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プーチンは21世紀のポップ・アイコンか?

迷宮ロシアをさまよう
筆者が揃えた2020年プーチン・カレンダーのシリーズ。一番左のものは、プーチンがひたすら動物を愛でるというもので、うち3月分は秋田犬「ゆめ」と戯れる姿を捉えている(撮影:服部倫卓)

プーチン・カレンダーが新たな名物に

いつの頃からだったでしょうか、ロシアではプーチン大統領を主役としたカレンダーが、定番商品として定着しました。そして、最近では日本でもプーチン・カレンダーが一部で話題になったりしており、ネット通販で購入することも可能です。

筆者にとってプーチン・カレンダーは特に新味もないので、ロシアで見かけても、以前はあえて買うこともありませんでした。ところが、日本のネット通販でプーチン・カレンダーがずいぶん立派な値段で売られているのを見ているうちに、現地で簡単に買えるのは特権のような気がしてきて、今年秋のロシア出張の際にプーチン・カレンダーを3点ほど買ってきました。それが、冒頭の写真に掲げたものです。

日本にも政治家の顔が映ったカレンダーは一応存在すると思いますが、有料カレンダーは熱心な支持者でないと買いませんし、政治家の側が無料で配るのは公職選挙法違反だそうですので、一般の目に触れることはほとんどありません。やはり、書店、文房具店、スーパーマーケットなどで普通にプーチン・カレンダーが売られているロシアは、だいぶお国柄が違うと言えそうです。

プーチン・カレンダーの特徴は、大統領のバリエーション豊かな姿を描いていることでしょう。国家元首として執務や首脳会談に当たるプーチンはもちろんですが、動物を慈しむプーチン、教会で祈りを捧げるプーチン、筋トレに励むプーチン、アイスホッケーをプレーするプーチン、射撃に取り組むプーチン等々。そこには、ロシアの男性の理想像が投影されている感じがします。おそらく、購買層は家父長主義的で、国父プーチンに見守られながら日々を過ごしたい人々なのでしょう。

ロシアの官公庁などでは(時に民間企業でも)、幹部の執務室にプーチン大統領のポートレート写真を飾るのが通例であり、写真が市販されている。この書店では、それに加えてメドベージェフ首相、ラブロフ外相、ショイグ国防相の写真も売っていた(撮影:服部倫卓)

ポップ・アイコンへの変質

1991年暮れに社会主義のソ連邦が崩壊し、新生ロシアの初代大統領となったエリツィン氏は、豪放磊落な人物で、個人崇拝的な要素は希薄でした。ソ連のような、どこに行ってもレーニン像やレーニンの肖像があるような時代は、過去のものになったかと思われました。

しかし、2000年にエリツィンの後継者としてプーチンが大統領に就任すると、大統領を頂点とする権力体系が明確化されます。それに伴い、ロシア全土の官公庁では、幹部の執務室にプーチン大統領のポートレート写真が掲げられるようになりました(メドベージェフ氏が中継ぎ大統領を務めプーチン氏が一時的に首相に退いていた2008~2012年は両者の肖像写真が並べて掲げられていた)。

プーチンのカレンダーが制作されるようになったのは、そのようなお仕着せの公式ポートレートではなく、より生き生きとしたプーチンの姿を見たいというニーズが国民の一定層にあったからなのでしょう。

そして、これは特に2014年のクリミア併合後に目立つようになったと思うのですが、最近ではプーチンの写真や絵をデザインに取り入れたTシャツ、マグカップ、バッグなどが、土産物として売られているのをよく見かけるようになりました。筆者自身は、プーチンは功罪両面ある政治家だと思っていますが、陰の部分も含めてキャラの立った政治家であることは間違いなく、雰囲気も独特なので、いわば「ポップ・アイコン」として機能していると感じます。それに比べると、有名な国家元首でも、たとえば中国の習近平国家主席あたりには「華」がなく、彼の顔を描いたTシャツを着て歩きたいという人はあまり多くないでしょう。

従来、洋服のデザインに取り入れられたりする政治家のポップ・アイコンで、代表的だったのは、チェ・ゲバラでしょう(アルゼンチン生まれの政治家・革命家で、キューバのゲリラ活動を指導)。しかし、ゲバラの場合は、ジム・フィッツパトリックの描いた「英雄的ゲリラ」というポートレート(後にアンディ・ウォーホール作品としても知られるようになる)がポップ・アイコンになった形であり、我々のイメージするゲバラの顔はほぼその一択になっています。それに対し、プーチンは存在そのものがポップ・アイコンであり、実際カレンダーやTシャツにも様々に七変化するプーチンが登場します。

モスクワの空港のTシャツ売り場でも、プーチン・デザインの商品が主力だった(撮影:服部倫卓)

2020年には後継問題が表面化するか?

もちろん、ここで筆者はプーチンのことを称賛したいのではなく、良くも悪くもそれだけプーチンというキャラクターが際立っているということを申し上げているまでです。このように一人が突出した政治体制が出来上がってしまうと、次へのバトンタッチは至難の業でしょう。プーチン大統領の現在の任期は2024年5月までで、現在の憲法では再出馬は不可能です。来年2020年にはそろそろ、後継問題が表面化してくるかもしれません。

ロシアの書店で、「ロシア政治家トランプ」というのを売っていたので、それを買ってみました。開けてカードを並べてみたところ(下の画像参照)、これはスタンダードなトランプではなく、おそらくドイツ・バイエルン地方の方式によるものと思われ、6~10の数字のカードと、マークごとに4枚ずつの絵札からなるセットでした。一番強い「T」のカードはすべてプーチンであり、それ以外の絵札がその他の現政権幹部になっています。

果たしてこの中から、プーチンの後継者が出てくるのでしょうか(そもそもこの中でチュルキン国連大使などはすでに物故していましたが)。残念ながら、「これぞ」という人物は見当たらない気がします。

ロシア政治家トランプはやはり、どのマークでもプーチンが最上位(撮影:服部倫卓)