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「中国流のヨガ」で高齢化した村に活気がでてきた

ニューヨークタイムズ 世界の話題
ヨガに取り組むようになって、村民たちに活気がでてきた=Lam Yik Fei/©2018 The New York Times
ヨガに取り組むようになって、村民たちに活気がでてきた=Lam Yik Fei/©2018 The New York Times

中国河北省にある玉狗梁村の最高幹部ルー・ウェンチェン(52)は難問を抱えていた。若者たちは村を出て行ってしまった。残った高齢の農民たちは弱っている。この小さな村にはカネが必要だ。暮らしていかなければならない。活気がほしい。

2年前のこと。ルーは、中国北部の田舎によくある石製のベッドで60歳ぐらいの女性が足を組み、30分ほど座っている様子を見つめていた。その時、ルーはひらめいた。

「ヨガだ」

北京や上海などと違って、近くにジムもなければ健康食の店もない住民100人足らずの村にしては、大胆な思いつきだった。最寄りの鉄道の駅へは2時間かかる。インターネットがつながるようになったのは2年前だ。村民の平均年齢は65歳。牛や羊を飼い、わずかな土地を耕して生計を立てている。

急速な高齢化は、中国共産党が直面している喫緊の課題の一つだ。公式資料によると、中国では著しい経済成長の陰で地方に取り残された高齢者が、少なくとも5千万人いる。その多くは貧困に苦しみ、意気消沈している。政府の数字をみると、60歳以上の人口は2050年までに全国民の3分の1を超える4億8700万人に達する見込み。

(ヨガと言われても)玉狗梁村の人びとにはピンとこなかった。ヨガなんて、聞いたことすらなかった。ルー書記――村民は彼をそう呼んでいる――は、何か狂信的な新興宗教でも持ち込もうとしているのだろうか。

もう一つ、問題があった。ルーはヨガを習ったことがなかった。

「でも、どうすればいいのか知らないなんて言い出せなかった」とルー。

手ほどき役を果たしたのがインターネットだ。彼は動画や写真を見ながら学んだ。

年老いた農民たちをヨガに誘うには、それなりの仕掛けが必要なことはわかっていた。そこで、みんなの気を引くために手袋とヨガマットを買った。

最初のころは、ヨガ教室に来る人はわずかしかいなかった。ゆっくりした滑り出しだった。ルーはまず、歌の練習を通して呼吸法を教えた。その後、足を組むなど簡単な動きを採り入れていく。

すると間もなくして、もっと多くの村民たちが参加するようになった。より難しいポーズに挑戦するようになるまでに、そう時間はかからなかった。

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ヨガの練習に励む河北省・玉狗梁村の人びと=Lam Yik Fei/©2018 The New York Times

やる気を刺激されたルーは、政府が後援するヨガ研修に参加した。中国当局はしばしば、スピリチュアルに基づく活動や神秘主義を抑え込んできたが、詠唱や瞑想(めいそう)を排した「中国流のヨガ」は支援している。ルーは、政府の方針を引用しつつ、自分たちのヨガは「宗教から距離を置き、神秘性から抜け出た中国版である」と語った。研修を修了した彼はヨガ審判員の資格をもらい、ヨガの競技大会で審判も務めるようになった。

中国当局はこうした活動を奨励している。全国の運動競技を監督する国家体育総局は2017年2月、玉狗梁を「中国初のヨガ村」と認定し、その称号を授与した。しかし当時、ルーは村民がヨガ競技大会に出場するには技量が不十分とみていた。初めて出たのは17年末になってからで、河北省の省都・石家荘市で開かれた大会だった。

この大会で村民たちは「最優秀団体賞」を獲得した。

以来、中国の国営メディア玉狗梁村におけるヨガの盛況ぶりを熱心に報じてきた。政府は、高齢者福祉施設とヨガ会館の建設費用として150万ドル相当を同村最高幹部のルー・ウェンチェンに渡すことを明らかにしている。

ルーは、観光ブームも引き寄せたいとの目標を設定しているが、その実現は難しそうだ。村までは遠いし、施設もない。それでも、ルーは前向きだ。ヨガのおかげで村民は鍛えられたし、医療費も節約できている。

ヨガ教室の常連は36人。その一人、コー・ルーユンは肩やひじの痛みを抱えて、何年も薬を飲んできた。2年前、62歳だった彼女の体重は約68キロあった。その後、ヨガを始めたら体重が約5キロ減り、おなかもへこんだという。「今はもう痛み止めの薬はひと粒も飲んでいない」とコーは言う。

チャン・シーイン(62)は、ヨガを習うまでは仕事に熱が入らなかったという。「仕事にかかる前には体を慣らすために、カード遊びをしていたけど、今はまったくカード遊びをしていない」と彼女は話した。

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時間をみつけてはヨガの練習をする夫婦=Lam Yik Fei/©2018 The New York Times

村民にとって、ヨガは日常生活の一部になっている。毎日、多くの人が午前5時半、ヨガの練習をしてから牛や羊を牧草地に連れて行く。それから朝食、農作業、昼食、休憩、農作業と続き、午後5時半からまたヨガで、そのあと夕食といった具合。
ウー・チーリエン(73)は、めまいに苦しみ、ヨガ教室には通う気になれなかった。それでも、夫や近所の人たちがヨガに取り組んでいる姿を、興味半分で何日か、塀越しにのぞき見ていた。彼女が教室に通うことにしたのは、それからだった。

そして、2年がたつ。彼女を悩ませていたひざ関節や腰の痛みはすっかり消えたという。

村の最高幹部ルー・ウェンチェンは以前、石家荘市にある高等技術学校で党書記の任に就いていた。彼はその後、発展が遅れている地域に党幹部を送り込むという中国共産党の伝統にそって玉狗梁村に配置された。同じように中国各地の農村部などに送り込まれている何百人もの党幹部とともに、ルーは習近平政権が打ち出す政策を推進する任務を負っている。その一つが、

2020年までの貧困軽減である。

玉狗梁村のいたるところに、ヨガのポーズの絵やルーが書いたスローガンが掲げられている。

「新時代の良き農民たれ」。国家主席の習近平が好むキャッチフレーズだ。

ルーは、玉狗梁村を中国全土の農民たちのヨガ修練拠点に仕立てて、観光客も呼び込みたいと願っている。
「今はすべて夢物語でしかないけれど、夢は持つべきだ」。そう、ルーは話している。(抄訳)

(Christina Anderson)©2018 The New York Times

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