2016年、コロンビア政府と反政府ゲリラ組織「FARC」による和平合意が成立した。スペイン人の写真家カタリナ・マーティン・チコ(50)は「ベビーブームが起きている」と知り、元兵士たちの暮らす国内のキャンプ施設を2年がかりで回った。
女性の兵士が4割を占めていたとされる。FARCは公に認めていないが、戦闘中、女性兵は妊娠しても中絶を強いられたという。牧師の看護師が避妊薬を配っても効果は十分ではなく、子どもが生まれることもあった。そうした場合は、ジャングルの中に置き去りにして戦いに挑まなければならなかったという。
写真にうつる元兵士のヨラディスは、6回目の妊娠だった。5回目の妊娠時はゆったりとした服を着て6カ月まで過ごしたが、指揮官に見つかり、中絶させられた。チコは「歴史的な協定によって訪れた平和を記録に残したかった」という。元女性兵が出産できるようになったことは、その象徴でもあるが「大きな歴史の中では、小さな物語として闇に葬られてしまうことを懸念した」と語った。かつて武器や戦闘服でいっぱいだった部屋の中は、カラフルなポスターやぬいぐるみに変わっていた。
和平協定後もFARCの元兵士などが殺害されていることを理由に、一部の元兵士が武装闘争の再開を宣言している。「紛争の後の安全、平和へのプロセスは長い」。チコは彼女たちを追い続けるつもりだ。(本間沙織)
■コロンビア革命軍(FARC)
コロンビアで武装闘争を展開していた反政府の左翼ゲリラ。1959年のキューバ革命の影響を色濃く受け、60年代に結成された。かつては中南米最大の反政府組織で、活動地域はベネズエラ、パナマなど周辺国にも広がっていた。農民が主体だが、幹部にはインテリ層も含まれ、ホームページなどで情報収集活動を行っていた。半世紀を経た2016年、政府と和平合意して武装を解除。17年以降は、FARCという略称はそのままで合法政党として活動を続けている。