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脳に電極、実際どう?

People 更新日: 公開日:
photo:Sako Masanori

「意思」の力で義手を動かした米ピッツバーグの女性に聞く 米国ピッツバーグ大学では、脊髄(せきずい)小脳変性症で四肢がまひした女性、ジャン・シャーマン(55)が、脳に電極を埋め込み、「意思の力」で義手を動かすことに成功した。どんな気持ちで、どうやって義手を動かしたのか。本人に聞いた。

――実験に協力した経緯は。

私は36歳まで完璧に健康だった。その頃、まず足の力が弱くなった。杖をつくようになり、歩行器をつかうようになり、手動の車いすに乗るようになった。そのうち手も動かなくなり、電動の車いすになった。今は首から下は動かず、あごのところにあるジョイスティックで電動車いすを動かして生活している。

あるとき、「意思の力で義手を動かした」という男性のことを動画で見て、とても興味を持った。私もボランティアをできないかと思い、すぐに電話した。検査をして、何カ月か後、手術を受けた。大脳皮質の運動野に電極を埋め込むための手術だ。実験に協力した2年半の間、頭蓋骨の中に二つの電極を埋め込んでいた。

脳から出た信号がケーブルを通じてコンピューターに伝わり、そこからまたケーブルで義手に「意思」が伝わる。物を持ち上げたり、いろんな人と握手したりできた。自分でものを食べることもできた。

――簡単だったか、難しかったか。難しかったのは何か。
いや、驚くほど簡単だった。自分の手は動かないが、脳は動かし方を覚えていた。とても自然で、とても簡単だった。最初はもっと難しいかと思っていた。たとえば右に動かすときに、右、右、右と念じないといけないのかと思っていた。でも、しばらくすると、単に右を見て、持ちたいものを見れば、義手が自然にそこへ届いた。

――集中する必要はない?
目の前にリンゴがあれば、何も考えることなくつかめるでしょう? 自然に、直感的に、手を動かせた。

――どんな気分だったか。
多幸感だ。指を開いたり閉じたり、ものをつかんだり、持ち上げたり。毎日が楽しかった。何カ月も笑いが止まらなかった。義手を動かせるのがとても幸せだった。

――もっとも楽しかったのは何か。
私の脳の信号をフライトシミュレーターにつないで、飛行機を「操縦」したことだ。グランドキャニオンを飛んで、セントルイス・アーチウェイの下をくぐり抜けて、エッフェル塔を抜け、エジプトのピラミッドの間も飛んだ。スフィンクスを見た。車いすを離れて空を飛んでいるような気分だった。私は雲の上にいた。とにかく素晴らしかった。

――電極を脳に埋め込むことについてはどう感じたか。心配はなかったか。
医者は「感染症のリスクがある」と言っていたが、私の介助者に電極を埋め込んだ部分を清潔に保つ方法を教えくれた。感染症にはかからなかったし、何も問題は起こらなかった。

――機会があればもう一度やりたいか。
機会をくれるなら、もちろんだ。でも、実験の対象になるのは55歳までだと聞いた。私は年を取りすぎた。でももちろん、できるならやりたい。義手を動かせた間、自分が自立できたように感じた。何かに貢献できたと感じた。とても誇りに思った。

――この技術は、日常生活でも使えると思うか。
技術がさらに良くなれば、ワイヤレスでケーブルがなくなるだろう。そうすればとても便利だ。ドアを開けて、冷蔵庫を開けて、自分でものを食べられるようになる。テレビのリモコンも使える。自立して生活できるようになる。そういうふうに使えるようになるといいと思う。

(文中敬称略)
 (聞き手:佐古将規)