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殺人発生率世界最悪・中米エルサルバドルを悩ます「マラス」とは

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殺人=恐怖心を植え付ける手段

――なぜ殺人が相次いでいるのですか。

犯罪のほとんどがマラスによるもので、殺人とみかじめ料の恐喝が中心です。殺人は恐怖心を植え付けて住民にみかじめ料を強制し、支配地域を広げるためです。目的はお金で、殺人は手段に過ぎません。外国人が殺害対象にならないのは、殺しても住民の恐怖心をあおるだけのインパクトがないからでしょう。

――顔まで入った入れ墨も恐怖心を感じさせます。

入れ墨は上の世代だけで、今は見てわかる特徴は少ないです。ひざ下までの長めでゆるゆるの半ズボンや、袖までボタンを留めた長袖。つばが平らな帽子に、米有名メーカーのローカットスニーカーといった、ラッパーみたいな格好が特徴です。しかし、着替えてしまえばわからなくなりますし、普通の服を着ている構成員もいます。

20年前からいるので、リーダーはもう40~45歳くらい。非常に若くして子供をつくるので、もう孫がいる世代で、構成員は第4世代までいます。

――私がエルサルを最後に訪ねた2001年は、マラスは社会問題になっていませんでした。

時期を特定するのは非常に難しいのですが、マラスは1990年代後半から2000年代前半から存在していて、麻薬や誘拐、車泥棒をしていましたが、大きな問題にはなっていませんでした。どんどん力が大きくなって、組織的犯罪をするようになったのは2000年代中盤から後半です。

強攻策=とにかく大量検挙、予防は考えず

――なぜ勢力拡大を止められなかったのですか。

国家文民警察は内戦後、「市民警察」という新しい哲学のもとに誕生しました。期待が大きかった半面、市民は「犯罪は警察がすべて解決してくれる」と考えて関心を持たなくなりました。

マラスが社会組織や地域に入りこんで犯罪が増えてきたとき、警察は「市民も一緒に犯罪予防に取り組もう」と訴えましたが、「警察の言い訳」と受けとられてしまいました。警察は捜査に忙殺され、市民も警察任せで、誰も予防に取り組まず、大きな空白が生まれてしまいました。犯罪が起きてますます予防ができず、また犯罪が起きる、という負の連鎖に陥ってしまいました。

2005年ごろから強硬策をとりました。マラスは週末に悪事を働くので、金曜日に若者を大量に捕まえて月曜日に釈放するといった、あくまで対症療法的な対応でした。米国から強制送還されたメンバーがリーダーシップをとって犯罪組織を拡大していることが分かってきたのもそのころです。とにかくできるだけ大量に検挙しようとするばかりで、どうして子どもがマラスに入るか、どう予防するかは考えていませんでした。

今年2月、50人以上を一斉逮捕した=エルサルバドル国家文民警察提供

――強硬策に効果はなかったのですか。

短期的な効果だけで、長期的にはありませんでした。選挙のために犯罪対策を考えても問題は解決しません。強硬策の間も犯罪組織は力をつけていきました。

失敗の一つは、嫌疑をかけることで犯罪者ではない人まで巻き込んでしまったことです。技術や科学を導入して、誰が本当に罪を犯したのか特定できるよう能力を高めるとともに、市民をどう巻き込むかという地域警察の考え方を取り入れるようにしました。

停戦=刑務所からの指令に「便宜」

――マラスと停戦した、というのは本当ですか。

2012年、当時の政権がマラスの2大勢力(MS13と18番街)と停戦協定を結びました。強硬策の失敗もあって、マラスはすでに国中からみかじめ料をとる国際的で強大な組織になっていました。

マラスは殺人件数を減らすことに合意し、警察は刑務所に入っているリーダーが外部と連絡をとるための便宜を図りました。マラスにとっては、刑務所から指令を出してみかじめ料を徴収できる利点がありました。国が犯罪集団と合意するというのは非常に難しいことで、もちろん警察内にも反対意見はありました。

停戦はあくまでその時だけの話で、非常に短期的には犯罪の数字は下がりますが、長期的に持続させる効果はありません。停戦崩壊後により強大になれるとマラス側は分かっていたのではないかと思います。

――停戦が壊れて、2014年、15年と殺人が急増しました。

16年から「マラス対策特別措置」を始めました。一番の柱は、刑務所の管理強化です。収監中のリーダーから集団への指示を遮断して活動を制約し、地方にも警察がどんどん出向いてパトロールして、地域における存在感を高めています。犯罪行動を抑える前向きな効果があり、措置の1年延長を国会にお願いしています。

――マラスの勢力拡大に歯止めはかかったのですか。

人員が減るまでは行っていませんが、増える傾向は止まりました。現在の構成員は4万から4万5千人で、そのうち1万2~5千人が刑務所にいます。マラスが都市から地方に展開する傾向はもともとありましたが、取り締まり強化で特に地方の農村部に逃げています。

――長官自身が危険な目にあったことは。

私が攻撃されたことはありません。一応、今日までは。

首都で銃撃戦

インタビューの次の日、ニュースでコットの姿を見た。首都の住宅街に武器の捜索に入った警官隊とマラスの銃撃戦になり、計3人が死亡した現場で指揮を執っていた。

警官1人、ギャング2人が死亡した銃撃戦の現場周辺
1980年代に米ロサンゼルスで台頭した移民によるギャングが源流。90年代に強制送還されてエルサルに根を下ろし、隣国ホンジュラスやグアテマラに広がった。米国各地にも存在する。「マラ・サルバトルーチャ」(MS13)と、「バリオ18」(18番街)の2大勢力が縄張り争いを繰り返している。