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スティーブン・キング最新作は、特殊能力持つ子供たちのホラーの世界

Bestsellers 世界の書店から
田辺拓也撮影

秋の注目作と前評判の高かったスティーブン・キングの新作『The Institute』。本作は超能力をもつ子どもたちと彼らの能力を搾取しようとする組織をめぐるホラー小説だ。

冒頭、サウスカロライナ州のデュプレイという田舎町で夜警の仕事をしている元警察官ティムと町の住人たちが描かれる。ティムはのちに物語の展開に大きく関わる。場面は変わり、ミネソタ州ミネアポリスに住む12歳の少年、主人公のルークが登場。ずば抜けた頭脳をもつ天才少年で、わずかだが、意志の力で物を動かすテレキネシスの能力をもっていた。ある晩、殺し屋がルークの家に侵入し、両親を殺害。ルークはメイン州の深い森の中の研究所に連れ去られる。

そこには同じように誘拐された、特殊能力をもつ10代の子どもたちが集められていた。彼らはテレキネシスか、人の心を読むテレパシー能力のどちらかをもっていた。常に監視カメラや盗聴器によって監視され、日々、個別に呼び出され、医者や研究者による不可解な医療検査や虐待行為を受けるなか、衰弱していった。滞在が数週間を過ぎると、「奥の半分」と呼ばれる棟に移動させられた。連れて行かれた子は決して戻ってこなかった。

強いテレパシー能力をもつ10歳のエイブリーや仲間たちの協力で組織の目的に気づいたルークは、施設で働くメイドの助けも受け、研究所から脱走。命がけの逃亡の末、デュプレイでティムと出会う……。

「以前のような残酷さに欠けている。衝撃的なくらい理想主義的で楽観的な物語だ」との批評もある。一方でニューヨーク・タイムズ紙は「本作もまた磨きのかかった魅力的なキングの最高傑作」と高評価だ。

繰り返し描かれるのは、罪のない子どもたちへの非人道的な行為。それをしているのは、繰り返し同じ仕事を長期間続け、モラルの基準が壊れてしまった、私たちと同じ人間だ。読者は自分たちの中にも悪を内在させる可能性があることに気づかされる。

精神的にも肉体的にも過酷な状況に置かれた少年が、孤独を受けとめ、自らの力を信じて困難と闘おうとする成長の物語でもある。たくましい子どもたち、田舎町の人々、超自然現象、心温まる友情など、読者がキングに求める要素がふんだんに詰まっている。

■『侍女の物語』に約30年ぶり続編が出た

著者のカナダ人作家マーガレット・アトウッドはアメリカ文学界にも強い影響力をもつ作家だ。本書『The Testament(聖書)』の前作で、1985年に発行されたベストセラー『侍女の物語』は、女性の権利が剥奪(はくだつ)された近未来の独裁宗教国家ギレアデ共和国を描いたディストピア小説だ。各国で称賛され、カナダ総督文学賞、アーサー・C・クラーク賞を受賞。90年に映画化もされた。2017年に始まった米TVドラマシリーズ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」が大ヒットとなったことで、原作にも再び注目が集まっていた。同年、プロチョイス(中絶権利擁護派)の女性たちが米議会議事堂前でトランプ政権の法案に対する抗議運動をおこなった際、赤いドレスに白いフードという侍女の姿に扮するなど社会現象にもなった。

本書は約30年ぶりに発表されるその続編とあって、発刊前から大きな話題となっていた。本作では、前作の約15年後の世界が描かれる。物語は3人の女性によって語られていく。ひとりは前作の主人公オブフレッドが収容されていた侍女養成施設の教官リディアおばだ。ギレアデ誕生によって女性の自由が?奪された後、彼女がいかにしておばという女性たちを監督する立場に至ったかの半生が語られていく。

もうひとりはギレアデに生まれ、幼い時に母親の元から連れさられ、司令官の幼女となったアグネス。アグネスは継母に命じられた、年老いた別の司令官との結婚から逃れるためにリディアおばの元に身を寄せる。3人目の語り手は幼少時にギレアデを逃れ、カナダで育ったニコル。ギレアデに抗議するデモに参加した後、両親が惨殺され、自らも命を追われる。ギレアデ崩壊を模索する組織メイデイの一員に救われたニコルは、彼らのスパイとしてリディアおばの元に送り込まれる。読み進むうちに読者は、アグネスとニコルのふたりがオブフレッドの娘で、異父姉妹だということがわかってくる。

本書は、続編を熱望するファンの声に応えて書いたものだとアトウッドは語っている。構想は数年前から練り始めた。テレビドラマ版に関しては、ストーリー構成にはアトウッドも関わり、今回の続編の内容と矛盾しないよう制作側に配慮を求めたという。

アトウッドはインタビューに答え、「ギレアデで起きたことは、現実世界でも様々な場所で実際に起きている」「だが、どんな全体主義もいずれは必ず崩壊するものだ」と語っている。物語の後半では、妥協を知らず理想を追い求める、希望に満ちた10代の2人の少女たちの若さと勇気が、ギレアデを崩壊へと導いていく。その結末は、いまのアメリカ社会に提示する著者のメッセージだ。ドラマ化が前提で映像とアクションを意識した物語展開のようにも感じてしまうが、著者はそういった指摘も想定内だろう。30年あまりの年月を経て発表された続編。著者の作家魂が感じられる。

