1. HOME
  2. 特集
  3. 評価なんてぶっとばせ!
  4. トップ人事コンサルが語る「評価の風景、どこまで変わる」

トップ人事コンサルが語る「評価の風景、どこまで変わる」

World Now
写真はイメージ

■かつては米国も「終身雇用」だった

従業員が一つの会社でキャリアを全うする時代は米国にもあった。雇用主と従業員の間には、長年の勤務と忠誠に基づく「心理的契約」と呼ばれるつながりが存在していた。従業員は終身雇用を提供し、企業は社員の退職後も年金やその他の給付金で面倒をみる。こうした心理的契約のあり方は、職場環境と並行して変わった。

いま、終身雇用の約束や期待は企業側にも従業員側にも存在しない。雇用は、より一時的な合意となった。正規に従業員になるのではなく、複数の「顧客」を相手にフリーランスや契約労働という形で単発的に仕事をする「ギグ」と呼ばれる働き方が増えている。

複数の要因がある。企業はいまビジネス環境の容赦ない変化や過激な競争に直面している。技術の発展が、(これまでの常識を覆すような)破壊的な(disruptive)製品やサービスを生み出し、産業そのものを変えてしまった。(米誌Fortuneが総収入に基づき年に1度発表する全米上位企業500社のランキングである)「フォーチュン500」の50%の企業が10年以内に消滅すると言われるほど、いまの競争は極めて激しい。

ペースの速い変化や競争の脅威を背景に、企業は自社の運営方法を変えざるを得ない圧力を感じている。革新が必要だった。新しいタレント(人材)を採用しつつ、機敏かつ臨機応変に対応することを学ばなければならない。企業は同時に、継続的に成長しながら、高いレベルの収益性を示し続ける圧力も受けている。こうした状況に、従来の安定的、長期的雇用がそぐわなくなった。

エレーン・プラコス氏(右、本人提供)

米国の直近の失業率は3.6%。働き手不足の状況となっており、激しいタレント獲得競争につながっている。企業よりも就職希望者の方が有利で、こうした雇用状況が多くの職種で給与レベルを引き上げている。

(2000年代に大人になった)ミレニアル世代が職場に抱く要求は、その前の世代と比べて異なる。フィードバックや注目されることを切望し、強い目的と価値観を持って会社で働きたいと望んでいる。ワーク・ライフ・バランスを要求し、企業に正直かつ真摯な対応をするように圧力をかける。

会社に対する忠誠心も、その前の世代と同じではない。よりよい雇用機会を追求し続け、休みをとって旅行したり熱中していることを追いかけたりすることが平気なのだ。むしろ、必要だと思う時に他の仕事に就けることに安心を感じている。

こうしたことが企業と従業員の関係を大きく変えていったが、フラットにしたとまでは言えない。企業は伝統的に階層構造になっており、機能的にサイロ化された縦型の流れの中で仕事が行われてきた。それが、破壊的な変化や過激な競争を背景に、企業はこれまでの制御思考の管理モデルから、より機敏で臨機応変な方法にシフトせざるを得なくなった。その結果、より部門横断的になった。従業員の要求に応えるために上下関係がフラットになったというよりは、環境変化に対応するために組織構造のフラット化が進んだ。

■パフォーマンス・マネジメントの失敗

米国では複数の企業が、従業員の評価にパフォーマンス・マネジメント(PM)と呼ばれるシステムを使ってきた。従業員の仕事ぶりと、その結果に基づいて評価がされる。期待と目的が設定され、従業員は、それを実現する義務を負う。実績評価が少なくとも年1回、多くの場合はもっと頻繁に行われる。管理職は面接を行い、従業員に対して強みや改善点などをフィードバックする。

ところが、このPMシステムが実は機能していなかったと、長年の研究で示された。管理者の従業員評価は正確さを欠き、従業員に提供されるフィードバックも効果的ではなかった。実績評価が管理者、従業員双方にとって、前向きで付加価値のある経験になっていないことが証明された。結局は、個人や企業全体の実績に意味ある影響を与えていないことが示された。

企業はいま、最も優秀な人材を見つけ、維持しようと、様々な戦略を練って、トップ人材に投資している。人材市場は極めて激しい獲得競争になっており、企業のCEOは、トップ人材を得るための手段を惜しまない。こうした人材獲得合戦でAI(人工知能)が使われている昨今、どのような手段をとれるかが、ますます重要になっている。

