スペイン・マドリード郊外のスポーツ施設。人工芝のグラウンドで、15歳の中国人のサッカー選手たちが一心不乱にボールを追いかけていた。
赤いユニホームの胸には漢字で、「恒大足球学校」。2013年と15年にアジア・チャンピオンズリーグを制し、中国リーグ7連覇中の強豪・広州恒大の系列のサッカー学校だ。広州恒大の育成部門を担当している。この日、ペルーから遠征していたチームと練習試合をしていたのは02年生まれの選手たち。その年代で中国チャンピオンになったチームだ。
足球学校は7歳から18歳までの計3000人を抱える。15年から優れた若手を選び、80人前後をマドリードに留学させている。14歳からの3年、寄宿生活をしながら、欧州の指導手法でサッカーを学ぶ。滞在費用はクラブ持ちだ。現地責任者ギジェルモ・トラマは「この世代の選手たちが中国サッカーの歴史を変えられると思っている」。
サッカー界ではアフリカの若手選手の青田買いが社会問題となり、国際サッカー連盟が18歳未満のサッカー選手の国際移籍を禁止している。足球学校の選手はスペイン国内で公式戦に出られず、練習試合でしか実戦経験を積めないが、プロジェクトを始めた足球学校の前校長・劉江南は言う。「中国ではトップレベルの試合ができない。マドリードなら強いチームと戦える環境がある」
提携するレアル・マドリードに加え、スペイン1部のクラブとも試合を組む。この学校から17歳以下の中国代表に毎年5人前後の選手が招集されるという。
国挙げて強化に乗り出す
広州恒大だけでなく、いま中国は国全体で育成の強化に乗り出している。習近平主席の肝いりで15年3月に中国サッカーの改革プランができた。コートジボワール代表を務めたFWドログバ、アルゼンチン代表だったFWテベスら中国チームによるスター選手の「爆買い」に目が集まるが、政府も社会政策の一環として施設の建設などに予算を割く。中国サッカー協会副会長の林暁華は「2万以上の学校の体育でサッカーが必修になり、サッカー人口が増える」と話す。
日本の指導者にも白羽の矢が立つ。日本サッカー協会が把握しているだけで元日本代表監督の岡田武史を始め、近年40人以上の指導者が中国へ渡っている。J1川崎で監督を務めた高畠勉は16年から中国1部河北華夏で育成組織を統括する。
中国では有望とみれば、15歳前後の選手でも1億円近いお金が動く。16歳でほとんどの選手がクラブと契約を結び、資金面でも援助される。高畠も「日本に遠征に行きたいと言えば、すぐに遠征費が用意される。お金のかけ方が違う」と舌を巻く。
課題がないわけではない。お金が使われているため、周囲の期待が大きく、結果至上主義になりがちだ。サッカー好きと言うよりも、親に言われてやっている子どもが多い。育成年代の大会の整備が不十分で、試合日程もなかなか決まらない。ただ、高畠はその潜在能力の高さを感じる。「技術はまだまだだが、体も大きく、選手の身体能力は日本や韓国より高く、東アジアで一番。10年続ければ、日本や韓国と勝負できるのではないか」(文中敬称略)
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こうの・まさき/1976年生まれ。サッカーで50カ国近く取材したが、中国サッカーの馬力に触れ、改めて競技の奥深さを感じた。