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「支援はスピードが大事。NPOの特質を生かす」

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「ママのきもちトーク」のスタッフ。前列左から兵藤文さん、小川さん、別府律子さん、後列左から土田千鶴子さん、出雲洋一さん(マザー・ウイング代表理事)=仙台市子育てふれあいプラザのびすく泉中央で(写真は小川さん提供)

子育て支援NPOマザー・ウイング理事 小川ゆみさん 「復興庁」特集に登場する小川ゆみさんが理事を務めるNPOマザー・ウイングでは、震災の影響をひきずり、孤立しがちな乳幼児の母親たちを支援してきた。NPOがどう復興行政とつきあえるのか。少しずつコツをつかみ始めている。小川さんに話を聞いた。(聞き手・浜田陽太郎)

――「マザー・ウイング」とは、どのような団体ですか?

仙台市が子育て支援拠点「のびすく」の2カ所目をつくることになり、その指定管理を受けることを主な目的にして2008年に設立しました。子育て中のママの目線を大切にし、子どもを取り巻く家族がまるごと安心して過ごせる「居場所」として、09年にオープンしたのですが、11年の震災で入居している図書館の建物が使えなくなり、近くの建物で仮設の「のびすく」を開いて、8ヶ月ほど過ごしました。


――当時、お母さんたちはどんな様子でしたか?

震災直後、乳幼児の親は一斉に仙台から避難していなくなりました。食べ物やガソリンが不足していたからです。戻り始めたのは、ゴールデンウィークから夏休みにかけてでしょうか。そして震災の時の経験をしゃべり出したのです。多くの家族が震災で大きな影響を受けていました。夫が転職したり、仕事が忙しくなったり、そのストレスをきっかけにDVが始まるなど、親の余裕が無くなったことで、子どもたちが不安定になっている様子が見られました。


頼れる人が周りにいない初めて子育てをする親は、震災前から不安な思いを抱えていた。それが震災で一気に増幅されたという印象です。不安感は、叱るとか怒鳴るとかいう形で子どもに伝わってしまう。吐き出して楽になる場が必要だと考え、「ママのきもちトーク」という集まりを7月から始めたのです。託児つき8人定員の会を、月3回のペースで続けています。震災当初は県内の沿岸部で被災し、仙台の実家やみなし仮設に移ってきた人が多く、参加者の7割くらいを占めていました。


今は、震災から続く不安をやっと話せたという人から、誰にも頼れない孤立感と不安を抱えている人、子どもがかわいいと思えない人など様々な母親が参加しています。一見普通に見える親子の間にも不安は広がっています。そこに、震災の影響がどこまであるのか、細かく線引きして行くことは、5年目を迎える今では難しくなってきています。


――費用はどうやって賄ったのですか?

講師への謝礼もありますが、最もお金がかかるのは託児でした。実は、託児はとても大切です。子育て支援への想いを持っている地域の方が、有償ボランティアの形で子どもたちにじっくり関わってくれています。最初の数ヶ月は、義援金と持ち出しで費用を捻出しました。後先を考えず、とにかく始めたのは、乳幼児にとって「いまここでどんな環境を整えられるか」が勝負であり、スピードが大切だからです。


――その後は、どうされたのですか?

2012年5月からは、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが拠出する「こども☆はぐぐみファンド」から年300~500万円ずつ4年間、助成をいただきました。これは大変にありがたかった。ソーシャルワークのスキルもないままに始めたのですが、ファンドからは「人材育成や組織づくりにお金を使ってもいい」と言われ、おかげで活動を実施するための具体的なアドバイスをくれるスーパーバイザーとつながることもできた。スキルが蓄積され、力がついてきた感覚があります。


しかし、この助成は2015年12月まで。今年1月から9月までは『「5」のつく日。JCBで復興支援。』事業から250万円の助成をいただけることになりましたが、その後はまた新たに探さないといけません。そんな折りに、「みやぎ連携復興センター」(行政やNPOなどと連携しながら支援団体間の連絡調整を行う中間支援組織)から、「心の復興交流会」に出てみませんかと声がかかったのです。


――昨年11月26日に開かれた、復興庁が被災者生活支援の交付金など予算を説明する会議でしたね。参加されてみて、いかがでしたか?

最初、配布された資料を見て、「大丈夫か、復興庁」と思ったんです。「心の復興」事業として「ロボットづくり教室」が例示されていて、「ものをつくる楽しさを感じ、世代を超えた交流の機会にする」とあった。こうしたお祭りやイベントは、「震災後から数多くあったけど、またそれなの?」と。 それで、私たちのように日常的な支援は対象にならないのか、質問してみたのです。


実は、仙台市には色々と働きかけてきました。でも、他の場所にある「のびすく」との公平性もあり、難しいとのこと。いくら国が予算をつけるといっても、計画されてないことを新規に始めるのは、ハードルが高いのです。いつもお付き合いしている市役所の担当課は理解を示してくれていますが、自治体とお話するのは時間がかかります。


――復興庁の説明ぶりも「日常的な活動に国がどこまで予算をつけられるのか、判断が難しい」という趣旨でしたね。会話が今ひとつ、かみあわない印象でした。

あの場での説明はピンと来なかったのですが、昨年 12月に「みやぎ連携復興センター」からヒアリングを受けました。そこで、今後の私たちの取り組みについてどう行政にアプローチしたらよいか、復興庁からの助成を視野に入れて一緒に考えていきましょう、という話になりました。


私どもは、グループケア 『COCO(ココ)二イル』という活動もしています。乳幼児のお母さんたちの心を、ヨガやアートセラピーのワークショップを通してほぐした後、辛い気持ちを話してもらうことが目的です。これだったら、「心の復興」にぴったりじゃないかなと思い始めています。


――一連の経験を通じて、どんなことが分かりましたか?

私たちNPOは、専門性には自信があるからといって「これが大事だ、必要だ」と言うだけではダメなんです。何をどう提案すれば通るのか、行政の言語がわからないといけない。あとは、「一緒にやって面倒くさい人たちじゃないですよ」と伝えることも大切です。


行政とつきあうのは、窓口の一人ではなく複数の人とつながるとうまくいくことがあります。勇気をもって課長と話をするとか、他の課に相談してみるとか。NPOと行政が、お互いに覚悟を決めて歩み寄らないと新しいことはできません。私は、あの説明会で声を上げて本当によかった。そういえば、復興庁の官僚の方が、わざわざNPOに会いに出向いてくるというのも、すごいことなんですよね。


――今後は、どんな活動を展開したいですか?

子育て分野でも問題が顕在化していれば、保健師など行政の専門家が、通常施策として継続的に対応できます。一方、NPOは、問題が顕在化する前に予防するのが本来の役割だと考えています。予防しないと問題はなくならないので。そうした部分も「復興支援」の対象にして欲しいですね。