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ユーチューバー支援ビジネスが急成長 「カプセル」埴渕修世が語る、その極意

World Now
人気ユーチューバーら中華圏のインフルエンサーのマネジメントを手がけるCAPSULEのCEO埴渕修世氏=台北市、渡辺志帆撮影

■売り上げ10億円、1年で倍増

――会社は急成長しているそうですね。

会社を立ち上げた2013年当初、社員はわずか3人でしたが、毎年、倍くらいに増えて、現在では120人くらいいます。平均年齢は25、26歳でしょうか。今年の売り上げは約10億円で、昨年と比べてほぼ倍増しました。オフィスは台湾に2カ所、東京、上海、香港にもあります。

――支援するのはどんなクリエーターですか。

インターネットのインフルエンサーに特化しています。柱はユーチューブで、それ以外にインスタグラムやフェイスブック、動画SNS「TikTok(ティックトック)」も。ユーチューブは経済圏が今のところ一番大きく、クリエーターたちが何かを達成したい時に一番利用できるメディアなので、力を入れています。

CAPSULEが19年春に移転入居したオフィスビル。同社が入る最上部15、16階はかつてテレビ局だったという=台北市、渡辺志帆撮影

――ユーチューブの特性を教えてください。

誰でもいつでも発信できる点がすごいと思います。広告に関しては大きく分けて2種類あり、ユーチューブが広告主企業から受注して各クリエーターのチャンネルに露出する形式のものと、各ユーチューバーたちが広告主から受注して作る「タイアップ広告」があります。広告を付けるか付けないかもクリエーターが選べるので自由度は高いといえます。内容も自由ですが、チャンネルの人気が高まり規模が大きくなってくると、スポンサーにも配慮して、動画を見て不快に感じる人がいないように考える必要が生じます。

――人気が出るに従ってクリエーターの自由が制限されるのでしょうか。

発展著しい台北市中心部。市街を一望できる象山からの眺め=渡辺志帆撮影

基本的には自由に意思決定できるけれど、自由すぎると逆に自由じゃなくなるんです。つまり、視聴者や広告主や世間のことを考えずに何でもやりたいようにしていると、やがて「炎上」などの問題が起きて自分の首を絞めることになります。ファンや広告主が離れ、自分も気分が悪くなって精神的にもユーチューバーを続けていくのが嫌になったりして、結局のところ自分の活動にも影響して自由じゃなくなってしまうおそれがあります。ちょっと複雑な言い方ですが。

■制作活動に集中させる

――所属クリエーターにはどんな支援サービスを提供していますか。

人気が高まると、規模の大きなビジネスになってきます。ファンイベントやグッズ販売、広告、音楽活動など映像クリエーション以外の活動も増えてくるのです。もともと一人でやっていた人でもチーム体制に移っていくと、そのマネジメントや財務管理など、一般的な中小企業の経営者的な能力も必要になってきます。

動画の編集担当スタッフが画面に向かい黙々と作業していた=台北市、渡辺志帆撮影

僕らの考えとしては、クリエーターたちはクリエーションに最大限の時間を使ってアウトプットした方がいい作品ができるし、おそらく彼らの人生にとってもいい。ビジネスとして成功して規模が大きくなり、中小企業のような体(てい)になるのはいいけれど、彼らが積極的に望まない限りチームの管理・経営をする必要はないと考えています。多くの場合、クリエーターは制作活動に一番秀でているから人気が出ているのであって、そのほかの業務はしない方がおそらく彼らにとって幸せだと思っています。

――マネジメントの面は日本の芸能事務所と似ているようですが、違いはどんな点ですか。

基本はクリエーター主導です。収入に関しても、従来の芸能事務所と違って僕ら会社の方が取り分が少ないです。ただクリエーターが自由気ままにやっていくと、彼らのなりたいものや、したいことに到達できないおそれがあります。たとえば、政治的な問題の扱い方。動画にたまたま映り込んだ世界地図で台湾と中国大陸が別の色に塗られていたら、中国で「炎上」してしまうかもしれません。そうした問題を避けるために僕らがいます。

■「食べ物」で政治リスクを回避

――8月には三原さんの人気チャンネル「三原JAPAN」と蔡英文・台湾総統とがコラボした動画が公開されました。

この動画について、そもそも2020年1月の総統選を控えてコラボすべきかどうか、コラボするとしたらどういう内容がふさわしいのか、社内で慎重に議論を重ねました。その結論が、「ご飯を食べる」という全世界の人間共通の話題でした。明るいトーンで台湾のPRに徹しました。

台湾の観光PRイベントで写真撮影に応じる三原慧悟(中央)と「JUNちゃん」こと村上淳也(左)、「Tommy」=台北市のホテル、渡辺志帆撮影

――難しい判断があったんですね。そのほか苦労はありますか。

伝統的なメディアなら午後7時から8時まで放送しました、で終わる話が、ユーチューブは24時間視聴されるので、24時間何かが起こりえます。ファンたちもSNSみたいなところでクリエーターたちと24時間コミュニケーションできるので、僕らとしては気が休まらないですね。

――夜中に「炎上」して、朝起きたら燃え広がっていたりするのですか。

実際、そうしたことはよくあります。若いクリエーターだと、高校を卒業してすぐにユーチューバーを職業にする人もいます。そうすると、中には社会常識を知らない場合もあります。たとえば、ドリンクメーカーのスポンサーで広告動画を撮っているのに、競合メーカーの商品を飲みながら宣伝してしまうこともありうるし、それが悪いことだと知らない場合があるわけです。彼らが悪いと言うつもりはありません。影響力を持っている一方で、自分の撮った動画が誰にどれくらいの影響を与えるかというのが、なかなか想像しづらいのだと思います。

――周りの親しい人に指摘されて済む話が、インターネット上だと、いきなり全世界に向けて公開されて炎上してしまうわけですね。

ユーチューブの世界は自由で、道はすごく広がっているけれど、結構いろんな落とし穴があるんです。「こっちを通った方が落とし穴を避けられるよ」とか「こっちは結構遠回りになっちゃうよ」とクリエーターを導きつつ、できるだけ早く、彼らが思う高みに到達できるようにしたいし、それが僕らの存在意義だと思っています。

――日本と台湾のユーチューブ事情はどう違いますか。

ユーチューブのチャンネル登録者数130万以上を誇る「三原JAPAN」をはじめとする専属クリエーター約40組のパネルやグッズが掲げられていた=台北市、渡辺志帆撮影

台湾は、年配の人もみんなスマホを持っていてネットリテラシーが非常に高いです。テレビ自体を持っていない若い世代も多いです。わが家もそうです。テレビというデバイスは持っているけれど、いつもユーチューブ動画を流していて、放送局が流すコンテンツは一度も視聴したことがないんです。台湾は、日本と比べるとユーチューブ利用の普及は遅いけれど、初めから幅広い年齢層に広く浅く市場が開けている印象があります。ここからもっと広く深くなっていきそうだと感じています。