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価格破壊で商機、宇宙にも

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宇宙に放出された超小型衛星が、地球の画像を撮影する。(NASA)

価格破壊が生んだ「星座」

「衛星をつくり始めたのはいつからですか」「写真を撮ってもいいですか」

中国から来た短髪の中年実業家が7月下旬、ベンチャー企業「アクイラ・スペース」のCEOクリス・ビディー(31)を質問攻めにしていた。

アクイラは米シリコンバレーにある超小型衛星をつくる会社だ。大学院で機械工学を学んだビディーが昨年12月に設立した。「衛星で『地球の画像』を撮るために、起業したんです」

17人いる社員の大半は20代で、オフィス兼製作場は320平方メートルの平屋を借りている。ここに連日、世界各地から視察者がやって来る。「昨日は君(記者)も知っている日本企業の人も来たよ」

人工衛星から地表を撮影し、地球を観測する技術は「衛星リモートセンシング」と呼ばれ、宇宙ビジネスの分野で最も注目される。仏の調査会社によると、衛星画像の売上額は2013年に世界で約1800億円だったが、今後、年10%以上の伸びが続くと予想される。コンサルティング会社A.T.カーニーの石田真康は「衛星開発から画像の流通や解析まで、世界で100社程度が関わる」とみる。

一辺数メートル、重さ数トンの従来の大型衛星は、開発費が数百億円もかかり、ベンチャー企業が参入するのは難しかった。だが10センチ四方、重さ数キロの超小型衛星なら、100万円台という低価格からつくることも可能だ。

「地球の画像」でどう稼ぐのか

宇宙に放出された超小型衛星が、地球の画像を撮影する。(NASA)

「価格破壊」が可能になったのは、ITの進化が大きい。精密な活動を行う大型衛星には専用部品が必要で、コストが跳ね上がる。だが、CPUやセンサーなど、人工衛星に必須の部品は今や、携帯電話や自動車などに広く使われる。既製品を安く買って衛星に流用することで、機能は限られるが、製造コストを大幅に削減できるのだ。ビディーは「僕らは部品を組み立て、衛星として動くようにする『システムの統合屋』」と説明する。

では、安い超小型衛星で撮った「地球の画像」でどう稼ぐのか。今、その解に最も近づいているベンチャー企業の一つが、「プラネット・ラボ」だ。

プラネットは元米航空宇宙局(NASA)職員3人が10年に米サンフランシスコで起業した。今や社員数125人と、業界を代表する企業に育った。超小型衛星で撮った画像を農業に応用し、もうけることを目指している。

米国には、広大な農地を耕す大規模農家が多い。上空から撮った画像で農地を定点観測すれば、作物の生育状況が手に取るように分かり、水や肥料の量を細かく調整したり、収量予測の精度を高めたりできる。

プラネットは今年2月、米農薬大手「ウイルバー・エリス」と、3~5メートルの解像度で撮影した農地の画像を提供する契約を結んだ。ウイルバーは農家に、効率的な生産法について助言する。

31センチまで識別できる

こうしたビジネスに不可欠なのが、数十~100基を超える超小型衛星を軌道に乗せて一体運用する「コンステレーション(星座)」という手法だ。衛星1基だと、ある地点を短時間に何度も撮るのは難しく、大型だと画像は1枚50万~100万円と高価になる。だが、たくさんの超小型衛星が次々とその地点を通過すれば、撮影の頻度は上がり、価格も下がる。

プラネットはすでに衛星約50基を軌道に乗せており、150基態勢を目指している。最高技術責任者のクリス・ボスハウゼン(38)は「巨大な『星座』を運用できる企業が今後、大きな利益をあげられる」と話す。

業界の競争は激化している。グーグルは昨年6月、1メートルの物体を識別できる技術を持つ衛星ベンチャー「スカイボックス・イメージング」の約600億円での買収を発表した。その数日後には、米政府が大手「デジタルグローブ」の訴えを聞き入れ、企業が民間に販売できる画像の解像度を50センチから25センチに緩和した。軍事機密レベルの撮影が可能で、同社はその2カ月後、31センチまで識別できる衛星を打ち上げた。

とはいえ、どの試みがあたるかはまだ分からない。石田は「各社は収益をあげる道筋を模索している。そこが明確になれば、産業として離陸できる」と言う。
(榊原謙)

スペースXが与えた衝撃

宇宙ビジネス界に彗星のごとく現れ、他社の追随を許さないのが、米ベンチャー企業「スペースX」だ。

同社は、IT事業などで成功を収めたイーロン・マスク(44)が「人類の火星への移住」を目指し、2002年に設立した。立ち上げからわずか6年で、世界初となる民間資金によるロケット打ち上げに成功。現在はNASAとの契約で、自社製ロケット「ファルコン9」に補給船を搭載し、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送も請け負う。

