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自動運転車はセンサーの固まり データ処理の頭脳はゲームで磨かれた

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自動運転のAIは、ほかの車の0.5秒先の動きを予測し、どう車が動くべきかを判断する一つの材料としている=エヌビディア提供

■自動運転に迫る安全性能アウディ

世界の自動車業界で、自動運転時代の号砲を鳴らしたと言われる車が、2017年10月に欧州で発売されたドイツ・アウディのフラッグシップであるA8だ。

自動運転の機能を示す6段階のうち、「レベル3に対応可能な量販車として、世界で初めて発表された」(アウディジャパン広報)とうたう。「レベル3」」対応のシステムを搭載すれば、中央分離帯がある片道2車線以上の高速道路などで時速60キロ以下の渋滞になった時、車に運転を任せられるという。

自動運転のレベル

ただ、法整備が整わないため、まだ世界のどの国でもレベル3の自動運転は認められていない。販売中のA8も搭載するのはレベル3対応でなく、レベル2の先進運転支援システム(ADAS)。将来的にもレベル3での走行はできない。だが、現状の技術を体験するだけでも、車の「未来」を実感することができる。

東名高速でA8に試乗した。走行中、ハンドル横のスイッチを押すと、前の車と一定の距離を保って走行する「クルーズコントロール」が作動した。時速0~250キロの範囲で使える。すぐに前のトラックをA8が認識し、一定の距離をとりながら追いかけ始めた。トラックが加速すれば速度を上げ、減速すると遅くなる。速度調整はとてもスムーズだ。隣の車線から乗用車が前に入ったが、あっという間に対象をその乗用車に切り替えた。渋滞が始まり、前の車が大きく減速して停止した。A8は自動でブレーキを強く利かせた後、少しゆっくり進んでから停止した。まるでベテランのドライバーのような運転だ。

2017年10月に欧州で発売されたアウディのフラッグシップA8=中川仁樹撮影

別のスイッチを押すと、車線からはみ出さないようにドライバーを助ける「レーンアシスト」がオンになった。ゆるやかな右カーブに入ると、ハンドルが少し右に回り、車線の真ん中を進む。以前の車なら、右や左の白線に寄って不安に思うことも珍しくなかったが、精度が格段に上がったと感じる。

二つの機能を使えば、ハンドルやアクセルから、手と足を離しても、ある程度は正確に走るだろう。自動運転車に乗っているような錯覚に陥る。

そんな気持ちを見透かしたように、メーターの間に「ステアリングを操作してください」と警告が表示された。ハンドルを握る力が緩み、「手放し運転」と判断されたようだ。優秀なシステムでも、急カーブで道を見失ったり、歩行者が飛び出してくるなど予想できない状況に遭遇することもある。ADASは文字どおりドライバーを支援するものであり、運転の責任がドライバーにあることを思い出させる仕掛けだ。

アウディA8のナンバープレートの下に見える黒い物体が、量産車で世界で初めて搭載したレーザースキャナー。レーダーでは把握できない周囲の物体の形状まで分かる=中川仁樹撮影

自動車メーカーが、ADASや自動運転の技術開発に力を入れる大きな理由が安全性の向上だ。全米自動車協会(AAA)が18年にまとめたリポートによると、レベル2にあたるADASをすべての車が装備していれば、乗用車の衝突事故の40%、死亡者数の29%を防ぐことができたとされる。確かに、A8を体験して、渋滞や長距離ドライブの際の負担軽減や、うっかりミスの減少に大いに役立つと実感した。心に余裕が生まれるせいか、いつもに比べて早く目的地に着きたいという気持ちにもならなかった。

■23のセンサーを制御、「頭脳」はスパコン級

A8は、車の「目」となって周囲を360度監視するためのセンサーを23も装備する。前後左右にある四つのカメラや長距離と中距離のレーダーのほか、量産車で世界初となるレーザースキャナーも搭載した。約80メートル先の物体を、形状まで把握できるという。

独アウディの最高級車A8に搭載されたセンサーのイメージ図=アウディジャパン提供

ただ、搭載するセンサーの数が増え、車が自動で動く範囲が広がるほど情報量も増えていく。正確に情報を処理し、間違いを起こさないシステムが不可欠になる。そのためアウディがA8用に力を入れたのが、車の「頭脳」であるコントロールユニットだ。

中核には、自動運転用のプロセッサーで世界をリードする米エヌビディア製の、スーパーコンピューターにも使われるチップを採用。さらにエヌビディアのライバルである米IT大手インテル系のモービルアイ製品など三つのプロセッサーを使う贅沢な仕様とした。それぞれのプロセッサーがセンサーを分担し、刻一刻と送られてくる情報を迅速に処理。車の動きをコントロールしたり、ドライバーに警告したりする。

A8が周囲をどう認識しているのか、よく分かるのが駐車をする時だ。ナビの画面が変わり、上空からカメラで撮影しているような画像が表示される。駐車場の白線や周囲の車の形状、障害物の位置などが正確に映し出され、特に狭い駐車場ではとても助けられた。

アウディA8は駐車の時や、ほかの車がドライバーから見えにくいと判断した時に、ナビ画面にバードビュー(上空から見たような画像)や、推奨の進路が表示される=中川仁樹撮影

