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異才を探せ! 才能を伸ばす教育の場に集まる子供たち

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ロケットに参加する中学3年の松本元斗が作った、筋肉の電気信号で動かす「指ロボット」 Photo: Ohmuro Kazuya

六本木ヒルズの「途中階まで」を測る理由

型にとらわれず、子どもの才能を伸ばす試みが、日本でも始まっている。

東京大学先端科学技術研究センターと日本財団が共同で取り組む「異才発掘プロジェクトROCKET」(ロケット)は、才能はあるのに、学校教育になじめない子どもたちに、新たな「学びの場」を作る。

活動に携わる東大教授の中邑賢龍(61)は言う。「日本の公教育は、オールマイティーで協調性のある人材養成には非常に優れている。でも、2割の子どもはなじめない。(残り8割に)合わせるように強い指導が行われ、心の不調を起こしている。本当は才能豊かなのに、つぶされていく現状はおかしい」

中邑賢龍・東京大学教授  Photo: Ohmuro Kazuya

活動は、都内の先端研1号館で中邑のもと数日様々なテーマを議論したり、学外合宿などで体験活動やプロジェクトに取り組んだりする。各界で活躍する人たちの講演もある。現在4期目で、全国から32人が参加している。

4月下旬、東京・六本木ヒルズであったプロジェクトに同行した。中邑は子どもたちに、54階建てのヒルズの森タワーで42階までの高さを測るよう指示した。段取りを付け、物事の進め方を学ぶのが狙いだが、「一番上までの高さを問えば、パソコンですぐに調べてしまう」と中邑。子どもたちは手分けして一段ずつ非常階段の高さを測り、合算して高さをはじき出した。

通信制高校1年の岡林奏汰(16)は「ヒルズの中に入ったのは初めて。思ったより高かった」と語った。中学校では不登校。教師の指示に従うことが求められる学校教育に疑問を感じていた。ロケットについて「ここでしか知り得ないことがある。結構刺激がある」と言う。

六本木ヒルズ・森タワーで42階までの高さを測る子どもたち Photo: Ohmuro Kazuya

5年目に入り、中邑に「異才は出たか」と尋ねる人もいる。「出るわけないじゃないですか。長期的な評価でみていかないと育たない子どもたちなんです。異才ってそうなんです。今、社会は短期的な評価ばかり。長い目で見守る教育をつくっていきたい」

2期目から参加する中学3年の松本元斗(14)は、ロケットの活動とは別に、空を飛ぶトンボ形ロボットや、筋肉の電気信号で動かす「指ロボット」を作った。「学校はみんな一緒にされている感じ。ロケットは自己責任ですが、自由にやらせてくれる」

指示待ち人材はAIに取って代わられる

「関西国際学園」(本校・神戸市灘区)は、日英バイリンガル教育をベースに才能を伸ばす教育に取り組む。

英語で授業を受ける関西国際学園中等部の生徒 Photo: Ohmuro Kazuya

本校の神戸校は2015年、物事を調べて発表する「探究学習」などが評価され、国際的な教育プログラム「国際バカロレア(IB)」の初等教育プログラム(PYP)の認定を受けた。日本でアクティブラーニングが重視されるなか、教育関係者の見学が相次ぐ。

株式会社が運営し、初・中等部はフリースクールの扱いで、私学助成や税制での優遇は受けられないが、学習指導要領に縛られない。CEOの中村久美子(52)は「自由がある」と言う。

米国留学後、英会話学校や大手家電メーカーで働いた経験から、知識偏重の日本の教育と人材育成に疑問を抱いてきた。「日本の大学入試は攻略しやすい。『赤本』があり、これだけの勉強をしたら知識的に大丈夫というわかりやすさがある。でも、統一された単一のテストで人間の能力は絶対に測れない」

関西国際学園CEOの中村久美子 Photo: Ohmuro Kazuya

ミュージカル俳優志望の中等部の女子生徒(13)は将来、米ブロードウェーに挑むのが夢だ。「いい大学に行ったから、いい仕事につけるわけでもない。自分は自分」

中村は言う。「『何をすればいいですか』『黙って言うことを聞きます』というこれまで必要とされていた人材は不要。それはAIがやる。教育からまず変えていかなければならない」