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最高で2500円 コストコはなぜ時給を上げたのか

World Now
最高時給の23ドルで働くベテラン従業員

――従業員に相場を上回る賃金を払うのはなぜですか。

「私たちの基本的な考え方は、単なる仕事ではなくて、しっかりとしたキャリアを従業員に提供するということです。私たちが価値を置いているのは、従業員が長い期間私たちと一緒に働くことで、家族を養い、教育を与え、自分自身の長期的なキャリアも磨いてもらうことです」

「小売業は離職率がとても高い業界で、1年に5割が辞めるようなところもあります。どの小売業者も、優秀な人材を求めて競争しています。もし働き手によい仕事と高い賃金、充実した福利厚生を提供し、問題が起きたときにも親身にケアするようにこころがけていれば、従業員の忠誠心は高まり、時間の経過とともにどんどん効率的に仕事ができるようになります。従業員が頻繁に入れ替わることによる採用コストや教育コストもかからない。これは割の良いビジネスでもあるのです」

コストコ・ホールセール ジェームス・マーフィー上級副社長

――「効率的になる」とは具体的にはどういうことですか。

 「スシをつくる人を考えれば分かりやすい。仕事に慣れていくことで、限られた時間で多くのスシをつくれるようになりますが、従業員がすぐやめるような職場では一から訓練しないといけませんし、だれも高いレベルに達することができません。パン売り場でも、レジ打ちでも、商品陳列でも同じことです」

――コストコの時給は米国で最低12ドルとライバルよりもだいぶ高かったですが、この春さらに13.5ドルまで引き上げると発表しました。さらに引き上げる必要があったのでしょうか。

 「優秀な人材をめぐって常に競争があるからです。私たちは可能な限りもっとも優秀な人材を獲得したいのです。高い賃金と福利厚生は、優秀な人を引きつけます。時間がたつにつれ、ライバルもだんだん賃金を上げてきました。私たちは、ライバルよりもずっと先を確実に走り続けたいのです」

――時給は23ドル(約2500円)まで上がると聞きました。

 「決まった時間働けば、ある程度までは自動的に昇給します。通常だとだいたい5、6年で最高レベルの時給になります。長くいればいるほど、従業員は効率的になり、利益をもたらしてくれます。ベテランにも魅力的な賃金を払うことで、従業員ができるだけ長く働く動機付けになります。ほかの小売企業とは違った哲学をもっているのです」

――時給で働く人の平均賃金はどれぐらいですか。

「時給21ドルぐらいですね。20ドルは超えています」

――時給でない人は。

「マネジャー級以上は月給ベースになりますが、時給だろうが月給だろうが、どのポジションであっても高い賃金を払います。私たちは定期的に同業他社などの賃金調査をしていて、確実にウチの方が高いという状態を維持しています。賃金だけでなく福利厚生も重要です。家族まで含めた医療保険も提供していて、米国では従業員のほとんどが加入できているはずです」

――米国以外の国ではどのような方針で賃金を決めているのでしょう。

 「どの国、どの地域、どの市場であっても、最も高い賃金と福利厚生を提供するという同じ哲学を維持しています。同じように賃金調査を定期的にやり、そこでもっとも優秀な人を採用できるように努めます。日本も同様です」

――高い賃金は利益を減らすとの見方もあり得ます。株主や投資家がネガティブに評価することはありませんか。

 「たしかにかつては批判されました。従業員にあまりに気前がよいのではないかと。しかし、そうした批判は間違っているということが、時間をかけて証明されたのではないですか。事実、私たちは小売業界で最も効率的な企業の一つになりました。株主にも着実に利益をお返ししてきました」

――コストコの消費者にとっては、高い賃金はどんな意味があるのでしょう。

 「優秀な働き手が熱心に仕事をし、自分の役割を理解して効率的になることで、可能な限り低価格で商品を提供できるのです。消費者はそれで利益を得ますし、たとえばコストコから食材などを仕入れている地域の中小業者も利益になります。このやり方がどの企業にもいいことなのかどうかは分かりませんが、少なくともコストコには最適な戦略なのです」

――何万人も従業員がいれば、なかには優秀ではない働き手もいるのではないですか。米国ではすぐにクビを切るというイメージがありますが、従業員の働きが悪い場合はどうするのですか。

「私たちのように大勢の従業員を抱えていると、職場で複雑な問題も生じることもあります。基本的な考え方は、問題が生じた従業員であっても、なるべく長く職場にとどまってもらえるようにすることです。たとえば、入って2年ぐらいがたち、いったん会社の仲間になったと私たちが感じたならば、会社から出て行ってもらう決断をするには非常に込み入った手続きが必要になります。本当に仕事に向いていないのか、打てる手は尽くしたのかを、かなり高いレベルで判断します。なるべく長く従業員と共にありたいという点では、日本企業とも通じるものがあるのかもしれません」

――最低賃金を15ドルに引き上げようという運動が盛んです。もし最低賃金が15ドルに上がったら、コストコはもっと引き上げるのですか。

 「最低賃金をめぐる政治的な動きについてはコメントしません。しかし、より高い賃金が長期的にはお金の節約になるという哲学を、私たちは心の底から信じています。もしある地域の賃金の相場が高くなれば、私たちはもっと高い賃金を払うでしょう」

――そうした戦略が可能になるのはなぜですか。ほかの企業がまねできないのはどんな点なのでしょうか。

 「ほかの企業がどう店を運営しているのかはコメントしません。私たちのビジネスモデルの基本は、規模の経済です。商品選びや、仕入れ先からの入荷、陳列、販売まで可能な限りの効率化に努めています。ふつうの大型店は多いと10万ものアイテムを扱っていて、彼らは売り場の運営にかなりの人手とコストがかかっているはずです。私たちが扱うのはえりすぐった3800のアイテムに過ぎず、管理も容易です」

――マーフィーさん自身はいつ入社したのですか。

 「わたしは1987年に入社しましたから、ほぼ30年ここにいることになります。もっとも入門レベルの、ショッピングカートを押すところから始めました。私たちは、経営レベルでも、ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取ったような人を外部から招くことはほとんどありません。経営陣の9割は内部からの昇格です。とはいえ、ウチの戦略は、ハーバード・ビジネス・スクールのよいケース教材になると思いますけれど」

――あなたを含め、経営陣の報酬もいいのでしょうか。

 「いいですよ(笑)」

James Murphy コストコ・ホールセールの上級副社長、国際部門の最高執行責任者(COO)。1952年生まれ。ほかの小売企業で15年働いた後にコストコに入社。