日本をしのぐ「現金王国」がある。中央アジアのウズベキスタンだ。買い物では札束が飛び交うが、財布を持つ人は見かけない。激しいインフレで紙幣の束が分厚くなりすぎ、財布に入りきらないからだ。
首都タシケントにある市場「チョルス・バザール」に入ると、広大な敷地に店が並び、ありとあらゆるモノが売られていた。解体されたばかりの羊や牛の肉、トマトやタマネギなどの野菜、果物、香辛料、陶器、衣類……。
銀行カードで支払いができるという表示はあるが、買い物客はみな通貨「スム」の札束を渡している。ウズベキスタンでは、まだ給料を現金でもらっている人が多く、銀行口座にあまりお金が入っていないという事情もある。
「Cash is King(現金は王様)」。ウズベキスタンの財務副大臣オディルベク・イサコフ(38)はそう言って苦笑した。2年前から米ドルに対する為替相場は半分以下に急落し、インフレ率は20%近い。「お金が余ったら不動産や牛・羊などを買うか、米ドルに両替する人が多い」。金利がつかない預金では、価値が目減りすることになり、米ドルや資産に換えれば、逆に価値は上がるからだ。それでも買い物の前には、スムに両替しなければならない。
ウズベキスタンでは2017年に1万スム札と5万スム札、今年は10万スム札が発行された。10万スムでも、日本円では1100円ほどだ。その前は自動車など高額なものを買うには大量のお札が必要だった。スーパーの大きいレジ袋13袋に札束を詰め込んで販売店に持参し、数えるのに5時間かかったつわものもいる。
そんなウズベキスタンでも、政府はキャッシュレス化に向けた政策を矢継ぎ早に打ち出し始めた。今年5月、ビザやマスターとカードリーダーの規格が同じ銀行カード「フモカード」がつくられ、デジタル通貨の発行まで視野に入れる。デジタル経済の構築を進める行政組織「NAPM」ファンド部門トップのバホディール・ベコフ(37)は「ブロックチェーン技術を使った電子政府づくりや、デジタル通貨の開発をめざしている」と意気込む。
現金からキャッシュレス、そしてデジタル通貨へ。自国通貨が弱い国の挑戦が続く。(星野眞三雄、文中敬称略)