アウディジャパン社長のフィリップ・ノアックは「アウディは、中国、アメリカ、ヨーロッパなど、主要市場で法規制の動向を分析しており、レベル3の自動運転車を投入できるよう準備を進めている」と話す。

■100年に1度の大変革期

世界の有力自動車メーカーが、レベル3の自動運転車を投入する節目とみているのが2020年ごろ。日本政府も法整備を進めており、来年の東京五輪に合わせるように、日本で真っ先に導入される可能性もある。電動化やインターネットとの接続、カーシェアリングなども含めて新技術の開発は加速する一方だ。自動車業界は100年に1度の大変革の時代を迎えたと言われ、トヨタ自動車社長の豊田章男でさえ、「トヨタが選ぶのではなく、選ばれる立場だ」と危機感を訴えている。

ドイツの部品大手ボッシュによる自動運転システムの搭載車(2013年の同社資料より)。天井の「レーザースキャナー」は周囲の物体の形状まで分かる。ほかに複数のカメラやレーダー、GPSの精度を高めるシステムを搭載。自動運転の時代には、ほかにリアルタイムの道路規制や渋滞、事故の情報などを組み合わせた高精度のデジタル3D地図が必要とされる=ボッシュ提供

開発競争が激化する中、エヌビディアは自動運転の世界で存在感を高めている。メルセデス・ベンツのダイムラーやトヨタ、ボルボなど世界の有力自動車メーカーや部品メーカー370社以上と協力。自社でも独自の自動運転システムを開発し、ベンチャー企業などが実証実験をするハードルを大きく下げてもいる。

実はエヌビディアは、パソコンの映像処理を担うグラフィックボードで世界のトップメーカーとして知られる。1999年に世界初のGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)である「GeForce256」を発売。最近では、ハリウッド映画並みの3D技術を個人向けパソコンで実現し、世界をあっと驚かせた。いまもGPUではGeForceが最強との呼び声が高い。

GPUの得意分野は、同時に多数の計算を実行する超並列処理。これを生かして最近はスーパーコンピューターの分野にも進出し、ライバルに比べて低コストで高性能な製品を送り出している。自動運転に不可欠な3D空間を把握する優れた能力は、ゲームで培った技術がベースにあるというわけだ。

すでにエヌビディアはレベル4や5の完全自動運転も視野に入れている。日本法人を訪ねると、シニアソリューションアーキテクトの室河徹が、17年に初号機を発表した最新のAIプロセッサー「DRIVE AGX Pegasus」を見せてくれた。

レベル5の自動運転にも対応するエヌビディアの最新AIプロセッサー「DRIVE AGX Pegasus」=エヌビディア提供

長さ23センチ、幅38センチとノートパソコンぐらいの大きさだが、安全性を高めるために演算機能を2系統搭載。毎秒320兆回の驚異的な演算能力を誇る。以前の自動運転の実験車両がトランクいっぱいにコンピューターなどを積んでいたことを考えると、驚異的にコンパクトなサイズだ。室河は「最近の(自動運転の)ロボタクシーはトラブルに備え、Pegasusも2系統搭載する傾向にある。小型化したからできることだ」と自信を示す。

実験初期のころの自動運転車のトランクには、パソコンなどの機材が山積みだった。小型化が可能になったことで、実用化が視野に入った=エヌビディア提供

エヌビディア技術顧問の馬路徹は、同社のもう一つの強みを「道路状況に合わせた運転をAIに学習させるディープラーニング(深層学習)のノウハウにある」と説明する。

例えば走行中、道路の構造や他の車や歩行者の動き、周囲の状況などに応じ、どのように次の動作を決めるべきなのかを、AIに効率的に教える必要がある。「まっすぐ走る」が基本的なシナリオだとすると、「横の車が割り込んできた」「子どもが飛び出してきた」「エンジンが故障した」など突発的な事態もバーチャルの世界で再現する。AIが適切に対応できるよう学習する「事態」は、最大で1億通りにものぼる。

バーチャル空間でのシミュレーションの様子。ほかの車や道路が3Dできれいに描かれている=エヌビディア提供

AIがどのように周囲を認識しているのかを動画で見せてもらった。周囲の車や人、柱などに番号をつけて動きを監視。0.5秒先の位置を予測し、その通りに動いたかも確認している。また、人間のドライバーと同様に、交通信号や標識を詳細に認識できる地点よりかなり前から、交差点を大局的に認識できる。そのためAIは余裕をもって準備態勢に入ることができる。

人が運転に関与しない完全自動運転ではミスが許されない。そのため、演算も複数のシステムで計算し、結果を確認する。演算結果にエラーが出た場合、自動で修正する機能も備えているという。

自動運転のAIは、ほかの車や歩行者、信号などを番号を使って識別し、動きを監視する=エヌビディア提供

演算にAIを活用することによって予測の精度は飛躍的に高まっており、例えば、以前は対象物までの距離を把握するにはカメラが二つ必要だったが、いまは一つのカメラのみで距離を測定する技術が開発された。AIのトレーニング時に、正確な距離を測定できるレーザースキャナーとレーダーの測定結果を学習データに使用することで可能になった。

現状では、自動運転の実現には1台あたり100万円以上のコストがかかるとみられているが、様々な分野で技術革新が進めば、将来的には、大幅な削減も可能になるだろう。

連載「くるま新世紀 デジタル時代の開発最前線」

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