エチオピアの経済は今、急速に成長しています。国内総生産(GDP)は過去12年間、平均して年11%ずつ成長を続けています。おもに農業と製造業の成長によるものです。この成長はなぜ可能だったのか。私たち政府は、教育やインフラに投資してきました。1991年に大学は二つしかありませんでしたが、今では公立、私立を合わせて60以上の大学があります。人文系や社会科学系よりも、自然科学系や工学系を強化してきました。
交通機関の建設にも力を入れています。全国に総延長6000キロに及ぶ鉄道を敷設する計画があります。エネルギーも重要です。水力、風力など、クリーンエネルギーの開発に力をそそいでいます。政府予算の6割は、教育やインフラなどの長期的な投資に費やしているのです。
エチオピアはアフリカの中で最も安定した国でもあります。91年以来、国内に戦乱はありません。首都のアディスアベバは夜中に外を出歩いても安全です。
エチオピアは今も世界の最貧国の一つです。でも、状況は大きく変わりつつあります。国が豊かになるかどうかを決めるのは、運命ではありません。資源でもありません。日本だって資源に恵まれた国ではないでしょう。大事なのは、明確なビジョンと戦略です。
私たちは、アジア諸国など、これまでに成功を収めてきた国々から学んできました。日本からは製造業の「カイゼン」を学びました。韓国の科学技術大学のモデルも導入しようとしています。職業訓練センターはドイツの仕組みに学びました。
私たちは、アフリカにおける製造業のリーダーになることを目指しています。基本的な条件はそろっています。まず、優秀な労働力です。中国などの新興国では、労働力のコストが上がっています。世界は競争力のある労働力を探しています。我々にとって大きなチャンスです。
製造業は今後、毎年25%の成長を目指します。輸出の中で製造業が占める割合をこれまでの4倍に伸ばしたい。製造業だけで200万人分の雇用を新たに創り出したい。そう考えています。
そのためにも、外国からの質の高い投資が必要です。私たちは工業団地を大きく拡張しています。工業団地の中に行政のワンストップ窓口も開設したいと考えています。
今、エチオピア南部のハワサという地域に新たな工業団地を建設しています。完成は9カ月後の予定ですが、31万平方メートルの敷地に入居する企業はすでに全て決まっています。カルバン・クラインの洋服をつくるアメリカのアパレルメーカー「PHV」をはじめ、インドや香港、スリランカなどから企業が進出する予定です。
今のところ、日本企業は出遅れています。日本企業がアジアに力を入れていることは理解しています。地理的に近く、サプライチェーンを築くことも容易でしょうから。それに、日本企業はアフリカのことをよく知らない。でも、この状況は近いうちに変わると思います。エチオピア航空は昨年、東京に直行便を就航させました。今や、日本とアフリカ大陸をエチオピア航空がつないでいます。アフリカにおけるビジネスチャンスの認識も、これから広まると期待しています。
私たちは日本企業を誘致したい。そのために日本企業に特化した工業団地を建設することを日本側に提案しています。面積は50ヘクタールを考えていますが、それに収まりきらないくらいの日本企業が来てくれるなら、もっと広げることも可能です。
アディスアベバ市外で工業団地の建設に関わってくれるディベロッパーには、15年間、法人税を0%にします。土地も無償で提供します。これは大きなインセンティブになるでしょう。誘致の具体的な候補になるのは、衣服、繊維、靴、革製品などの労働集約的な軽工業がメーンですが、食品加工や製薬にも期待しています。
エチオピア政府は明確なビジョンを持って経済発展を引っ張っています。一方で、「政府が多くのことをやりすぎている」と批判されることもあります。たとえば、エチオピア航空や、通信事業を独占しているエチオテレコムは、国営企業です。
それと、金融も今のところ外資はお断りしています。私たちに外国資本をコントロールする能力はありません。2008年の金融危機や、97年のアジア通貨危機を見れば、先進国にとっても金融をコントロールすることは容易ではないことが分かります。しかし、金融と通信以外の分野はすべて、外国資本にも開かれています。
私たちは非常に低い位置からスタートしました。通信事業は稼げるビジネスです。そこで稼いだお金を、鉄道などのインフラ建設につぎ込んでいるのです。日本でも韓国でも台湾でも、経済が成長するときに国家が重要な役割を果たしました。私たちも国家の役割の重要性を信じています。
エチオピアは2025年に中所得国の仲間入りを目指します。その頃には1人あたりGDPが1300ドルくらいになっているでしょう。人口も1億5000万人になっているはずです。これから10年でエチオピアは大きく変わります。この構想を現実にするために、これからも一生懸命働きます。
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アルケベ・オクバイ 1957年9月生まれ。アディスアベバ市長、労働・都市開発相などを務めた後、ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院で2013年に博士号を取得。現在は産業政策担当の首相特別顧問。エチオピア航空の副会長、鉄道公社の会長も兼ねる。主著に『メイド・イン・アフリカ:エチオピアの産業政策』(2015年、オックスフォード大学出版、英語)。