6月にあった打ち上げでは、ロケット発射から約2分後に爆発し、回収試験はできなかった。(ReutersAflo)

2011年に退役したスペースシャトルは、保守点検費用などがかさみ、1回の打ち上げ費用は約1200億円に達していた。スペースXはロケットの構造をシンプルにし、民間の部品を使うことで、低価格化に成功。有人のシャトルと単純に比較はできないが、1回の打ち上げ費用を72億円まで下げた。スペースXの成功は、ベンチャー企業が続々と宇宙ビジネスに参入する起爆剤となった。

今年6月の打ち上げには失敗したが、それまでは18回連続成功と、信頼性も高い。最近は、人工衛星を活用したネット接続事業も模索しており、今年1月にはグーグルなどが計1200億円を出資。現在の企業価値は約1兆4000億円に達する。

火星に街ができてもいいはずだ

6月の打ち上げの際は、ロケット回収試験も行う予定だった。高度80キロ超で切り離されたロケットを、逆噴射で海上の船に着地させる計画だ。実用化されれば、現在は使い捨ての機体の再利用が可能になり、打ち上げ費用を100分の1以下に抑えられる可能性を秘める。

「万全の準備で待ち構えていたのに、残念な結果に終わってしまった。よりによって私の誕生日にね」

CEOのマスクは事故の翌週、ボストンでの講演会でこう残念がった。当初は次の打ち上げを9月に予定していたが、万全を期すために、数カ月間延期した。

スペースX台頭の陰には、民間企業にロケットの開発・運用を任せるオバマ政権の方針もある。米国では現在、ISSへの輸送はスペースXを含めた2社が担う。シャトル後継機の開発でも、昨年秋、スペースXとボーイングが総額約8100億円の契約を結んだ。NASAの年間予算は約2兆円と横ばい状態が続いており、科学探査や火星有人探査などに予算を集中させる作戦だ。

再利用ロケットが実現すれば、さらなる宇宙ビジネスの起爆剤になるのは確実だ。マスクはこう話す。「宇宙へ向かうコストを下げ続けられれば、火星に街ができてもいいはずだ」
(小林哲)

宇宙のゴミを掃除する

母艦「マザー」から発射される「ボーイ」=榊原謙撮影

2013年に公開され、大ヒットしたハリウッド映画「ゼロ・グラビティ」は、主人公が乗るスペースシャトルに「宇宙のゴミ(スペースデブリ)」が衝突した場面から、物語が始まる。

宇宙には、使われなくなった人工衛星やロケットの破片など、1億個を超えるゴミが存在する。秒速8キロで地球の周りの軌道を回っており、ロケットや人工衛星にぶつかれば、一瞬で破壊してしまう危険な存在だ。09年には、人工衛星どうしが衝突し、無数のデブリがばらまかれた。衛星ビジネスが盛んになるにつれ、デブリの数も急激に増えている。

「デブリは切実な問題だという分析は山ほどあるが、現実的な解決策はない。起業するならこれだと思った」

「宇宙の掃除屋」を目指し、2013年に「アストロスケール」を設立したCEOの岡田光信(42)はこう話す。

デブリ除去はNASAや宇宙航空研究開発機構(JAXA)も研究するが、決定的な方法論はまだない。JAXAの担当者は「商業的に成り立つ方法を検討している点ではアストロと共通する」と話す。

大蔵官僚だった岡田は民間の躍動感にひかれ、6年前にIT企業を作った後、シンガポールに移った。経営はうまくいっていたが、40歳を前に、小さい頃から憧れていた宇宙産業への転身を決める。宇宙産業はITとの融合が進み、巨大資本がなくても専門性とアイデアがあれば参入できるという読みもあった。

市場ができてから参入したのでは遅いんです

数百本の論文を読みあさり、デブリを除去するには、「掃除用」の衛星をデブリに接着させ、もろとも大気圏に落として燃やすのがいい──という基本コンセプトにたどりついた。

この衛星は「マザー」と呼ぶ母艦と「ボーイ」と呼ぶ子機からなり、ボーイの前には接着剤、後ろには固体燃料ロケットがついている。マザーは自ら目指すデブリに近づきボーイを発射。ボーイとデブリは「抱きつき心中」さながら、数日から数年かけて大気圏に突入する。

岡田は、大学や企業をまわり、このアイデアを提案した。最も難しいと思われた接着剤の研究に、ある化学メーカーが応じた。今年に入り、宇宙の厳しい環境にも耐えうる製品の提供にめどがつき、間もなく衛星の組み立てを始める。17年に軌道上での実証実験を開始し、20年の本格運用を目指す。まずは大型デブリ200個の除去が目標だ。

