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FIFA、運営は適切か

World Now 更新日: 公開日:

運営力、IOCと比べたら「2勝5敗」

国際的なスポーツ団体はきちんと運営されているのか。多くの国際競技連盟が本部を置くスイスのローザンヌ大学・公共行政高等研究所が昨年、FIFAと国際オリンピック委員会(IOC)を「情報公開」「発信力」など7分野で比べたところ、FIFAの2勝5敗に終わった。

1990年代後半以降、五輪とサッカーW杯の招致活動をめぐり、両団体の幹部が絡んだスキャンダルが相次いだ。共通していたのは世界的な人気を誇るイベントを主催する団体で、テレビ局からは莫大(ばくだい)な放映権料、スポンサーからは巨額の協賛金が入る点だ。20年を超す長期政権を築き、独裁者とも評された会長がいたのも似ている。

FIFAがIOCに大きく劣るのが、理事メンバーの男女比、理事の定年の有無などの「手続きの公正さ」の分野だ。1項目4点満点で採点し、計9項目の平均を出したところ、IOCの3.33に対し、FIFAは1.66だった。

IOCの場合、委員の定年は70歳、1999年までに就任していれば80歳だ。会長の任期は最長で12年という制限もある。

一方、FIFAは定年がないから世代交代が進みにくい。現会長のブラッターは78歳で、前任者のアベランジェは82歳までの24年間も会長の座を譲らなかった。また、昨年初めて女性理事が誕生したが、25人中女性は1人と男女のバランスも偏る。IOCは理事15人中、女性が4人いる。

非公開の幹部ごと報酬

「多様な声の反映」に関しては両者とも得点は低い。特にFIFAは選手の代表者が意思決定に加われていない。IOCは1998年に明らかになった五輪招致を巡るスキャンダルを機に、「選手」「各国の国内オリンピック委員会」「国際競技連盟」の代表を、それぞれ最大15人、IOC委員に加えるようになった。

会長、幹部職員の報酬を公開しているかなどの「情報公開」も、FIFAは2.11と、IOCの2.88に負けている。調査を統括した公共行政高等研究所教授のジャン・ルー・シャペレは「FIFAは会長、幹部職員の報酬を非公開にしているのが響く」と指摘する。

IOC会長は原則無報酬だが、本部があるローザンヌでのホテル滞在費や出張の経費は公表し、2012年は70万9000ドル(約7100万円)だった。しかし、FIFA会長の年収は非公開だ。3月に公表された財務報告書によると、会長を含めた理事25人と、局長級の幹部職員11人の報酬総額は2013年で3630万ドル(約36億3000万円)で、前年から8%アップしたことしか分からない。

2002年から9年間、FIFA理事を務めた小倉純二・日本サッカー協会名誉会長に聞くと、「当時の年間の理事報酬は10万ドル(約1000万円)程度だった」と明かす。2013年の理事たちも同程度だったとすると、会長と幹部職員には相当はずんでいることになる。

シャペレは「金銭絡みの不正疑惑が相次いだFIFAだが、2011年以降は外部の人間を招いた独立統治委員会を設置し、誰かがルールに違反した場合、匿名で通報できる制度もつくった。努力はうかがえる」と一定の評価はする。ただ、自浄作用を促す仕組みをつくったものの、独立統治委員会のメンバーが昨春、「改革案を無視された」として突如辞任するなど、改革は道半ばという印象だ。
(稲垣康介)
(文中敬称略)

放映権とスポンサーで潤沢な収入

FIFAの収入は近年、爆発的に増えている。W杯開催年ごとに4年単位で収支を総括しているが、財務報告書によると、1999~2002年(日韓大会)の収入は3087億円。03~06年(ドイツ大会)は3723億円、07~10年(南アフリカ大会)では4189億円と急伸した。ブラジル大会は、13年までの3年間ですでに3622億円を稼ぎ、このままいくと5000億円に届く勢いを見せている。

