ニューヨークの裁判所でこのほど、2018年10月に左翼の抗議デモ参加者を襲った米極右団体「プラウドボーイズ(Proud Boys)」のメンバーに対する審理が行われた。被告のマックスウェル・ヘアが証言台に立つと、検察官はすぐに同団体創設者のギャビン・マッキネスに関して質問した。
18年の演説で、マッキネスが人びとへの攻撃について話した時、あなたも一緒に壇上にいたのは事実か?
別の機会でマッキネスが「最近、破壊力が不足している」と発言したのを覚えているか?
それから、人は何を置いても、誰かをたたきのめし、そしてたたきのめされない限り男になれない、というマッキネスの信念をよく知っているか?
検察官はヘアを追及した。
19年8月14日の最終弁論だった。検察官はさらに「ギャビン・マッキネスは、無害の風刺作家ではない。彼は憎悪の扇動家だ」と単刀直入に切り込んだ。
襲撃事件は、18年10月12日、ニューヨーク・マンハッタンのアッパーイーストサイドで起きた。共和党員専用クラブのイベントにマッキネスが登壇し、日本で1960年に起きた10代の右翼青年による日本社会党指導者(訳注=浅沼稲次郎委員長)の刺殺事件を「再演」して見せた。
クラブの周辺には、抗議する人びとが集まっていた。その前夜には、覆面をした者たちがクラブの窓を割ったり、入り口ドアに無政府主義者のシンボルをスプレーで落書きしたりして、今後も襲撃するといった内容のチラシをまいた。チラシはマッキネスを「ヒップスター・ファシストのピエロ」と非難していた。
マッキネスが後で語ったことだが、当日12日、彼はクラブを立ち去る際にプラスチックの刀を振り回した。夜になって、プラウドボーイズのメンバーや仲間が駆けつけ、マッキネスの支持者10人が覆面姿の左翼のデモ参加者4人に襲い掛かった。警察の話では、この4人は黒い服とマスク姿で、プラウドボーイズを阻止するためにクラブの周辺を見回っていたという。
マッキネスは雑誌「Vice(バイス)」の共同創設者でもあったが、この18年10月の襲撃事件に関しては起訴されなかった。
しかし、暴行未遂と騒乱罪で起訴されたヘアと、もう一人のプラウドボーイズのメンバー、ジョン・キンズマンの審理中、マンハッタン区検察官は襲撃事件の責任の一端はマッキネスにある、と示唆してきた。
だが最終弁論で、被告側はマッキネスについて「彼は悪者扱いされている」と主張した。
18年10月の襲撃事件のビデオでは、ヘアとキンズマンが他の8人の仲間と一緒にAntifa(アンティファ)のメンバーとみられる4人を取り囲み、殴りかかった。アンティファは反ファシスト(anti―fascists)を自称するグループで、極右集団と闘ってきたグループだ。
審理は19年7月末に開始され、ヘアとキンズマンは自分たちの行為は正当だと主張してきた。プラウドボーイズに関係した他の7人は罪状を認め、残る1人は裁判待ちだ。
16年にプラウドボーイズを創設したマッキネスは襲撃事件の現場にはいなかった。しかし、マンハッタン区検察局は今なお「好ましからざる人物」と見ている。
陪審員に理解してもらおうと、検察側は繰り返しマッキネスの発言を取り上げ、プラウドボーイズは愛国的でポリティカルコレクトネス(政治的公正)を拒否する「欧米優越主義者」を自称するが、暴力に訴えがちであり、女性差別や人種差別、外国人嫌いの考えに寛容だ、と主張した。
検察側はさらに、マッキネスの発言を何度も引用し、最近、組織から距離を置く姿勢を見せている彼自身と組織のかかわりについても追及した。
マッキネスは18年11月、不本意ながらプラウドボーイズの「あらゆる地位から、永遠に」退く、と発言したのだった。彼の弁護士が、そうすれば逮捕されたプラウドボーイズのメンバーが救われるかもしれない、と助言したためだった。
その際マッキネスは、プラウドボーイズは過激派ではなく、白人至上主義者とも関係していないと語った。もっとも「そもそも白人至上主義とか白人優越主義といった考え方はたわごとに過ぎない」「そんな人々は存在していない」とも付言したが。
