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エルドアン政権に失望、トルコから人材も資金も続々逃げ出す 

ニューヨークタイムズ 世界の話題
トルコの最大都市イスタンブールで、通勤電車から大統領エルドアンの大きな選挙ポスターが見えた=2018年6月、Sergey Ponomarev/©2019 The New York Times
トルコの最大都市イスタンブールで、通勤電車から大統領エルドアンの大きな選挙ポスターが見えた=2018年6月、Sergey Ponomarev/©2019 The New York Times

トルコの大統領エルドアンは17年間、オスマン帝国の栄光を取り戻すというビジョンを掲げて選挙に勝ってきた。貿易の拡大や軍の展開で国の影響力を伸長し、切れ目のない経済成長で国民の生活レベルを向上させた。

しかし、2016年のクーデターの失敗以降、すさまじい取り締まりに乗りだした。2018年に再選を果たし、より強大な権力を握ったが、経済はぐらつき、通貨リラは急落した。仲間優先の縁故主義と独裁主義が浸透するにつれ、トルコ国民はこれまでと違って自分の足を使った行動に出ている。

人材も資金も大挙して国から脱出しており、トルコ政府の統計やアナリストたちによると、その規模は広範で、エルドアンが示す未来図への驚くほどの信頼失墜ぶりをうかがわせる。

ここ2、3年の間に、国を去ったのは学生や学者たちだけではない。起業家もビジネスパーソンも、さらには何千人もの資産家たちもがすべてを売り払い、家族を連れ、カネを持って海外に出ている。トルコ統計研究所の調べだと、国を出て移住したトルコ人は2016年に約17万8千人だったが、17年には42%増の25万人超に達した。

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2013年6月、イスタンブールのタクシム広場での抗議集会に参加する人たち。その多くが嫌がらせや迫害の対象にされ、その後、トルコから脱出した=Ed Ou/©2019 The New York Times

これまでもトルコでは学生や教師の流出の波が起きたが、今回の大量脱出はより恒久的な社会の再編をうかがわせ、国を何十年も昔に後退させてしまう恐れがある。ロンドンのリージェンツ大学国際学研究部長イブラヒム・シルケジは、そう述べている。その他のアナリストたちも同じ見解だ。

エルドアン体制下での暮らしを特徴づけ、反対勢力をますます絶望させる要素の、強い結びつきが定着し、人、才能、資産の流出を引き起こしている。

そこには政治的な迫害、テロへの恐怖、司法制度と法治の恣意(しい)性に対する不信感の高まり、ビジネス環境の悪化などがあり、エルドアンが自分自身と仲間たちを利する形で経済を不公平に操っているとの懸念が流出に拍車をかけているのだ。

その結果、100年近く前に現在の共和国が誕生して以来初めて、旧来の資産家階層、とりわけこれまで何十年間にもわたってトルコの文化およびビジネスで優位な地位を築いていた世俗エリートたちが国を離れ、その座をエルドアンや政権与党と親密なニューリッチ(新興の富裕層)が握っている。

そうした脱出組の一人、マーブ・バインディア(38)はトルコの最大都市イスタンブールの高級街ニシャンタシュ地区で有力な帽子デザイナーになっていたが、拠点をロンドンに移した。

「すべてを売り払う」とバインディア。母親と一緒に運営していた商売を整理するため、12月に一時イスタンブールに戻ってきていたが、4階建ての住居も売るつもりだ。

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イスタンブールを去り、ロンドンに拠点を移した帽子デザイナーのマーブ・バインディア=Mary Turner/©2019 The New York Times

彼女は2013年、イスタンブールにあるタクシム広場地区の再開発を計画していた政府に反対する運動に積極的にかかわった。暴力によるトラウマ(心的外傷)が残り、自分が暮らしてきた都市にいることが怖いのだと話していた。

エルドアンは抗議に立ちあがった人たちを公然と非難。彼らは身柄拘束や嫌がらせに耐え忍んだ末、多くが国を去った。

「差別がひどすぎる。文化的なことだけではなく、個人的なことでも。怒りも暴力も制御不能だ」。そうバインディアは言い、「何かいいことがあっても、それが砕け散ってしまうのがわかれば、その先に希望はない」と話した。

彼女をはじめ何千人ものトルコ人が英国のビジネスビザを申請したり、一定程度の不動産を購入すれば、そこの移住権を付与されるギリシャやポルトガル、スペインのゴールデンビザを申し込んだりした。

トルコからの英国移住について、25年間にわたって研究してきたシルケジによると、欧州でのトルコ人の亡命申請は過去3年間に急増した。彼は、ここ数年間で1万人のトルコ人が英国に移り住むためのビジネスビザを活用したと推計している。2016年の初頭以来、急増したのだ。04年から15年までの累計の2倍もの数だ。

トルコ人の英国への政治亡命申請は、2016年のクーデター未遂事件後の6カ月間で3倍に増え、ドイツへの申請は6倍になった。これは国連の難民機関による数字をもとにしたシルケジの指摘だ。世界全体でのトルコ人の亡命申請は、2017年の1万人から3万3千人超へと跳ね上がっている。こうした脱出者たちの多くは、2016年のクーデター未遂を扇動したと指弾されているイスラム教指導者フェトフッラー・ギュレンの信奉者や信奉者とみなされた人たちである。ギュレンは米ペンシルベニアに活動拠点を置いている。

エルドアンは、膨らんでいる中産階級やエルドアンのおかげで経済的な成功を収めたと恩義を感じている一部の固く結びついたエリートたちをバックに、トルコをより保守的で宗教的な国家にしようとしている。

政府が補助金や契約の優遇などを使って新しいビジネスの台頭を後押ししていることで、旧来の勢力との交代が急速に進んでいるのだ。

AfrAsia Bank(アフラシア銀行=本部はモーリシャス)が作成した年次報告書「Global Wealth Migration Review(グローバル・ウェルス・マイグレーション・レビュー)」によると、少なくとも1万2千人のトルコ人の大金持ち――これはトルコの富裕層全体の約12%――が2016年と17年に資産を国外に移した。移転先の多くは欧州やアラブ首長国連邦(UAE)だった、と報告書にある。トルコ最大のビジネスセンターであるイスタンブールは、大規模な富豪脱出を経験した世界の上位7都市の一つに挙げられた。 「主要国が崩壊した歴史をみると、通常、崩壊の前に、その国から資産家たちが逃げ出している」と報告書は指摘する。

エルドアンは、トルコ経済が揺らぎ始めるや、資産を国外に移した財界人たちを裏切り者とののしった。(抄訳)

(Carlotta Gall)©2019 The New York Times

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