私は1987年にサムスン電子に入り、サムスンのグループ全体を統括する組織、当時は戦略企画室と呼ばれたところで働きました。グループ会社のコンサルティングのため、文字通り世界を飛び回っていました。
サムスンには、ある国に1年間派遣され、会社の仕事はまったくせずに自分の好きなことを体験しながら、その国を徹底的に理解する「地域専門家」制度があります。私は1期生として90年に日本に来ました。日本の文化や日本人の考え方に心の底から魅せられ、希望がかなって94年から2年半、日本で駐在員を務めました。サムスンを離れた後、7年前に初の韓国人共同経営者としてこの会社に入りました。
駐在員として働いていたとき、日本で働く韓国人といえば韓国企業の駐在員ばかりで、日本企業で働く韓国人はほとんどいなかった。日本の大学に留学して日本語ができるようになっても、韓国企業の日本支店に入るか帰国するか、でした。日本企業に就職するというロールモデル、お手本がなかったからです。しかし今では日本企業で働く韓国人が増えています。
背景には、日本企業に就職するための情報やお手本が増えた面もありますが、何より韓国における大学生の就職難が響いているでしょう。大卒の半分以上が職に就けていないのです。景気が悪いせいもありますが、そもそも企業の数に比べて大学の数が多すぎる。それに会社をブランド、社会的な地位とみなす根強い考え方もあります。良い大学を出て英語も上手にできるのに中小企業に入るとなれば、親も納得しないし子供も親孝行にならないと考える。財閥、大企業に入ることが成功であり、エリートへの道。もちろん大企業と中小企業の収入の差もあります。
日本の側からみますと、韓国の若者の強い意思や語学力、バイタリティーを企業が買っている面があります。日本という外国で必ず成功するぞという覚悟で来た韓国の若者たちには、簡単には戻れない、もっと頑張るぞという強い意思がある。日本の若者なら行かないような厳しい環境の外国にも、韓国の若者なら二つ返事で赴任して行きます。ある日本の中古車販売の企業で、日本人の若い社員にベトナムに行ってほしいと言ったところ断られたそうです。こういうところに韓国人の若者のチャンスがあります。
「そんな道があったのか!」
韓国人が日本企業で働くことのメリットはたくさんあります。例えば、先進国である日本の企業に入ることは、韓国の若者にとって特別なプライドになります。先進国というのは経済力があるとか、通貨の価値が高いとか、そういうことではありません。社会的な意識、国民の意識が日本はとても高い。そういう面から韓国の若者たちが学ぶことはとても多いと思います。
それに日本と韓国は地理的に近く、親や友人に会うために行ったり来たりしやすい。確かに政治の世界ではいろいろありますが、私自身は日本で日本人と仕事をしていて、韓国人であるということでもめたことは一度もありません。こういうことを韓国の学生たちに話すと、「そんな道があったのか!」と驚きます。
日本と韓国の若者を比べてみましたが、日本の若者が海外への赴任をしたがらないといって弱いなどと考えるのは間違いです。日本の若者にはそもそも選択肢が多いのです。今の会社で楽しい仕事ができなければ、別の会社に行けばいいと考えています。またキャリアについて考える余裕があるので、創造性に富んでいる。これは良い悪いという次元の問題なのではなく、彼らを取り巻く環境の違いからきているのだと思います。