収入の大きな柱になっているのがテレビ放映権料だ。直近で公開された2013年の収支報告によると、収入1386億円のうち45%にあたる630億円が放映権料だった。
もう一つの柱がスポンサー料だ。13年には413億円(30%)を稼いだ。FIFAは現在、最高位のスポンサーとして6社を抱える。アディダス、コカ・コーラ、エミレーツ航空、現代自動車グループ、VISAカード、そしてソニーだ。そのソニーは、ブラジル大会では4Kテレビや放送機器も提供する。ソニーの担当部門長、河内聡一は「試合を観戦する過程で、テレビやカメラなど、商品を体験してもらえる」とスポンサー契約の意義を唱える。

こうして得た巨額のお金を、FIFAはW杯をはじめとする主催大会の開催費に充てるほか、傘下団体にサッカー支援名目で分配して求心力を維持している。
13年の支出総額は1314億円。W杯予選を含む大会関連に58%の757億円。人件費102億円を含む本部運営費などに16%の216億円を費やした。理事会などの開催費も別枠で32億円を計上した。さらに14%の183億円を各国・地域のサッカー発展に充てた。

183億円は、様々な支援策を通じて各加盟協会に配られた。すべての加盟協会に配られる「経済援助プログラム」(54億円)や、競技場や照明器具など設備を充実させるための「ゴールプログラム」(27億円)、審判の育成支援(9億円)、教育現場や女子サッカー向け支援(33億円)といった具合だ。

一方で、毎年生じる収支の差額を累計した「積立金」は1432億円に上る。FIFAは「不測の事態に備えるため」と説明するが、NPOでありながらこれだけの「利益」をため込むことを疑問視する声もある。
(和気真也)

欧州クラブ協会・ルンメニゲ会長に聞く

世界の一線級を多く抱える欧州のビッグクラブは、代表チームに選手を長期間、拘束されるのを嫌う。だから、W杯を主催するFIFAとは常に緊張関係にある。欧州の53カ国・地域214クラブが加盟する欧州クラブ協会(ECA)会長で、ドイツ随一の強豪クラブ、バイエルン・ミュンヘンの社長でもあるカールハインツ・ルンメニゲ(58)に聞いた。

──今のFIFAの組織運営に納得されていないようですね。

「開かれた組織とは言いがたい。たとえば今回の大会では選手を出したクラブに計7000万ドル(約70億円)が分配されるが、FIFA全体の収入を考えたら、まだ十分な額とはいえない。選手やクラブなど、日々サッカーに携わる人たちが、何かを決める過程にもっと参画すべきだ」

──どのような点が閉鎖的なのか?

「サッカーの主役は選手たちだ。私の記憶では2010年南アフリカW杯に出場した選手の4分の3が欧州のクラブに在籍していた。今夏のブラジル大会は、その比率がさらに高くなるのではないか。本来なら、夏に開幕し、翌年の春にシーズンが終わる欧州各リーグの日程への配慮があるべきだ」

──それは中東で初開催となる22年カタールW杯で検討されている冬季開催に対する不満ですか?

「そうは言っても、最高気温50度にもなる6?7月にカタールでW杯をするのは、選手にとっても観客にとっても好ましくない。だとすると二つの選択肢が浮かぶ。開幕を11月にするか、1月にするかだ。1月にした場合、冬季五輪への影響があるので、国際オリンピック委員会との調整が必要になる」

──右肩上がりで収入が増えているFIFAのお金の使い道については?

「使えるお金が増えるのはサッカー界にとって幸せなことだ。アフリカやアジアなど、支援の輪が広がれば、さらにサッカーが普及する国はたくさんある。一方で、FIFAが裕福になったことで、理事が汚職に手を染めるなど、不正の温床になってしまうのは困る」

──FIFA理事のなかにはW杯の参加チームを現行の32チームから40チームに増やすべきだと主張する声もある。

「これ以上の肥大化には反対だ。大会期間を延ばすのは無理がある。加盟協会数が多いアジアは現行の4、もしくは5枠、アフリカも今の5枠からの増枠が欲しいだろう。一方で欧州は過去のW杯で実績を残してきた強豪国が多く、今の13枠を譲りたくないのが本音だ」

──どこかの大陸が譲らない限り、結論は出ませんが。

「私個人は大会の質を保つことも大切という考えだ」
(稲垣康介)
(文中敬称略)