アポロ11号が人類初の月面到達に成功した1969年、日本では初のLNG輸入船がアラスカから横浜に到着した。当時、生産国以外ではほとんど利用されていなかった天然ガスは、メタンを主成分とする天然の可燃性ガスである。他の化石燃料と比べ燃焼時の温室効果ガスが少ないことが特徴で、石炭を100とした場合の排出量(燃焼時)は、CO2(二酸化炭素)が60、NOx(窒素酸化物)が40、SOx(硫黄酸化物)に至ってはゼロだ。50年代から60年代にかけて、日本では公害が相次いで社会問題化していた。そんな時期に、未来を見据え、世界に先駆けてLNG輸入に踏み切ったことは注目に値する。
世界の一次エネルギー(加工する以前の自然界に存在するエネルギー。石炭、石油、天然ガスなど)消費量は経済の成長とともに増加を続け、1965年から2015年までの50年間で実に3.5倍に達した。2030年にはさらにその1.2~1.3倍、石油換算で年間160~170億トンになるとの予測もある。環境負荷の軽減と持続的な発展をどう両立するか。さまざまな意見があり、ひとつの答えを出すことは容易ではない。しかし何か行動を起こさなければ持続可能な未来はない、という認識においては、多くの国が一致しているようだ。近年、再生可能エネルギーとともに天然ガスの需要が世界で大きく伸びているのは、そのひとつの現れだろう。
日本は現在、世界のLNG輸入量の3割を占める最大の輸入国だが、間もなく中国に逆転されることが確実になってきた。電力需要が急増するフィリピンやバングラデシュでもLNGの利用が始まった。日本にとっては、今後もLNGの安定的な供給を確保することがきわめて重要になる。
限りある化石エネルギーではあるが、2000年代後半の「シェールガス革命」により、天然ガスは100年以上の採掘が可能といわれる。生産地もアメリカ、ロシア、カナダ、ノルウェーなどに広く分散しているため、中東への依存度が高い原油と比べ、エネルギー安全保障上のメリットも大きい。21世紀の持続可能な発展のリード役として社会を支えてくれるだろう。
今後、天然ガス導入による効果がクローズアップされれば、1969年という年の歴史的意味合いにも関心が高まる可能性がある。そのとき、「天然ガスの輸入開始」は、「アポロ計画の成功」と同じくらい、未来を変えた出来事として記憶されるのかもしれない。
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提供:三菱商事