であるゴラン高原の主権の承認、さらにはヨルダン川西岸の入植地のイスラエルへの帰属を合法的なものと見なす(安保理決議でも国際法違反として認定されている)といった、ネタニヤフ首相とトランプ大統領の親密な関係に基づく、様々な支援を受けてきた。しかし、2020年はトランプ大統領自身が「弾劾された大統領候補」として選挙戦を戦わなければならず、また、ネタニヤフ首相を支援する材料も出尽くした感がある。トランプ大統領がどのような形で関わるのか、という点にも注目したい。

さらに、注目ポイントとして、上述したサウジやUAEとイランの関係が改善されることがどのように影響するのかも見ておく必要があるだろう。ネタニヤフ首相はオバマ大統領がイランと核交渉をしている最中から批判的であり、核合意成立後もイランへの敵意を剥き出しにしてきた。パレスチナ問題に関して対立してきたアラブ諸国との公式な関係は断絶しているとはいえ、イランに対して敵対的な姿勢を見せるサウジやUAEとは一種の協力関係を築いてきた。しかし、サウジやUAEがイランとの関係を改善する中で、イスラエルが孤立する状況になりつつある。かつてのようなパレスチナ人によるテロなどは壁の建設で減少しているが、2019年も継続的に行われたガザ地区からのミサイル攻撃などは継続して行われる可能性も高い。

三度目の総選挙でイスラエルの政権の行方が安定し、日本からの投資環境が良好なものになることを期待している人にとっては、それが実現する可能性は低いが、ネタニヤフ首相を取りまく不利な要素が選挙に強く反映されれば、ようやく安定した政権が出来るかもしれない。

 世界に広がる抵抗運動

あまり多く語られることはないが、2019年は抵抗運動の年だった。香港で犯罪人引き渡し条例をきっかけとする一国二制度の維持を求める抗議運動は、半年以上も継続し、年を越しても香港政庁と抗議運動の対立が解消される兆しはない。また、南米ではベネズエラのグアイド国会議長が2019年の4月に大規模な攻勢を仕掛けたが失敗に終わり、9月には政権との対話も決裂して不安定な状態が続いている。ボリビアでは大統領選の不正から抗議運動が激しくなり、11月にモラレス大統領がメキシコに亡命する事態が起きたが、その後の大統領選出のプロセスなどで混乱が続き、今後も抗議活動が収まらない可能性もある。南米の優等生と言われたチリでは10月に首都サンチャゴの地下鉄運賃の値上げをきっかけに抗議運動が激しくなり、APECやCOP25の開催を取りやめるといった事態にまで発展した。中東でもレバノン、イラクでの反政府運動が政権を倒し、イランでも制裁の影響から抗議運動が活発化し、武力によって鎮圧される事態となった。さらに欧州でもフランスの黄色いベスト運動に見られる格差に反対する運動が展開され、2019年末にもフランス国鉄の大規模ストでクリスマスの帰省客が混乱するといった事態が起きている。ロシアにおいても強権的なプーチン政権に対して年金改革などに対する反対から抗議運動が起こり、結果的に鎮圧されるということも起きた。

このように、世界各地で政府に対する抗議運動が激しくなっているが、それぞれは何らかの連帯関係なく、バラバラに起きているとはいえ、政府の腐敗や貧富の格差に対する不満の爆発という性格を持ち、権威主義的な国家においても、民主的な国家においても、政権に対する抗議の唯一のチャンネルとして表現されている。これは、一方でグローバル化が進むことで国内の政策的な選択肢が狭まり、不満を持った人々の要求を実現することが困難になってきたことを示しており、他方で、そうした政策的選択肢の制約を取り払う手段として強権的な政策を強める国々でも、その強権政治に対する不満や反発が強まっていることも示している。

こうしたグローバル化に伴う民主的政治の無力感と、それを打ち破ろうとする強権化は2020年に入っても続くものと思われるが、いずれの場合も国民の不満を解消することは難しく、2020年においても、政府に対する抗議運動は継続されていくことになるだろう。より平和で争いの内世界を期待する人たちにとっては、2020年は引き続き期待を裏切る結果になるものと思われる。

 東京五輪

 最後に、少し期待通りになって欲しいイベントとして東京オリンピックを挙げておきたい。2020年は何よりも日本においてはオリンピックの年であり、それにかかり切りになる年であろう。夏を過ぎてもオリンピックの余韻は残り、年末まである種の多幸感に包まれた状態になるだろう。どのくらいメダルを取るのか、オリンピックの期間中にトラブルがどのくらい起こるのかは予測できないが、既に新国立競技場も完成し、懸念された札幌での競歩・マラソンの開催にも目処がついたことで、運営に関する問題の多くは解消し、きっと素晴らしいオリンピックが開催されることを予感させている。オリンピック観戦のための外国人旅行客の増加に対応した空港や交通インフラの整備、民泊制度を含む宿泊施設の増強も一通り進んでおり、とりあえずのところ問題は起きなさそうである。もちろん想定外の出来事は起こりうるし、そのための備えが十分かどうか、常に検証が必要だが、期待出来ないことが多い2020年、東京オリンピックは期待通りに進んでもらいたいものである。