世界最大規模の家族に関するデジタル・アーカイブ
ファミリー・サーチは1894年に設立され、世界中から家族にかんするデータを集めている。それは、登記簿や国勢調査、軍記、家族史、部族の記録などで、個人が登録したり、スタッフが各国の法律の許す範囲で入手して登録したりする。100カ国以上から54億人の名前を含む40億の記録が集まっており、オンラインシステムで管理している。毎月約500万の画像が新たに登録されている。インターネットサイトから誰でも無料で、家族にかんする情報や写真を登録することができる。
ソルトレークシティー郊外の花崗岩の山の中腹に作った記録の保管庫は、1965年に本格稼働した。ここにデータのコピーをマイクロフィルムやデジタル化した形で厳重に保管している。現在その数はマイクロフィルムにして約240万本。山は割れ目のない花崗岩の塊で、保管庫は山頂から200メートルの位置にあり、奥行きも200メートルある。ここに作ったのは10年、20年の短期間ではなく1000年もの長い間保管するため。貴重なデータを保管するのに最適な場所だ。
なぜ家族の記録を残すのか
人は家族とつながりたいと思っており、家族のことを知ることで自分自身をより深く理解できる。私たちは「家族は永遠であり、現世だけでなく死んだ後も家族関係は続く。幸せの源である」と考えている。この世の幸福は家族を構成することで達成される。自分自身について知る方法の一つが、自分たちがどこから来たかを知ることだ。なぜ我々の家族はユタ州に住むようになったのか、元々はどこにいたのか。知れば知るほど、もっと知りたくなる。
モルモン教では洗礼を受けることが天国に入る鍵を得ることだと考えている。また、家族が永遠になるには正式な場所で儀式を行い結婚しなければならない。多くの人がその機会を持たずに死んでいく。もし自分の祖先がそうした儀式をへていないと分かれば、彼らの代わりに洗礼を受けることができる。また結婚の儀式を代理で行うことができる。祖先にはそれを受け入れるか拒否するかの権限があると考えている。
図書館には連日多くの人が訪れる
図書館は5階建てで、フロアごとに世界各地の家族にかんするデータの保存や調査ができるようになっている。マイクロフィルムを見る機械やスキャナーなどの機器もそろっている。1階は今年2月に改装を終えたばかりで、子どもたちが楽しみながら家族の歴史を体感できるようにハイテクを駆使した作りになった。すでにウェブサイトに自分や家族の情報を登録している人は、その情報を使ってタッチパネルで、自分と他者との「つながり」を体感することができる。たとえば、米国のジョージ・ワシントン初代大統領やメイフラワー号で米国に到達した人たちと自分の関係などだ。
ファミリー・サーチは世界に4700の支部を持ち、ここソルトレークシティーに本部がある。この街は教会本部があり、図書館の利用者も信者が多いが、わざわざ図書館に来なくても自宅からウェブサイトにアクセスできる。サイトの利用者は7割ぐらいが信者ではない。純粋に家系図(ファミリー・ツリー)を作るために使っている人が多い。本人の記録は本人しか見られず、亡くなった後に公開される。
ファミリー・サーチは世界各地の文書館と協力関係にある。米国立公文書館とは、公開された国勢調査のデータのデジタル化で協力した。世界には記録が危機に瀕している場所がいくつもある。原因には台風などの自然災害や政変などがあるが、元々書かれた記録が存在しないところもある。西アフリカ・セネガルの村では、代々口承で伝えられてきた「記録」が高齢者が亡くなることで失われつつあり、ファミリー・サーチが現地の教育機関と連携して残す取り組みをしている。そういう場所では、高齢者が1人亡くなることは図書館がひとつ消えるようなことを意味する。
また毎春、「ルーツテック」という系図学の国際会議をユタ州で催している。今年は2万5000人が参加。参加者は年々増えている。近年はDNA検査をする企業などがたくさん出展し、大にぎわいだ。米国においては、アレックス・ヘイリーの自伝的小説『ルーツ』のテレビドラマ放映がブームの発火点だった。だがこれは米国だけでの現象ではない。韓国や中国でも家系図作りは盛んだ。一方、個人情報に対する意識が強いせいか、日本からはデータが集まりにくい。(構成・高橋友佳理)
Stephen Nickle
米家系調査会社Ancestory.comに勤務した後、ファミリー・サーチの職員に。