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ウサイン・ボルトが心配する、子どものスポーツ選手に過度のプレッシャー

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Usain Bolt stretches with members of New York Road Runners in Central Park, New York on July 25, 2019. The world's fastest man has retired from competition, but Bolt is still on the move — and playing pickup soccer. (Brittainy Newman/The New York Times)
ニューヨーク・セントラルパークでストレッチをするウサイン・ボルト=2019年7月25日、Brittainy Newman/©2019 The New York Times

ウサイン・ボルト。競技場に入った途端に8万人もの観衆の目をくぎ付けにし、見事な走り一つでさらに熱狂させる陸上界のスター。彼のような人材は今後、陸上競技の世界に出てくるだろうか?

記録は破られ、スターは出てくる。しかし、それでもウサイン・ボルトのようなスターは出てきそうにない。100メートル走でも200メートル走でも、誰かがボルトの記録(訳注=100メートル走で9秒58、200メートル走で19秒19。いずれも世界記録)を塗り替えるだろう。だが、そうした選手がボルトと同じようなスタイルと長い選手寿命を兼ねそなえているだろうか?

ボルトは幸福な引退を遂げ、今も世界のスーパースターとして生きている。すなわちウサイン・ボルトであり続けている。彼は2019年7月の後半、スポンサーのゲータレード(Gatorade)の顔としてニューヨークに滞在、水和(訳注=水溶液の中で、溶質の分子またはイオンがその周りにいくつかの水分子を引き付け、一つの分子集団を作って安定化する現象)の重要性について講演した。

あり得ない話だが、彼は世界の強豪を相手に戦うまでにあと2、3週間のトレーニング期間もない現役選手のように見えた。 世界最速のスプリンターになるために必要なことは何か。サッカーへの思い、陸上界にカムバックするチャンスはあるか――ボルトはインタビューで語った。

要約編集したQ&Aは以下の通り。

Q: 競技がなくなって寂しくないですか?

A: もちろん、なくなって寂しいに決まっています。でも、トレーニングは恋しくありません。

Q: それこそ次に質問しようとしていたことで、つまり、あなたはトレーニングがなくなっても寂しくないという訳ですね。

A: 寂しくないです。いい体形を保つために鍛えようとしているので、ジムでの普通のトレーニングだけはやっていますが、トレーニングはまったく恋しくありません。

Q: ではどう一日を過ごしていますか?

A: 忙しいです。ゲータレードでの仕事のことは承知の通り。僕はスポンサーの仕事をしています。だから、今はその仕事が中心。別のビジネスを手掛けようともしています。僕らが開設した学校が始動しているのです。

Q: 秋にカタールで開かれる世界陸上競技選手権大会には行きますか?

A: 分かりません。いま思案中です。その頃はあれこれ忙しくなりそうですね。でも、オリンピックには間違いなく行きます。

FILE -- Usain Bolt of Jamaica, left, wins the men
2016年リオデジャネイロ・オリンピックの男子100メートル決勝で優勝したボルト(左)=2016年8月14日、Chang W. Lee/©2019 The New York Times

Q: 次の偉大なジャマイカ人のスプリンターは誰でしょうか?

A: 正直、分かりません。女子は本当によくやっています。シェリーアン・フレーザープライス(訳注=08年北京、12年ロンドンのオリンピック女子100メートルで連続優勝した)は、今も頑張っている。エレン・トンプソン(訳注=16年リオデジャネイロ・オリンピック女子100メートルと200メートルで優勝)もよくやっている。もう一人、ブリアナ・ウィリアムズがいますね。彼女は19年6月に世界記録に近い記録を出しました(訳注=ジャマイカ選手権女子100メートルで10秒94。世界記録は1988年にフローレンス・ジョイナーが出した10秒49)。男子では、誰が台頭してくるのか僕には確信がありません。

Q: 米国人選手は? あるいは世界に通用する特別な才能を持った選手は他にいますか?

A: この1年間、僕は、誰かは素晴らしい走りを見せるだろうとずっと言ってきた。でも僕にとっては、結局のところ世界選手権に尽きます。多くの選手は、一度はうまく走る。しかし何度も試合や競争をこなし、世界選手権の優勝者でなければならないという気持ちを持ち続ける選手となると、誰になるのか、誰も分からない。

Q: 米国のノア・ライルズ(訳注=2019年の国際陸上競技連盟主催のダイヤモンドリーグ男子200メートルで世界歴代4位の19秒50を記録、100メートルでも9秒86で勝利した)は? 彼の走りを見ましたか?

A: 見ましたよ。彼が最後に競り勝ったのを見ました。彼は昨シーズン、いい仕事をたくさんしました。今シーズンも順調な走りを見せている。だが、僕が言ったように、すべては世界選手権に帰結するのです。彼は三つのレースを走って他の選手を圧倒してなお、次のレースでもいける自信がありますか? 僕が見たところ、彼には才能がある。しかし、世界選手権ではどうなるか、それを見てみないと。

Q: あなたはコーチにはならないのですか?

