育休中に出来ることとして、セブに親子留学に行くことを決めた際、私は親子留学カウンセラー近藤英恵さんと「期間をどのくらいにするか」で一番悩んだ。
当時、別会社とニュージーランドへの親子留学(親子ホームステイ)についても同時進行でカウンセリングを受けていた私は、「セブに2カ月行き、その後NZに行ってクリスマスと新年を過ごそうかな」と考えていた。
しかし、ここで予想外の展開に。受け入れ先として予定していたホストファミリーから「クリスマスは家族で出かけるため、その期間はホテルに移動してもらうことになるけど良いか」と業者を通じて聞かれたのだ。
え!NZまで親子ホームステイに行くのにクリスマスは私たちだけホテルだなんて寂しすぎる!
そのことを近藤さんに伝えると「では、セブでクリスマスまで滞在されたらいかがですか。フィリピン人はクリスマスが大好きで、街中盛り上がっていて楽しく過ごせると思いますよ」。
そんなアドバイスもあり、当初11月までと考えていたセブ滞在を年明けにまで伸ばしたのだった。
■クリスマスは9月から?!
ある日の授業で私は先生に「フィリピンのクリスマスは、9月から始まっているんだよ」と教わった。
September(9月)、October(10月)、November(11月)、December(12月)の最後の3文字berをとって「ber month」(バーマンス)と呼んで、クリスマスの準備をするのだという。
なんとも気が早いような気もするが、それだけフィリピン人がクリスマスを愛しているということだろう。11月になるといたるところでクリスマスの飾り付けを見かけた。ショッピングモールにスーパー、街中や広場にまで、あちこちでセールがあり、クリスマスソングが流れ、色とりどりのツリーを目にするようになった。
12月に入ると、学校で使うパソコンの教材の表紙に「クリスマスまであと○日」と表示され、先生や家政婦さんから「おはよう!クリスマスまであと3週間だね!」とあいさつされることもたびたびあった。
♪もう~いくつねると~お正月~ と、新年を心待ちにする日本の歌があるが、クリスマスを4カ月もかけてカウントダウンするとは。あらためて、人口の90%近くがキリスト教徒であるアジア最大のカトリック国フィリピンで、クリスマスがいかに大事な日であるかを知った。
ある朝、学校に行くとスタッフに「2時間目と3時間目の間の休み時間は、なるべくオープンスペースに集まっていただけますか?」とお願いされた。近くの孤児院の子どもたちが来て、クリスマスソングを歌ったり踊ったりするパフォーマンスを披露してくれるのだという。
子どもたちは裸足だった。年齢の小さな子たちが踊り付きで歌い、年齢の大きな子たちは後ろで楽器を演奏し、クリスマスキャロルやジングルベルを陽気に歌ってくれた。
寄付を目的としたものであることはすぐにわかった。でも、ちょうどいい金額の小銭がなかった私は、隣にいたママ友に「小銭ないんだけど、貸してもらえます?」と聞いた。ママ友は「え、お金いりますか」と言う表情を浮かべた。確かに、路上やショッピングモールでもこうした演奏はよく見かけたが、そうしたところに必ず置いてあるお金を入れられるような箱がどこにもない。
演奏が終わると、子どもたちは、引率の大人に連れられて帰ってしまった。
私は、次の授業で先生に聞いた。
「さっきのって、寄付しなくて良かったのでしょうか」
すると、こんな発言が返ってきた。
「寄付の箱を置いたり、回したりすることで、日本のママたちに強制だと思われたくないので、寄付のほうは事前に学校スタッフと私たち(教師)がしました」
さすがに、「寄付の文化は日本にもあります。あの子たちの演奏を見て、少しでも助けたいと思う日本人もいますよ!」と伝えたが、クレームを受けたことでもあったのだろうか。先生は「その気持ちだけで十分です」と笑って、授業を始めた。
この先生は以前、「日本人のなかには同性愛に偏見を持つ人もいる、と聞いてから、生徒さんにはあえて自分からは(ゲイであることを)言わないことにしている」と言っていた。私たちのことをとても気にかけている一方で、誤解されているかもしれない、と思うと少しだけ寂しかった。
■9日かけて行う「夜のミサ」
12月中旬のある日。午後の授業を担当する女性の先生が授業中に口に手をあて、あくびをかみ殺していることに気づいた。
「ごめんなさいね!実は、きょうからシンバンガビが始まったの。眠くて眠くて」
と彼女はぺろっと舌を出した。
Simbang Gabi(シンバンガビ)。クリスマスまでの9日間、毎朝3~4時から始まるミサで、「夜のミサ」とも呼ばれるそうだ。毎年12月16日に始まり、24日まで9日連日教会に通えば、願いがかなうという。敬虔なクリスチャンが多いフィリピンでは、年齢にかかわらずこのシンバンガビに参列する人がとても多く、20代の彼女も、祖父母や親戚も入れた一家10人近くで毎朝教会に通ってから一日をスタートするという。
学校も24、25日は平日でも休みになる。もちろん、仕事もだ。セブで働く日本人によると、「フィリピンでは12月16日を過ぎると仕事がほぼすべてストップします」とのこと。
私は、というと、北京で暮らす両親にクリスマスを一緒にセブで過ごすことを提案してみた。父は定年退職し、母も仕事はない。セブに来たことはないというから、ハイシーズンではあったが、孫の顔を見に来てもらうことにした。
シッター兼家政婦のジョセさんがクリスマス休暇に入る前日、両親と、日頃の感謝を込めて食事に誘った。長女のニカちゃん(13)も来てくれた。イブの3日前に予約を締め切るという山の上にあるレストランを予約できたので、みなでお祝いをした。
クリスマスシーズンが国全体で盛り上がるのは欧米だけだと思っていた私にとって、アジアでここまで素敵な12月を過ごせたことは、セブ親子留学の思い出のなかでも忘れがたい経験となった。
***順調に親子留学生活を送っていたはずが、朝起きたら子どもが熱。さあ、どうする?次回は、医療編を予定しています。