1. HOME
  2. World Now
  3. 持続可能な社会を実現するために必要なのはリーダーの覚悟と市民の自覚

持続可能な社会を実現するために必要なのはリーダーの覚悟と市民の自覚

World Now 更新日: 公開日:

世界の諸問題の解決に貢献し 社会に自社の存在価値を実証

成長とは一体何でしょうか。グローバル化が世界の国や地域を巻き込みながら進行し、多くの国々は経済成長の恩恵を享受してきました。その一方で、資源枯渇、温室効果ガスの増大、格差拡大などの問題が顕在化し、このままでは地球がもたなくなるのではないかという危機感が世界で醸成されつつあります。SDGsはまさにそのような問題意識から生まれたものだと思います。

私は、これまで化学会社で働いてきましたが、かつて化学メーカーといえば、公害の代名詞でした。資源を食いつぶし、有害物質を排出し、自然環境に悪影響を及ぼすというまさに悪役的存在でした。しかし、いまや我々に期待される役割は180度変わっています。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを生み出し、自動車などの部材を軽量化してCO₂排出の削減に貢献、CO₂を資源としてエネルギーを生み出す人工光合成の夢も追いかけています。かつて海の色を変え、空を曇らせていた日本の化学プラントは、いまや青い海に囲まれ、蛍が舞うようになりました。

私が三菱ケミカルホールディングスの社長だった2011年に、「KAITEKI」というコンセプトを打ち出しました。SDGsが生まれる5年ほど前のことです。当時は、社長は一体何を言い出したのか、と冷ややかにみられていたものです。KAITEKIとは、時を超え、世代を超え、人と社会、そして地球の心地よさが続く状態を意味します。企業が永続的に繁栄するためには、世界が抱える諸問題の解決に貢献することで社会に対して自社の存在価値を実証し続けなければならないと考えたのです。その年の暮れには『地球と共存する経営』と題する本も出版するなど、社内外への発信にも力を入れました。

また、「X軸:経済的価値」「Y軸:イノベーション」、そして「Z軸:持続可能性」という三つの基軸と、時間軸を意識しながら企業価値を高める「KAITEKI経営」を掲げるようになりました。単なるスローガンで終わらせないために、当社では、MOS(Management of Sustainability)指標を設けて定量化し、毎年継続しています。

出所:経済同友会「Japan 2.0 最適化社会に向けて」

SDGsを実現する上で 経済界が果たす役割が増大

当社のみならず、既に多くの企業が持続可能性を意識した経営を推し進めています。また、投資家の間でもESG投資が浸透しつつあるのは周知のとおりです。SDGsを実現する上で、経済界が果たす役割は非常に大きくなっていることは間違いありません。

3年前に経済同友会の代表幹事に就任してからは、先ほど述べた3軸を国家にも応用し、「X軸:経済の豊かさの実現」「Y軸:イノベーションによる未来の開拓」「Z軸:社会の持続可能性の確保」の三つの軸に置き換えて考えています。これらは、Z軸を中心にSDGsのゴールと合致するものばかりです。しかし3軸は多くの場合、短期的に見れば互いに矛盾する関係にあり、国家価値を高め、最大化していくことは決して容易なことではありません。大事なことは、いかなる不都合な真実に対してもひるむことなく、最適解を追求していくことだと思います。とりわけ、AIが人類を凌駕するといわれる2045年からバックキャストをして、我々は今何をすべきなのかを真剣に考え、準備する時が来ています。

持続可能な社会の実現のために最後に必要なのは、リーダーの覚悟と市民の自覚です。SDGsがそれらを促すための中心的ツールとして世界に広がっていくことを期待します。



小林喜光 YOSHIMITSU KOBAYASHI
1971年東京大学大学院理学系研究科修了。イスラエル・ヘブライ大学、イタリア・ピサ大学への留学を経て、74年12月三菱化成工業(現三菱ケミカル)入社。75年東京大学理学博士号取得。2006年三菱ケミカルホールディングス取締役、07年同代表取締役社長就任。09年地球快適化インスティテュート取締役社長、15年三菱ケミカルホールディングス会長に就任し、同年経済同友会代表幹事に就任。



本記事は朝日新聞社が各界のリーダーたちの意見、自治体や企業がゴールに向けて取り組んでいること、若い人のチャレンジなど2018年の動きをまとめた冊子「SDGsACTION!2」からの転載です。「SDGsACTION!2」はPDFファイルでご覧いただけます。
冊子「SDGsACTION!2」のダウンロードはこちら
「持続可能な社会を実現するために必要なのはリーダーの覚悟と市民の自覚」ページのダウンロードはこちら