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米大統領選、北朝鮮問題、中東情勢……期待通りにならない2020年(前編)

国際ニュースの補助線
米国のトランプ大統領

皆様、あけましておめでとうございます。昨年も様々なニュースがあり、いくつか補助線を引くことで、複雑に絡み合う世界を理解するお手伝いをしてきたつもりではありますが、その通りになっていたのかどうかは甚だ不安なところであります。本年も引き続き、そうした補助線を引きつつ、世界で起こっている出来事が、なぜ、どうしてそうなっているのかを解説していこうと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

さて、2020年も様々なイベントや事件が起こると思いますが、この一年を見通す上で、少し長めの補助線を引いてみよう。

最大のイベントである米大統領選

2020年は、11月に行われる大統領選の行方次第で大きく変わりうるだろう。共和党は現職のトランプ大統領がほぼ間違いなく大統領候補として二期目を狙うことになるが(共和党にも若干ながら対立候補が存在するが、ほとんど無名で予備選すら開かれない)、民主党の候補は未だに多数の候補が乱立し、本命不在の状況である。思えば2016年の選挙でも3月のスーパー・チューズデーまでは共和党候補が乱立状態であったが、そこから頭一つ抜け出したトランプ候補が一気に抜け出し、本選も勝ち抜くという結果になったので、現時点で2020年選挙の民主党候補が乱立している状態は問題ではない。むしろ問題なのは、トランプ候補を大統領に押し上げたような熱気やパワーを持つ候補がいないことである。米大統領選は政党に対する投票というよりは候補個人に対する投票という側面が強く、有権者がコミット出来る候補がいないのは致命的である。サンダース候補やウォーレン候補など、民主党左派の一部が熱烈に支持する候補は存在するが、その勢いも十分とは言えず、党を挙げての支持にはなっていない。

そうなると現職のトランプ大統領が有利である(一般的に現職の方が強い)が、既に下院では弾劾決議が採択され、ペローシ下院議長が上院での弾劾裁判に必要な書類を送っていないという状況である。民主党とすれば上院に書類を送れば弾劾裁判が始まり、共和党多数の上院で弾劾に必要な3分の2の賛成を得ることはほぼ不可能でトランプ大統領は無罪ということになるため、可能な限り弾劾裁判の開始を遅らせ「弾劾された大統領候補」としてトランプ大統領のイメージを悪くさせておきたいという思惑があるのだろう。

また、弾劾の理由となったウクライナゲート(ウクライナのゼレンスキー大統領に対して軍事支援と引き替えにバイデン候補の腐敗を暴こうとした)の前に、ロシアゲートと呼ばれる、2016年の大統領選挙におけるロシアによる選挙介入でトランプ大統領が取引をしていた、という問題も2020年の選挙を見る上での論点となるだろう。外国からの選挙介入に対しては、2016年の時よりは強く警戒していると思われるが、一方で共和党は「弾劾された大統領候補」であり、他方で候補者が乱立する民主党があるため、外国勢力が選挙介入する余地は少なからずあるだろう。また、ロシアだけでなく、中国も台湾の選挙などに介入しており、その経験を踏まえて何らかのアクションを起こす可能性もある。

いずれにしても、トランプ大統領の弾劾を期待している人も、大統領選での敗北を期待している人も、おそらく期待通りにならない可能性が高い。

北朝鮮問題

「非核化」を巡る米朝交渉は年末が期限だと一方的に北朝鮮が設定したのが2019年の金正恩による新年の辞であったが、結果的に米朝交渉は一向に進まず、6月の大阪で行われたG20の最中にトランプ大統領がツイートで呼びかけ、急遽板門店で米朝首脳が会うというサプライズはあったが、実質的な交渉の進展には全く寄与せず、「非核化」の定義の問題を巡って交渉の入り口でうろうろしている状況である。

北朝鮮が設定した交渉期限を過ぎた2020年は何が起こるのだろうか。まずは北朝鮮の方針が新年の辞で示されるだろうが、そこでは米朝交渉に対する期待はなく、核・ミサイル開発の再開を示唆するような文言が入る可能性がある。おそらく米国がレッドラインとみている大陸間弾道弾(ICBM)の発射実験や核実験は行わない可能性が高いが、既に進めているICBM用のエンジンの改良やロフテッド軌道を使った性能試験などが行われる可能性は高い。場合によっては日本列島を越えるようなミサイル実験を行う可能性もある。

こうしたことが可能になるのは、アメリカが設定した「最大限の圧力」が事実上機能しなくなり、中国やロシアはあからさまに制裁緩和の要求をしてきていることが背景にある。2019年末が期限であった北朝鮮労働者の雇用禁止も、様々な抜け穴を駆使して継続的に北朝鮮労働者を雇い続けているとみられており、中朝国境の物資の往来も増えているとの報道も多く見られる。

北朝鮮の非核化交渉に期待し、その先にある拉致問題の解決に期待を寄せている人にとって、おそらく期待通りにならない可能性が高い。

イランと中東情勢

12月27日の閣議決定で海上自衛隊をオマーン湾、アラビア海からバブエルマンデブ海峡までの海域に派遣することが決まった。これは一方でアメリカが主導する海洋安全保障イニシアチブ(いわゆる有志連合)への参加要請を受けて、何らかのアクションを取らざるを得なかったことがあり、他方で、有志連合を敵視するイランへの配慮から、有志連合には参加せず、独自派遣とし、ペルシャ湾やホルムズ海峡は活動範囲に含めないという、妥協の産物であった。その結果、最もリスクが高いとされる海域は外され、日本が関係する船舶を保護するという当初の目的を達成するための措置とは言いづらい状況となった。

とはいえ、ペルシャ湾やホルムズ海峡は一触即発の状態ではなく、5月にサウジアラビアやノルウェー船籍のタンカーが攻撃され、6月に日本の国華産業が運航するタンカーなどが攻撃されて以来、タンカーを狙った攻撃は起こっていない。また6月にイランが米軍のドローンを撃墜したときもトランプ大統領は攻撃を10分前に中止し、9月にイランによるものと疑われているサウジの石油施設への攻撃が起きた後も報復攻撃らしきものは起こっていない。それ以降、サウジはイランへの攻撃的な姿勢をひそめ、イランの勢力が関与しているとして介入してきたイエメン内戦の停戦にも動き始めている。サウジと共にイランに対して敵対的な姿勢を示してきたUAEもイランとの関係改善に向かっている。

つまり、この地域は9月の石油施設への攻撃以降、相対的に安定した状態がもたらされており、イランに最も強硬な姿勢を示していたボルトンも安全保障担当補佐官を辞任しており、同じくイランに対する敵意を剥き出しにするネタニヤフ首相は2度の総選挙でも組閣することが出来ず、2020年3月に総選挙を迎えるという権力基盤の弱体化に直面し、加えて複数の汚職疑惑で起訴されている状況にある。米国務省のイラン強硬派であるポンペオ国務長官は2020年のカンザス州上院選に出馬するとみられており、国務長官を辞する可能性も高い。

このような状況を見ると、偶発的な武力衝突やテロの可能性は残りつつも、この地域は相対的に安定し、緊張緩和に向かう可能性が高いとみられる。ただ、米大統領選の行方次第では、トランプ大統領が何らかの外交成果や国威発揚を狙ったアクションを起こす可能性もある。中東で混乱が起き、イランを攻撃する口実が欲しい強硬派にとっても、またイランが核合意に復帰して中東の安定を期待する人にとっても、期待通りにはならない可能性が十分にある。

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