同時に企業は、実績の低い従業員を切り離す必要性が出た場合、実績改善計画にその人を組み込むことで、平均以下であることを本人に知らせる。そのうえで、改善のための期間を与え、もし、満足のいく改善が見られない時には、雇用関係が打ち切られる。米国では定期的に人員削減や一時解雇が行われている。特に在籍期間が長く、高給取りの従業員は、企業にとっては維持するコストが大きい。コスト削減策がとられると、業績の低い人だけではなく、業績の悪くない人まで対象になることもある。企業が収益性の向上を求め続けられている結果であり、そのためのコスト削減策として実施されることがある。

ITの発展によって、今ある仕事の多くをロボットに乗っ取られると心配する人もいる。これは将来、人が何をやるのかという心配にもつながっている。その一方で、テクノロジーが従来の仕事を奪っても、時代にあった新しい仕事が生み出されると信じる人もいる。そのため、働きたい人たちの仕事が不足することはないという考え方だ。

私自身、今後の展望を見通す水晶玉を持っていないし、強い洞察力があるわけでもない。ただ、心理学者として言うならば、人間には元来、産出力が備わっていると信じている。テクノロジーが多くのことをできるようになっても、私たちは有益な仕事を創出し続ける、というのが私の考えだ。

■働き方改革、AIは答えじゃない

AIが、タレント管理プロセスにおける選択や進歩、業績管理や改善などで、より大きな洞察力と、より健全なデータを提供する能力を持っているのは確かだ。ただ、タレント管理に使われるAIアプリケーションは、まだ初期段階。AIを広範囲に早期活用している企業もあるが、比較的新しい技術であることから利用する企業は限定的だ。私の考えでは、特に従業員を採用した後のタレント管理においてAIの活用実績が十分でないため、従業員の幸せにつながるかの実感が持てないでいる。

エレーン・プラコス氏は心理学的な見地と人事コンサルティングの経験を交えて、世界各地で講演を行っている(本人提供)

今日のPM技術は、人間が入力した情報を収集し、管理職と従業員の間の情報伝達を促進しているにすぎない。一例としては、従業員が自身の目標設定をシステムに入力し、管理者がそれを査定し、修正する。あるいは、従業員が入力した自己評価を管理者が査定し、最終的な評価とその根拠を提供する。要するにシステムの役割はほとんどは、情報の収集と保管の促進なのだ。

AIが従業員の実績情報を自動的に収集して分析するようになる可能性は高い。ただ、なんども確実性のテストが繰り返され、広く社会で普及した状態にならない限り、AIに従業員評価を完全に実施させる企業は出てこないと考えている。AIによる評価が客観的かつ正確で、さらに公平であることが証明されないといけない。完全自動化の結果に安心できるようになるまでは、意思決定のAI化は、慎重に進められることになる。

どんなシステムでも言えることだが、AIの成果や効果は、その使われ方や確度、そして従業員が公正だと感じているかにかかっている。企業はAIによって得たデータを意図的に、あるいは意図せずに誤用することがあるため、AIにバイアスが組み込まれることを注意する必要はある。 米国の企業は、他の国や地域の企業よりも、従業員情報を収集して使用する裁量がある。EUでは、GDPR(一般データ保護規則)があるが、米国にはない。ただ、データ保護は、タレント管理システムに限らず、ソーシャルメディアや医療記録、金融記録など、個人データを扱うあらゆるシステムで重要な課題となっている。政策や手続き、法律などの広範囲な観点で、今後も進化し続けていく領域であることは言うまでもない。

業績に関する情報を自動的に収集するテクノロジーはあっても、広く採用されているわけではないことはすでに語った。ただ、今後、個人の業績情報が自動的に集められ評価される時代がやってくると、私は考えている。シリコンバレーのIT企業などが、早期に採用する先駆的存在になっていくだろう。

日本では働き方改革が進んでいると聞くが、こうしたテクノロジーが改革の答えになるとは思えない。働き方は、文化や伝統に深く影響を受けている。文化の変化は、人間自身の内部、あるいは人間同士で生まれるものだ。指導者が変化の必要性を感じとり、どんな変化がなぜ必要なのかを明確にしないといけない。

かつての米国もそうであったように、日本でも変化へのモチベーションが高まれば、やがては自動的に修正されるものとなるだろう。今のグローバル経済において、企業が競争力を維持し続けることは極めて難しい。米国で変化をもたらしたのは破壊と競争の脅威であり、変化こそが生き残るための手段となった。

■原文(英語)はこちらでお読みいただけます。