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中国の精子バンク、ドナーの条件

ニューヨークタイムズ 世界の話題
瀋陽市の精子バンクで、提供された精子を検査する中国の研究者=2011年10月、Imaginechina via AP

精子のドナー(提供者)に向けた広告の内容は厳格だった。頭がはげている人はダメ。色覚異常のような遺伝性の病気がある人もダメ。何らかの疑いがある場合については、北京大学第三医院の精子バンクは次のように条件を明示している:ドナーは「社会主義の祖国」への変わらぬ愛情を有する男性に限る。

中国における日常の暮らしの中核に共産党を据えるという、習近平国家主席による中国共産党の役割の復活を目指す動きは、社会主義のスローガンを掲げた街頭の横断幕や民族主義的なラップ音楽の放送、愛国的な英雄が登場する映画などに表出されてきた。そしていま、習主席は新たな形で党への忠誠を鼓舞している。生殖だ。

ソーシャルメディアを通じて拡散した病院の精子バンクの広告は、共産党と習主席への支持をドナーの最優先要件に掲げている。理想的なドナーを、「善き思想信条の持ち主であること」と描き出し、「社会主義の祖国を愛し、中国共産党の指導を支持することだ」としている。

その広告だと、精子ドナーには最高5千人民元(約800ドル)が支払われる。最新の2016年報告書によると、病院が受け付けたドナーは全申請者の約19%だった。

ところが、この広告はソーシャルメディアで広く嘲笑され、その後、削除された。中国版ツイッター「ウェイボー(微博)」には「国家と党への愛は精子から始まる」と揶揄(やゆ)する書き込みもあった。

ドナーの条件を疑問視するコメンテーターもいた。広告は、ドナーに「正直かつ真っすぐ」で「政治的な問題」に首を突っ込まないことの必要性を要求していた。

ウェイボーには「科学的な根拠はどこへ行ってしまったのか?」と疑問を投げかける書き込みもあった。ニューヨーク・タイムズは北京大学第三医院のスタッフに電話でコメントを求めたが、断られた。

習主席による党への揺るぎない忠誠の要求は、それを示したい幹部たちの過剰反応を招いてきたことが知られている。批評家たちの間には、習主席が毛沢東以来途絶えていた個人崇拝の復活を奨励していると指摘する声がある。

習主席の下で、政府幹部たちは、若い世代に「赤い遺伝子」――つまり、共産党の伝統――を徐々に浸透させる必要性を頻繁に語るようになった。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE=英ロンドンにある社会科学に特化した大学)のウィリアム・カラハン教授(国際関係論)は、精子バンクの広告は科学とイデオロギーの融合を狙った習主席の意向が反映されていると指摘する。

「民族主義と社会主義が特異な形で交ざりあい、血統を競う中国のアイデンティティーを強化している」とカラハン教授。彼は、「精子バンクの広告は、党による政治支配がますます進行していることや、民族主義がいかに人種的な純粋性に基づいて規定されるようになっているかを示している」と言うのだ。

精子バンクの広告は、一人っ子政策の転換に伴い、第2子を望む家庭が増えることを見越して登場した。中国は社会の高齢化が進行するなかで労働力を確保しなければならないという重圧に直面しており、精子バンクは愛国心に訴えて若者の精子ドナーを募っているのだ。(抄訳)

Javier CHernandez)(C2018 The New York Times

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