A: ノー。僕は絶対にコーチではない。僕のコーチは、コーチができると言ったけれど、自分に忍耐力があるとは思っていません。

Q: 選手たちがあなたの言うことなら聞く、と思っていないのですか?

A: 聞くかどうかの問題ではない。僕がこれまでやってきた中で、コーチがいかに苦労したか、僕はよく知っています。そんなことをうまくできるとは僕自身思っていない。

Q: あなたなら自分のような個性をうまく生かせるだろう。そう思わないのですか?

A: それはそうだが、実際には実に多くの、異なった個性があるのです。誰一人として同じ個性ではない。個性の違う選手たちと何年も向き合わなければならなかったコーチがいかに大変だったか、僕は分かっている。それぞれ異なる個性を持った選手を育てる忍耐力を僕が持ち合わせているとは思っていません。

Usain Bolt speaks to members of New York Road Runners in Central Park, New York on July 25, 2019. The world
セントラルパークで「ニューヨーク・ロードランナーズ」のメンバーと話すボルト=2019年7月25日、Brittainy Newman/©2019 The New York Times

Q: あなたはかつてオーストラリアのクラブでサッカー選手になろうとした。サッカーの仕事はどうですか?

A: 僕はサッカー選手になりたかった。でもうまくいかなかった。だからやめてビジネスに専念することにし、今は僕のスポンサーと活動しています。

Q: 今もまだピックアップゲーム(訳注=公園や広場などで、そこにいる人を適当に集めて試合を繰り広げること)はやっていますか?

A: もちろん。僕らにはトーナメントがあり、6人一組で試合をしています。僕は毎週土曜日、仲間と一緒に試合をしているのです。

Q: そうするとジャマイカで毎週土曜、あなたはサッカーをしているのですか?

A: そうです。まだ始めたばかりだけれど。僕らは火曜日と木曜日にも友達全員でプレーしていますが、土曜日はトーナメントのようなものです。

Q: 私の想像だと、あなたはストライカーだ。

A: そうです。

Q: ディフェンスはやらないのですか?

A: やりません。でもディフェンスはできます。どうしても必要な時はやりますよ。時には仲間がそろわない時もある。僕らにはストライカーはいっぱいいます。もしディフェンダーがそれほどいない場合は、うまくやらないといけない。そういう時は、僕がディフェンダーになるのです。

Q: アメリカンフットボールでプレーすることに興味はないですか?

A: ありません。どんなスポーツか観戦してきたから、プレーしたいとは一度も思わなかった。僕はパッカーズ(訳注=グリーンベイ・パッカーズ。米ウィスコンシン州グリーンベイに本拠を置くNFLチーム)のファンで、試合は見ています。選手たちのヒット(訳注=選手同士のぶつかり合い)も見ます。僕は速いから、(選手になれば)ワイドレシーバー(訳注=攻撃のポジション)で、みんな僕を必死に狙ってくることになるだろう。

Usain Bolt does his signature pose, known as To Di World, alongside a member of the New York Road Runners in Central Park, New York on July 25, 2019. The world
セントラルパークで「ニューヨーク・ロードランナーズ」のメンバーと得意のポーズをとって見せるボルト=2019年7月25日、Brittainy Newman/©2019 The New York Times

Q: もし真に短距離走の才能があり、将来有望視されている13歳の子がいて、あなたがその子に話しかけるとします。その際、その子に伝えることを三つ挙げるとすれば何ですか?

A: その年齢なら、ただ楽しむことだけです。多くの人は子どもたちにうまくなれと、大きなプレッシャーをかける。だが、12歳とか14歳でハイスクール(訳注=学年では日本の中学と高校にあたる)に入ったばかりの子は、ただ楽しい時間を過ごし、走ることを楽しむことです。

なぜなら、この年齢の子どもたちにあまりに早くから過大なプレッシャーをかけたら、ストレスによって彼らの道を閉ざしてしまうようなものだから。僕はこれまで、若い時期に過度のプレッシャーにさらされ、それがために多くの才能が壊されてきたのを見てきました。

Q: それはジャマイカで特に問題になっているのですか? ジャマイカでは短距離走は一大関心事で、誰もが関心を寄せていますが。

A: そうです。そう思います。ちょっと過熱しすぎですね。ハイスクール、特にジャマイカのトップクラスのハイスクールでは、入学するやいなや生徒たちは陸上競技をする。そのプレッシャーは相当なものだ。

彼らには「少年少女チャンピオンシップ」と呼ばれる大会が待っている。誰もがその大会で勝ちたがる。そのためにうまく走れるよう、ものすごいプレッシャーをかけている。時には生徒たちをとことん追い詰める。僕の通ったハイスクールは当時、チャンピオンシップで勝てるチャンスはなく、僕には気楽だった。プレッシャーなど一つもなかった。僕は楽しんで走った。ただ走って、練習しようと。それだけだった。

Q: カムバックのチャンスはゼロ?

A: 僕は多くの人たちから学んだ。カムバックは決してうまくいかない、と。(抄訳)

(Matthew Futterman)©2019 The New York Times

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