19年8月12日、マッキネスはメールで「私は無差別暴力を持ちかけたことはまったくない」と答え、自衛を説いただけだと語った。
また、自分の人種差別のジョークやパロディーは誤解されてきた、とも言った。裁判の審理中、検察側から彼に関する幾多の意見が出されたが、いずれも不正確で誤解を招きかねない内容だった、とも言った。その中には、前大統領のバラク・オバマを「モンキー」と呼んだことも含まれているが、マッキネスは「100%でたらめだ」と言うのだった。
だが、マッキネスは右翼の活動を全面的に捨て去ったわけではない。同年7月には、ワシントンの集会に現れて、集まった人びと――プラウドボーイズのメンバーもいたとみられる――にアンティ・ファシストとの闘いについて意見を述べ、「真実として、我々は闘いを開始するのではなく、決着をつけるのだ」と語った。
裁判における最初の証人は、名誉毀損(きそん)防止同盟(ADL、訳注=反ユダヤ主義に抗議する米最大のユダヤ人団体)の研究・調査機関「過激主義センター」所長のオレン・シーガルだった。シーガルは、自衛のためだけに闘っているというプラウドボーイズの主張に反論。カリフォルニア州バークリー、その他の地で人々を攻撃してきたと言われる事案をリストアップして見せた。
マッキネスは暴力をプラウドボーイズの「中核の教条」の一つに祭り上げ、敵を攻撃することを勧め、賛美した、とシーガルは証言した。そしてマッキネス自身、17年のドナルド・トランプ大統領就任式の前夜にワシントンで抗議デモの参加者を殴った、とも。
そのうえ、マッキネスは黒人女優のジェイダ・ピンケット・スミスを「モンキー」呼ばわりし、米国を「白人の国」と呼んだ、とシーガル。
マッキネスはしばしば自分のコメントを風刺だと言ったが、シーガルによれば、その種の発言は一見巧妙に表現されたようにみえる。ヘイトはユーモアと組み合わされると「人びとの心に浸透しやすくなり、特に若者たちのオンラインに浸透してゆく」とシーガルは語る。
ヘアとキンズマンを含め、プラウドボーイズの3人のメンバーの証言は、マッキネスのものとされる発言を精査することにつながった。
ヘアは、検察官が引用したマッキネスの扇動的発言のいくつかは聞いたことがあると認めた。しかし、マッキネスが暴力をあおり立てたのは聞いたことがない、と言い張った。「破壊力が不足している」とか「闘いは全てを解決する」といったマッキネスのコメントは「ボクシング」に関連した発言だ、とヘアは主張した。
19年8月13日、最後の被告側証人をしたキンズマンは、マッキネスについて「ごく普通の保守的な男に過ぎない」と言った。
首席検察官のジョシュア・スタイングラスが問いただした。ゲイの人々やユダヤ人、イスラム教徒、女性などに否定的な発言をしたとされるマッキネスの言葉をどう受け止めたかのか?
「そうした言葉の引用には同意できない」とキンズマン。「でも、ギャビン(マッキネス)がそれを擁護するなら、その通りだ」と答弁した。
もう一人の被告、プラウドボーイズのクリストファー・ライトは、18年10月12日の襲撃事件とその後行われたヘアらの祝賀パーティーの模様を自分の携帯で撮影した。証言台で、ライトはマッキネスについて「政治的な論評」に関与している「コメディアン」だと思う、と言った。
スタイングラスの質問に答えながら、ライトはマッキネスがゲイの人々やアジア人を中傷する時は、その場の状況にもよるが、面白いと思った、と言った。
マッキネスが大統領だったオバマを「好みのモンキー」と呼んだが、それは面白かったか、とスタイングラスが問うた。
「そのジョークを俺が面白いと思うか? 思わない」とライト。彼は黒人だ。「面白いとは思えないジョークはいっぱいある」とも言った。(抄訳)
(Colin Moynihan)©2019 The New York Times
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