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オルタナティブ教育に前のめりの台湾、なぜ? トップに直接聞いた

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台湾・台北市中心部にある「和平実験小学校」。実験中の教室では、子どもたちの笑い声が響いていいた

■潘文忠教育部長(教育相)

――台湾の公教育にとって実験教育が大切なのは、なぜでしょうか。

台湾は1949年から87年まで、戒厳令下にありました。解除後の開放的な社会の空気のなかで、さまざまな民主化の動きとともに「大人数の一斉授業をやめて小さなクラスをつくろう」とか「もっと学校をつくろう」といった教育改革を求めるデモが起きました。こうしたなかで、保護者たちは自分の子が学校に合っていなかったり、不登校の兆候が見られたりすると「ほかの選択肢はないか」と考えるようになり、90年代には自らの手で学校を設立するようになったのです。

台湾の潘文忠・教育部長(教育相)

政府側もそうしたニーズにこたえなければと思うようになり、99年の教育基本法で、こうした体制外の教育を法律で規定しました。それでも保護者たちは大変だったと思います。子どもが小学校を終えれば次はどうしようと、ひとつずつ段階を追って歩いていかなければならなかったからです。こうしたニーズのなかで、2014年に「実験教育三法」が成立したわけです。

根底にあるのは、保護者の教育選択権と、子どもが自主的に教育を選択できる権利を認めたいという思いです。いま実験教育は、一般的な学校教育への刺激にもなっていると感じています。実験教育の成果を一般の学校に将来フィードバックすることで、台湾の教育は発展していく。台湾では今年の秋から新しい学習指導要領が始まります。実験学校では、創立当初から、子ども興味や関心を重視して自発的に学ぶことを重視してきた。そういう学習のプロセスが、今回の指導要領のコアの価値に、かなり反映されています。

――課題はありますか。

山積しています。ひとつは実験学校を卒業した子どもの進路です。指導要領に沿わないかたちで教育を受けているので、従来型の入試に合格するのが難しい場合もある。海外の大学に留学しようとしても、台湾の学力テストの結果を提示する必要があるなど困難に直面することがあります。特別な入試の仕組みをつくるなどの改革を行うことで、潜在力のある子どもが、入りたい大学に進学できるように努力しています。

質の確保も大きな課題です。新しい実験学校が続々とできるなかで、教育方法やカリキュラム開発の面で困難に直面する学校も多い。政府の「推進センター」を設立した理由でもありますが、専門家が視察したり、学校に入っていって一緒にカリキュラムをつくったりしています。審査や評価、視察の仕組みをしっかりしないと、多様な教育を発展させることはできないでしょう。

 

■鄭同僚・政治大学副教授(台湾実験教育推進センター・プロジェクトリーダー)

わたしは95年に米国留学から帰って以来、教育にかかわってきました。わかったのは、小さな変化を地道に重ねても、根本を変えないと結局、はね返されてしまうこと。時代はこんなに変わっているのに、教育現場は何十年も変わらない。壇上に立って何時間も延々と教えっぱなしで生徒は聞いているだけ、という光景が繰り広げられている。パソコンからもスマホからも知識を得られる時代に、なぜ、ひとりの先生から一方的に知識を得なければならないのか。

生徒たちは大学に進学するためだと思って勉強は続けても、こんな風に育つうちに、入学するころには何の興味も持てない、つまらない人間になってしまってしまう。台湾の将来を考えた時、教育の根本を変えるべきだと思って、実験教育を研究してきました。「実験教育三法」が成立したのは、本当によかったと思っています。

――実権教育が公教育のなかで位置づけられたことで、社会は変わりましたか

変化が出てくるのは、多くの卒業生が社会に出てからでしょう。それでも、授業料の高い私立でも「20人の募集に100人来た」という話をよく聞くし、公立には入りたい人が殺到しているといいます。人々が、新しい教育に希望を見いだしているということでしょう。受験をして進学して、すごい大学に入るのが一番だとすべての人が考える世界では、いつだって成功する人は少数にすぎない。出生数が激減し、高齢化が進むなかで、「すべての子どもが大事で、優秀」という社会をつくらなければ、なりたたない。古くからある「種の親子実験小学校」などの子どもを見ていると、自立的で自主的。有名な登山家になった人もいるし、パティシエもいる。一つの価値観にとらわれない人が育っているな、と思います。

――実験学校が急激に増えたことで、財務などに不備があったり、質が悪かったりするところも出てきていると聞いています。

「実験教育推進センター」では、多くの学校に赴いて視察をしているが、質の悪いところもあるのは事実です。いまは自治体が実験学校の数を競い合うような状況になっているので、自治体側から「つくれ」と言われて消極的な気持ちで設立するところもある。シュタイナーやモンテッソーリなどの教育理念にしても、形だけ導入しても、本当の変化は生じない。大事なことは、教育現場の人たちの考え方を変えることだろうと思う。人材育成は大事な役目で、地方に行ってワークショップなども積極的に開いています。

――実験教育は将来、どれくらまで増えるでしょうか。

独自のカリキュラム編成など手間もかかり、ハードルが高いので、そんなに速いスピードでは増えないと思う。新しい学習指導要領に実験教育の成果が取り込まれたことからも分かるように、これからは一般的な学校のあり方も変わっていくでしょう。そうなれば、実験学校の必要性も減っていくかもしれない。「きょうの実験教育が、あすの公教育を変える」。私はそう思っている。実験学校と、学習指導要領にそった学校は馬車の両輪のようなもの。片方は軽くてスピードが出やすいが、もう片方はしっかりと重く、なかなか速くならない。それでも片方の動きに引っ張られて速くなっていく。そうやって、台湾の教育全体が変わっていけばいい。

■特集「変われ!学校」で取材した世界の専門家のインタビューを配信しています。毎日朝に新しい記事を配信します。

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