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政治の不作為、埋めてきた天皇 河西秀哉氏が見る現代の天皇制

World Now 更新日: 公開日:
河西秀哉・名古屋大学准教授=高橋友佳理撮影

今年は天皇の代替わりの節目の年。天皇制について考えるとき、留意すべき点は何でしょうか。原武史・放送大学教授に続き、日本近現代史が専門の河西秀哉名古屋大学准教授のインタビューを紹介します。(聞き手・高橋友佳理)

【前の記事を読む】 天皇と国民の一体、今も昔も構造は変わらない 原武史氏が見る現代の天皇制

天皇制と民主主義は矛盾するのか。日本では、欧州のような対立概念ではなく、むしろ親和性を持っている。明治維新でも、第2次大戦後でも、民主主義が上から与えられたものだったからだ。

天皇制が、ある意味で民主主義の枠外にあることは間違いない。これまで私たちは、そうした矛盾を考えないできた。その間にも、特にいまの天皇皇后両陛下は、被災地訪問や慰霊の旅を精力的に進めて、それこそが象徴としての役割だという概念を定着させてきた。

両陛下が来てくれれば、被災した人たちは「忘れられていない」と実感する。福祉施設の訪問などでも同じだ。高度成長が終わり、社会の分断がいわれるようになると、天皇は国民の「再統合」という役回りをより積極的に果たすようになる。

それが政治の不作為を埋める。沖縄でも被災地でも、本来なら政治が解決しなければいけない問題だが、天皇が行くことで、不満が顕在化するのを抑えてしまう。

いわゆるリベラルの人たちも、本来は自分たちが語らなければならないこと、しなければならないことを、天皇に仮託してしまっている。ねじれのような状況だが、戦後70年にわたって天皇制についてきちんと考えてこなかったツケのようなものかもしれない。

他方、天皇は考えてきたと思う。1960年代後半から70年代にかけて、皇室が全国紙ではあまりとり上げられない時期があった。つまり無関心だ。両陛下は非常な危機感を持ったと思う。だから積極的に出て行って、国民の中に入って、いわば支持をつなぎとめようとした。それが国民の「再統合」につながっている。

昭和の時代は、たとえば自民党はもっといろいろな人を包摂していた。いまは、しばしば自己責任がいわれる。そのすき間を天皇が埋めている。学生と話していても、「政治はだらしないのに、天皇は立派で……」とかいう。皇室の人気は非常に高い。

でも、皇室が問題を本質的に解決することはない。一時的に気持ちを救うことはできるかもしれないけれど、糊塗するだけ。被災地も沖縄も問題は残る。

それはヨーロッパも同じだろう。英国でもベルギーでも統合の象徴としての役割はあるが、分断や矛盾がいまより激しくなったとき、なにができるのか。日本の場合も、天皇はいま以上にいろいろなことをしなければならない。それは民主主義にとって危ういことだと思う。