■テンポよく読む、アメリカン・エンターテインメント

『Killer Instinct(キラー本能)』は、犯罪ミステリー小説インスティンクトシリーズの第2弾。ミステリーの大御所ジェイムズ・パタースンとハワード・ローガンの共著だ。

主人公は、異常行動心理学者のディラン・ラインハート。前作『Murder Games (Instinct)』でタッグを組んだニューヨーク市警のエリザベス・ニーダム刑事とともに事件を解決に導いていく。

ディランはイエール大学で教壇に立っているが、ロンドンでイギリスの情報機関MI6と活動を共にしたこともある元CIA(米中央情報局)分析官。ゲイである彼はトレーシーという白人男性と結婚していて、ふたりの間にはアナベルというアフリカ系の養女がいる。

物語は、マサチューセッツ工科大学の原子物理学者で、イラン生まれのジャハン・ダルビッシュ教授が、マンハッタンのホテルで美しいイラン人女性に殺害される場面から始まる。その後、イエール大学で授業をしていたディランの携帯にニューヨークのタイムズスクエアで大規模な爆破テロ事件が起きたという知らせが入る。

ディランは、トレーシーとアナベルの安否を確認するため、自宅のあるマンハッタンへ向かう。タイムズスクエアでは、エリザベスががれきと死傷者の散乱する現場で、ドローンを使った再攻撃に見舞われていた。

上司を助けた場面がテレビで報道されたことで、美談としてコメントを取ろうとするマスコミに追われるエリザベスは、ディランのアパートに身を寄せる。彼女はダルビッシュ教授殺害事件の捜査にあたっていた。

翌日、ディランのアパートに弁護士を名乗るアラブ系の男性が訪ねてくる。弁護士はディランのCIA時代の友人アーマドの代理人で、アーマドがタイムズスクエアで亡くなり、生前から自分の死後ディランに封筒を渡すよう頼まれていたと言う。ディランは、優れた観察眼と巧みな話術によって、すぐに男のうそを見抜く。エリザベスの捜査を手伝うなか、教授殺害とタイムズスクエア爆破テロとの間に関連性があることに気づいていく。

物語は全118章。いつものパタースン作品同様、1章わずか数ページという短い章立てで話が進む。ニューヨークの街を舞台にしたアクションシーンや新たなサスペンスの要素が、短いスパンで提示されていく。次々と個性的な脇役が登場し、物語を展開させる。登場人物の立場や性格も描かれ、ひねりのある会話やジョークも多い。読者が話の筋を見失わないよう、前出の内容のかみ砕いた説明を交えながら話が進む親切な構成がとられている。読後の余韻や作品の深みといったものとは無縁とも言えるが、相変わらず読みやすい。とてもよくできたアメリカの典型的なエンターテインメント小説と言えるだろう。

映像版について補足すると、2018年に始まったCBSテレビのドラマシリーズが今年8月に打ち切られたばかり。全米ネットワークの視聴者は50代以上の、文化的に保守的な人々が多数を占める。主人公がゲイの男性という設定は、まだまだ受け入れられないのがアメリカの現実だ。

米国のベストセラー(eブックを含むフィクション部門)

10月6日付The New York Times紙より

『 』内の書名は邦題(出版社)

1 The Institute

Stephen King スティーブン・キング

ある組織が超能力をもつ子どもたちを誘拐、監禁し、彼らの能力を利用する。

2 The Testaments

Margaret Atwood マーガレット・アトウッド

1985年に発行されTVシリーズで大人気の『侍女の物語』の続作。

3 Where the Crawdads Sing

Delia Owens デリア・オーウェンズ

ノースカロライナ州の田舎町の沼地で暮らす孤独な少女をめぐる殺人事件。

4 Land of Wolves

Craig Johnson クレイグ・ジョンソン

TVシリーズでも知られるロングマイヤー保安官を主人公とする小説の第15作。

5 The Goldfinch

『ゴールドフィンチ(1) (2) (3) (4)』(河出書房新社)

Donna Tartt ドナ・タート

一枚の名画に翻弄(ほんろう)される少年の人生を描いた長編小説。映画化で再浮上。

6 The Handmaid’s Tale

『侍女の物語』(早川書房)

Margaret Atwood マーガレット・アトウッド

2の前作。近未来の独裁国家で生きる女性が主人公のディストピア小説。

7 It

『IT (1) (2) (3) (4)』(文春文庫)

Stephen King スティーブン・キング

10代で「IT」と遭遇した7人が大人になり再びそれと対決。1986年刊。

8 The Girl Who Lived Twice

David Lagercrantz ダビド・ラーゲルクランツ

故スティーグ・ラーソンから受け継いだミレニアムシリーズの最新作。

9 Killer Instinct

James Patterson and Howard Roughan ジェイムズ・パタースン&ハワード・ローガン

インスティンクトシリーズ第2作。ニューヨークで再び大規模テロが発生。

10 The Tattooist of Auschwitz

『アウシュヴィッツのタトゥー係』(双葉社)

Heather Morris ヘザー・モリス

ナチス強制収容所の入れ墨係と同胞のユダヤ人女性との恋を描いた感動作。