働き方の悩み、一緒に解決していきたい 横石崇さんインタビュー

―まずは横石さんのこれまでのキャリアについて教えて下さい。
アート・キュレーションを学ぶために多摩美術大学に進学しましたが、ギャラリストやキュレーターになるためには下積みの期間が長すぎると聞いて方向転換。テレビ朝日の子会社やクリエイティブエージェンシーの「TUGBOAT」グループに勤めた後、独立して「&Co., Ltd(アンドコー)」を立ち上げました。ジュエリーブランドの「Tiffany & Co.」が「ティファニーとその仲間たちによる会社」という意味であるように、何かを始める人の一人目の仲間でありたいという想いを込めました。
どうして一人目の仲間でいたいと思ったかというと、前職では何千万人という人たちを相手にしたマス・コミュニケーションの世界にいましたが、東日本大震災が起きたことで、不特定多数の数千万人に伝えることよりも、目の前にいる一人の人生を変えるようなお手伝いをしたいと思うようになったからです。
そのためには、どんなアクションを取ればいいんだろうと悩みました。いきなり「あなたの人生変えます!」だなんて胡散臭いことも言いたくないし、しばらく自分探しのために世界一周旅行もしたことがあります。
いわゆる悶々としていた時期です。ちょうどその頃は震災後で雇用が生まれなかったり、 AIやロボットによって仕事が取って代わられるというネガティブなニュースが出てきた頃だったのですが、自分の周囲には新しい肩書を作ったり、ユニークな働き方をしている人たちがいることに気づいたのです。そこで、彼らのような新しい働き方を実践している人を後押しできるかもしれないと、点と点を結んで面にしていこうと思いました。、すぐさま、当時できたての渋谷ヒカリエに「“働く街・渋谷”をつくるための場づくりを一緒にできませんか」と打診して、働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」(以下、TWDW)の開催が決まりました。
―TWDWの開催の手ごたえは感じていますか?
最初は小さな10人もいない勉強会からスタートしましたが、年を追うごとに大きくなり、7年間で延べ3万人を超える参加者がいます。拠点となる会場も東京だけではなく、横浜や大阪、熊本、滋賀にまで広がりました。さらに昨年からは韓国のソウルにも進出し、これからの働き方について対話することがみんなのものになろうとしているという実感はありますね。厚生労働省の働き方改革プロジェクトの方からも「働き方改革の先駆け」なんて言われました。
―都市部と地方とで、働き方に関する悩みに差はありますか?
たとえば地方は雇用が少ないことも悩みの一つだと思います。だけど、そんな状況だからこそ試行錯誤の中から新しい働き方が生まれてきています。熊本で震災が起き、被災状況確認のために空撮を得意とするドローンが活躍しましたが、その活躍を見た人たちがドローン・パイロットに志願したり、組織化されて新しいマーケットも生まれてきています。そういった意味では都市部よりも地方から新しい働き方のヒントが多く眠っているのかもしれません。
―日本で新しい働き方を見出そうとしたとき、障壁となるのはどんなことですか?
国民の義務に勤労がカウントされているぐらいに、日本人は勤勉に働くことが取り柄でもありますが、一方で視野が狭くなり、ゲーム・チェンジすることに弱く、多様性が失われがちです。加えて、年功序列とか終身雇用といった日本が元気の良かった頃の経営システムがまだまだ強固に残っています。これからの働き方は一つの型ではなく、一人ひとりが自分らしい働き方や生き方を選択できるようになっていきます。そのためにも旧態然としたシステムをアップデートする必要があるのではないでしょうか。どうしてもシステムの中にいると「働き方改革」が、企業による「働かせ方改革」になっていることに気づけないのかなと思います。
―そんな中、TWDWに参加される方々はどういった思いを抱えていらっしゃるのですか?
ここに参加する人もしない人も、誰しもが働き方に対して何かしらの不安や不満があると思います。でもそれを同僚と飲みに行って愚痴を吐いて、そこで終わってしまっては勿体ない。もっと、上下や横の関係だけに留まらずに、ななめの関係をつくり、外の声を取り込んだり、内省する時間をもつことでもっとやるべきアクションのヒントが見つかるのではないでしょうか。TWDWの人気プログラムのひとつに「働き方100人会議」というものがあります。これは参加者に働き方の悩みを持ち込んでもらい、参加者同士で「悩みが解決されるまでどんどん人に話しかけてください」というルールを設けたミートアッププログラムです。いわゆる講師がいるわけではありません。でも、たった90分間で100人の悩みがほぼ解決するという感動的なものでして、様々な出会いや学びが起きるんです。自分が話をしたり聞くことで、悩みが解決するだけでなく、よりよい働き方の創出につながるのだと実感できたプログラムでした。
―確かに、いろんな人の意見を聞くことは、働き方について考える上でも大きなプラスになりそうですよね。
はい。働き方に正解はなくて、どうやってたくさんの視点を手に入れるかが重要です。日本の企業の多くはプロジェクトを社内で完結しがちで、なかなか外に目を向ける機会も少ないですよね。だからこそ、TWDWのような自分と社会とつながっていく感覚が持てる場というのが求められるのかもしれません。
少し話がそれますが、僕が3歳の子どもを育てていて思うのは、学校の先生以外の大人たちからももっと教わる機会が増えてほしいと思っています。たとえば街のパン屋さんやマッサージ師さんが先生になれば、子どもが美味しいパンをつくれたり、マッサージがうまくなったりして、家族も喜ぶし、関わる人全員が幸せになれますよね。
―最後に、今後Tokyo Work Design Weekや&Coでの今後の目標を教えてください。
ソウルに続いて、台湾や中国などでも働き方について対話できる場をつくりたいです。分断が進むアジアの若い人たちと一緒にこれからの時代の働き方や生き方について語り合ってみたい。。それから、多様な働き方が出てくれば出てくるほど、孤独を感じる人も必然的に増えてくると思っています。そういった人たちに寄り添いながら、「一人目の仲間」として、熱がある人たちを応援し続けていきたいですね。
(取材・文/松本玲子)
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