科学マジックに大喝采 沖縄で楽しむ年に一度のサイエンスフェスタ

500人を超える観客の誰もが息を潜めてステージを見つめていました。そこに突然、華麗な炎が立ち上り真っ暗な観客席を切り裂くと、観客の顔が明るいオレンジ色の輝きで浮かび上がりました。
11月16日、「OIST サイエンスフェスタ」が行われました。普段はやんばるの森に抱かれた静かなOISTキャンパスが、沖縄全域から訪れた約5,200人の来客で賑わいました。ロボットと一緒に遊んだり、バーチャルリアリティで細菌の内部に入ったり、液体窒素で作られたアイスクリームを味わったり……さまざまな形で科学に親しめるイベントなのです。
このサイエンスフェスタは、沖縄科学技術大学院大学(OIST)にとって最も大切なイベントの一つ。年に一度、科学を通して地域の皆さんと触れ合う取り組みです。
「このイベントで沖縄の子どもたちの教育に貢献したいと考えています」と、企画・運営をリードするOIST地域連携セクションマネージャーの照屋友彦さんは言います。2011年にOISTが設立するよりも前から、地域の人々のための科学イベントを続けてきたそうです。
さて、見どころたくさんのイベントの中でも、特に人気だったのは「科学のマジック」と題したサイエンスショーでしょう。OISTで博士研究員として働くクリス・ペトコフ博士が仲間と一緒に取り組みました。
クリスは、米国のラトガース大学で材料科学と工学の博士号を取得しました。 その後2017年からOISTで研究をしており、現在は光学から有機半導体まで、さまざまなテーマを研究しています。普段は多くの時間を研究室で過ごしていますが、科学を一般の人々に伝えることにとても熱心なのです。
今年のサイエンスショーで、クリスは火を触り、高電圧・高周波の電気を生成するテスラコイルで25万ボルトの電気を操るパフォーマーとなりました。
まずは火の実験でショーが幕を開けました。泡立った液体が入ったタンクにクリスが手を浸して取り出すと、次の瞬間、彼の手は炎に包まれてしまったのです!でも、ご安心を。実は泡の入ったタンクには可燃性の高いブタンガスが混じっていました。ブタンは燃えましたが、液体に含まれていたせっけんと水は燃えないので、クリスの手は無事だったのです。
サイエンスショーはすでにこのイベントの伝統となりつつあり、これまで数年にわたって開催されています。毎回、新しい演目も導入され、パフォーマーの創造力が発揮できる舞台となります。
「合計したら少なくとも1か月半くらいは、ショーで何をしようか考えていましたね」とクリスは言います。 「特にサイエンスフェスタ直前の1週間は自分の時間のほとんどをショーの準備のためにつぎ込みました」と笑います。でも、その周到な準備のおかげでお客さんは大喜び!
炎が消えた後、ショーは真逆な方向へ。すなわち、高温から低温の世界へ移りました。ステージには液体窒素の入った大きなバケツが持ち込まれました。液体窒素は-200℃ほどの非常に低温であるため、周囲の空気が瞬時に凍結し、濃くて真っ白な霧のベールが覆い、ステージを横切って流れ、足元にたまってとても寒くなりました。
クリスは観客の中から希望者を募り、花束を液体窒素に浸すように促します。その花束は、驚くほど壊れやすくなりました。軽く触るとたちまち粉々になってしまったのです。
「私は、科学を子どもたちに紹介するということにとても関心を持っています。なんでかというと、硬い表現になってしまうけれど、公共の利益のためかなと思います」とクリスは語ります。 「OISTがこうした活動を積極的に行うことで、地域社会の皆さんに科学実験がかっこいいと思ってもらえたら、科学がぐっと身近になると思うんです。普段科学に触れる機会の少ない人たちに科学に興味を持ってもらえるということ自体が素晴らしいことです」
クリスは、誰もが科学者になりたいと思ってもらいたい、というのでなく、科学者と広く一般のギャップを埋めたいと考えているのです。
科学ジャーナリストの卵であり、OISTのサイエンスコミュニケーションフェローとして働く私も、この考えに同感です。科学者と一般の人々に横たわるギャップを埋めることは重要です。なぜなら、科学は容易に誤って伝えられ、センセーショナルなニュースになり得ます。透明性が高く、正確な科学記事や科学番組、科学ショーのような、地域のみなさんに直接科学を伝える活動は、科学的な知識を学べる機会となります。
さて、ショーの山場は今年クリスが初めて行う演目でした。まず、固体、気体、液体、そしてあまり知られていないプラズマという、物質のさまざまな状態について観客に説明。プラズマというのは電気を帯びた粒子を含む高温気体のことで、非常に導電性があります。雷は、日常で見られるプラズマの代表例です。クリスはテスラコイルをステージに持ち込みました。これで雷に似た高電圧で高周波の電気を発生させるのです。
ステージにはワイヤーと木製の梁で作られた高さ約1.5メートルのケージが登場しました。「ファラデーケージ」です。ファラデーケージは金属のような導電性材料で作られており、雷のような電磁場をブロックすることができます。聴衆の中から勇気ある男の子がこのケージに入るために選ばれました。
観客は、ケージが数千ボルトの電気で爆破された瞬間を息を飲んで見守りました。果たして中の男の子は……
男の子は無傷のままでした!割れるような拍手喝采を聞いて、クリスは微笑んで挨拶し、ショーは幕を閉じました。
ショーの後、観客たちは、キャンパスで行われている他のプログラムやフード屋台に向かいましたが、その顔には、興奮した感覚がまだ残っていました。もしかしてそれこそが、科学のマジックだったのかもしれませんね!
(OIST広報メディアセクション アナ・アーロンソン)