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世界一多くの金を買う国、インド 武装警備員に守られた宝飾店

World Now 更新日: 公開日:
インドの花嫁
インドの花嫁は結婚式で金と宝石を身にまとう。結婚の際に両親から贈られる宝飾品は財産として代々引き継がれていく=宮地ゆう撮影

世界で最も金の需要が多いのはインドだ。

主な金鉱山会社が出資して作った調査組織「ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)」によれば、2011年に宝飾品やコイン、延べ棒としてインドで買われた量は933トン。その6割は、宝飾品として使われている。

ニューデリーの宝飾店街

ニューデリー市内の、大小数十軒の宝飾品店が軒を並べる地区を訪ねた。店の前にはライフルを持った警備員の姿。ショーウインドーには、金を使った宝飾品がずらりと並んでいる。

中でも2階建ての大きな店構えの店に入ってみた。ドバイに本店があり、インド国内には80店舗を展開しているという。中では数人の女性客が金のバングル(腕輪)や指輪を見ていた。

販売部長のカジェンドラ・ベルマは「インドの急激な経済発展によって、都市部では中所得者層が急激に増え、金の需要を押し上げている。うちの店の顧客は、最近では金にダイヤモンドがふんだんにあしらわれたものを求めるようになってきた」と話す。

店内にならぶ金製品の数々

インドでは、女性が財産の一部として金の宝飾品を持つ習慣があり、ヒンドゥー教や占星術では、金は幸運を招き、健康を守るとされているという。

WGCの報告書によれば、インド国内には1万8000トン以上の金がある計算になるという。世界中の金の11%にあたる。

「過去10年以上にわたり、インドの金の消費は、平均13%増加している。今後も世界の金市場の中心であり続けるだろう」と予測している。(文中敬称略)
(宮地ゆう)

宝飾品の街、ジャイプールでの結婚式の一コマ

■金に潜む「理想化」のわな デビッド・タケット(ロンドン大客員教授)

人間の心には、ものごとの都合のいいところだけを見てしまう働きがある。「理想化」といってもよい。恋に落ちるのも、金にひかれるのも、相手を理想化するという面では同じだ。

恋人の理想化は、結婚して現実に向き合えば、じきに終わる。だが、金の理想化はなかなか終わらない。

純度を高めた金は、文字通り純粋で、美しい。単なる「価値の保蔵手段」にとどまらず、人を魅了する力を持っている。金の価値を信じ切っている人は、余計なことを考えようとしない。ただ、金の価値のほとんどの部分は、「金なら将来も、誰かがきっとほしがってくれるだろう」という人びとの信仰にすぎない。

「円のお札は、将来も誰かがきっとほしがるだろう」という信仰に支えられて紙幣が流通しているのと同じだ。人びとに共有された「物語」といってもいい。世の中が不確実で、人々が不安におびえているときは、とくに、単純で分かりやすい物語が求められる。しかし、それはいつでも変わりうる。

ロンドン大客員教授のデビッド・タケット
ロンドン大客員教授のデビッド・タケット=青山直篤撮影

金には、太古の昔から、宝飾品に使われてきた伝統があり、異なる社会の間でも「価値があるものだ」という合意もある。ただそれも「これまではそうだった」という文化的、社会的なならわしにすぎない。価値が上がることに賭けて持っておいてもいいが、ほかの投機的な商品に投資するのと同じことだ。

世界金融危機が起こる前、「債務担保証券」のようなものについて、「みんなが一斉に売りたくなってしまったらどうなるんだろう?」と考える人は少なかった。同じように、いまはみんなが「金なら誰かが買ってくれる」と信じているが、そうでなくなるリスクもある。

「裸の王様」のおとぎ話と同様に、誰かが「金より、配当を生む株式の方がずっといい」といったとたん、風向きが変わる可能性もある。その可能性にどうしたら気づけるだろうか。

私は、「理想化」の対極にある、人間のもう一つの資質に注目している。「ちょっと立ち止まって考えてみよう」と思う心のはたらきだ。分かったような気にならず、「もっと知りたい」と願い続けることが、大切なのだ。(聞き手・青山直篤)