中国の学者たちは最近、国家指導者たちに厳しい警告を伝えた。中国はここ数十年間で最も急激な人口減少に直面しており、近い将来、人口動態や経済的、さらには政治的な危機を招く可能性があるという警告だ。
政権を握る中国共産党は長年にわたり、1組の夫婦につき子ども1人に制限することなど中国の人口増を抑える一連の政策を実施してきた。こうした政策の長期的な結果として、中国は間もなく人口の「マイナス成長」時代ないし人口規模の縮小期を迎える。
中国社会科学院がこの1月に出した報告書は、悪名高き「一人っ子」政策は人口増を抑えるというもともとの目的を達成したが、政府にとって新たな難問も生み出したことを認める最新版である。
出生率の低下と平均余命の伸長により、膨大な高齢化人口を支えるには労働力人口があまりにも少なすぎるという現実に近々直面するだろう、と学者たちは警鐘を鳴らしたのだ。彼らは、人口規模の縮小は2027年に始まるとみているが、縮小はもっと早いか、すでに始まっているとの見方もある。
中国政府は懸念すべき人口動態の趨勢(すうせい)に気付き、2013年に一定条件下での「一人っ子」政策の緩和に乗り出した。さらに16年には、全ての家族を対象に出産制限を引き上げて2人まで認め、ベビーブームが起こることに期待を込めた。ところが、うまくはいかなかった。
出生率は16年に少し上昇したものの、翌17年には再び低下。16年に1790万人が生まれたのに対し、17年は1720万人に減った。第2子を産む家族数は増えたのだが、全体の出生数は減り続けた。
中国共産党系の国際情報紙英語版「The Global Times」が報じた公式の速報値によると、18年の出生数は1500万人にまで減る。いくつかの市や省は、出生率が35%も減少したと報告している。
長期的に人口規模が安定するには、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むだろうと推定される子どもの数)で2.1が必要だ。「人口置換水準」として知られる数字である。
多くの先進国では、より豊かになり高齢化が進むなかで、合計特殊出生率が低下した。
中国の合計特殊出生率は、公式には1.6に落ち込んでいる。だが、この数字には異議も出ている。
米ウィスコンシン大学マディソン校の教授イー・フーシエンは、中国政府は「一人っ子」政策の破滅的な結果を覆い隠すために実際の出生率をぼやかしてきた、と指摘している。同教授の計算によると、2010から18年の合計特殊出生率は平均1.18だ。
他の国々同様、出生率の低下にはいくつもの背景がある。経済水準の上昇や女性に開けた新たな可能性なども、そうだ。中国の経済成長で、若いカップルの多くは教育費や住居費の高騰といった経済的な問題に直面しており、それが子どもを持つのが2人はおろか、1人でさえ難しくさせている。
しかし、イーらが指摘するには、出生率低下の最も深刻な原因は「一人っ子」政策にあった。出産が制限されていたことと、男子の誕生が優先される文化的な土壌ゆえに、女子が少なかったことだ。
「一人っ子」政策が導入された期間に生まれた女性は現在、出産期にあるか、すでに出産期のピークを過ぎている。政府が子どもは2人もうけるよう奨励してはいるが、国の人口水準を維持するには単純に女性の数が足りないのだ。
ぼんやりと見えてきた中国の人口動態における危機は、この国が過去40年間に成し遂げた驚異的な経済変容のアキレス腱(けん)となる可能性がある。
人口の減少は中国経済とその労働力にとってさらに大きな負担になるかもしれない。将来、労働力が少なくなるなかで、政府は高齢化し長寿化した人口と向き合わなければならないだろう。労働人口の減少は消費支出も減少させるし、それは中国の経済などに影響を及ぼすだろう。
多くの人びとは、中国の人口動態上の危機は1990年代における日本の経済ブームの行き詰まりに匹敵するとみている。
中国の人口はすでに縮み始めているとみる専門家もいる。イーと北京大学の経済学者スー・チエンは最近の論文で、毛沢東の工業化推進キャンペーン「大躍進政策」が引き起こした1961年と62年の飢餓による人口減少以降で初めて、2018年に人口が縮小したと指摘している。研究者たちは、国勢調査の不正確な見積もりで、実際の人口と出生率がわからなくなったと言っている。
「2018年は中国人口の歴史的な転換点とみることができる」。イーは電子メールでこう回答を寄せ、「中国の人口縮小はすでに始まっており、急速に高齢化が進んでいる。経済の活力は徐々に衰えていくだろう」と指摘した。(抄訳)
(Steven Lee Myers Jin Wu and Claire Fu)©2019 The New York Times
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