日本で本格的に宇宙ビジネスに参入するベンチャー企業は、片手で数えられるほどと言われる。岡田も日本を市場とするビジネスには限界を感じ、海外からの投資を受けやすいシンガポールを拠点に、世界の顧客をつかもうとしている。

だが、現時点で市場が見えない分野に、投資し続けるのは危うくないか。そう問われたとき、岡田は、米通信機器大手シスコシステムズの例を挙げる。同社はインターネットが爆発的に普及する前からその可能性を確信し、ルーターなどの機器を生産。今では高い市場占有率を誇る。「人工衛星ビジネスが活発になれば、危険物であるデブリの除去が絶対に必要になる。市場ができてから参入したのでは、遅いんです」
(榊原謙)

1億円くらいのロケットが欲しい 堀江貴文

ロケット開発のベンチャー企業に、数億円を投資しています。宇宙ビジネスがもうかるからではありません。

アポロが月に行ったのは僕が生まれる前のことです。当然、大人になる頃には火星どころか、太陽系の外まで有人ロケットで飛んでいけるだろうと思っていた。なのに、そうはならなかった。コストが高いからです。国主導で研究開発するから、安くていいものを作ろうというインセンティブが働かないんですよ。

「だったら自分たちで安いロケットを作っちゃえ」ということなんです。イーロン・マスクも、マインドは僕と同じだと思いますよ。安価で容易に宇宙へアクセスしたい。それって当たり前のことなのに、誰もやらなかっただけなんです。

堀江貴文=中村裕撮影

民生品の安い部品を買ってきて組み合わせれば、安く作れる。超小型衛星を作っている人たちは、1億円くらいで好きな周回軌道に打ち上げられる小型ロケットが欲しいと思っているんですよ。僕たちが狙っているのは、ここです。

今年度中に、まず高度100キロ以上の宇宙空間に行って下りてくるロケットを飛ばす予定です。この高さなら、2000万円くらいで打ち上げられる。来年度から商業利用し、2年後くらいには、地球を周回する軌道上にロケットを打ち上げる予定です。いずれは有人ロケットを作って、誰でも宇宙に行けるようにしたい。

大変なことばかりですよ。スペースXは有人宇宙船の開発だけで、NASAから26億ドルを受け取っている。僕らは国の予算を期待できないし、投資してくれる人もいない。カネの力で開発を加速させる、米企業のようなパワープレーはできません。だから投資してもらうために、もうかる枠組みを作る。それが僕の役割です。


(聞き手・中村裕)

なぜ宇宙ビジネスなのか。堀江貴文氏が語る(取材:中村裕、機材提供:BS朝日「いま世界は」)


ほりえ・たかふみ
1972年生まれ。元ライブドア社長。インターステラテクノロジズ(北海道大樹町、社員7人)でロケットを開発している。


民間参入の「光」と「影」

米ソが激しく争った宇宙開発は、冷戦の終わりとともに予算が大きく削られた。雇用や軍事につながる技術を守るため、「官需」で支える構造は変わらなかったが、長らく停滞期が続いていた。

だがここ数年、新たに民間の血が入ったことで、息を吹き返しつつある。

米オバマ政権は、ISSへの人や物資の輸送など「低軌道」の開発を民間に移し、それより遠い火星への有人探査などはNASAに集中させる政策を進める。

スペースシャトルの製造も民間企業が担っていたが、国から発注を受ける「公共事業」だった。新政策でも、企業はNASAの求めに応じて契約するが、設計や開発などを自ら進め、資金も調達しなければならない。企業側の裁量が増えたことで、価格破壊や技術開発が進んだ。

JAXA名誉教授の的川泰宣は「アポロ計画にたずさわった人たちがちょうど定年を迎え、民間企業に流れこんだ。米政府は民間に技術をつなぐいい機会をとらえた」と話す。日本でも新型ロケット「H3」の開発は、JAXAに代わり、三菱重工業が基本設計の段階から主導している。

民間企業の参入により価格破壊が進んだことで、衛星放送やGPSなど、衛星を利用するサービスも使いやすくなった。それが「民需」の高まりに伴う市場拡大にもつながっている。米衛星産業協会によると、2014年の世界の宇宙産業の市場規模は約24兆円と、この10年で2.4倍に膨らんだ。新興国が市場を引っ張っている。

宇宙開発への民間参入は、従来の枠組みにも影響を与えている。例えば国はより一層、軍事技術が他国に漏れるリスクに目を光らせねばならない。打ち上げたロケットが爆発し、巨大な損害を与えた場合の、国と企業の責任分担のあり方も課題になってきた。北海道大学公共政策大学院教授の鈴木一人は、「目先の利益にとらわれ挑戦を避けるようになれば、技術開発も停滞する。ある程度は、国が民間企業を資金面で支援する枠組みも必要だろう」と話す。
(小山謙太郎)
(文中敬称略)