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「打ち勝つ」から「受け入れる」へ かわるアンチエイジング

ニューヨークタイムズ・マガジンから
Illustration: Derek Brahney/The New York Times
Illustration: Derek Brahney/The New York Times

The Ever-Changing, Business of 'Anti-Aging'

雑誌「アルーア」の20179月号の表紙を見てほしい。72歳の女優ヘレン・ミレンが20代男性のものと思しきタトゥー入りの腕を首元にからませている。同誌はミレンを「私たちが求めるヒーロー」と称し、美容業界における「アンチエイジングの終焉」を打ち出した。編集長のミシェル・リーは誌面で、「アンチエイジング」という言葉を使うのをやめ、代わりに「シワも含めて、あなたらしい肌になっていくことをたたえる」ことへの決意を示した。「老化に対する考え方を変え」「老化に関する話し方を変えることから始めよう」とつづっている。

老化に対する唯一にして真の解決法は死だが、それに対処する中心軸にあるのは、遅らせ、拒むことだ。スーザン・ソンタグのエッセー「老化のダブルスタンダード」(1972年)にはこんな言葉がある。「人々がどんどん長生きする時代、誰の人生も後半の3分の2は、あとは失っていくばかりという痛々しいまでの不安の影がつきまとう」。老いることは消されること。存在を軽んじられ、雑誌の表紙や人気の映画から姿を消し、施設へと押し込められて管理され、世話をされ……。こと女性に関しては、求められる対象から用済みの存在へ。私たちは日々、自己の消失と闘いながら生きている。

「不老長寿」の薬にしても、その広告イメージやブランド化された用語やキャッチコピーにしても、目指すところは皆同じ。それは解決困難で広範な物事——「人は誰しも死ぬ」ということへの不安や、魅力のあるなしで女性を評価するという根深い習慣、年齢差別や性役割は過去のものであるべきだという感傷など——を覆い隠すことだ。そして軽やかに約束するのだ。「この小さなクリームがなんとかしますよ」

ここ何十年かで「アンチエイジング」なる発想の黄金期が到来した。従来の教訓的な広告から「勇敢な女性が時間との競争に打ち勝ち、自分の容姿を制御する」という印象的な物語へ。老化と「闘う」「打ち勝つ」「立ち向かう」、肌へと「介入」するといった軍隊用語がファッション誌を飾り、レブロンは消費者に「目を背けないで。抗うの」と語りかけるようになった。「アンチエイジング」ビジネスが浸透するほどに、私たちがいかに年を取るまいと必死であり、それがいかに無駄な抵抗に終わっているか、ということが表れるようにもなった。

そんな「戦闘」モードから「許容」モードへと向かう波にうまく乗ったのが、アルーア誌の「アンチ・アンチエイジング」だった。今日の美容業界は、「無添加」「環境にやさしい」「心身を豊かにする」といった文句にこだわることで、シワを超えた「自己管理」という境地を打ち出している。17年、キールズが発表したクリームは「シワが問題ではない」として「健康的で」「輝く」肌という表現を用い、「ニュージーランド産マヌカハニー」「韓国産高麗人参」といった「天然由来」素材を強調している。とはいえ、女性が美しくあることへの期待は依然としてある。「再生」「活性」「輝き」といった語は、「若々しい」ことを示す最先端の婉曲表現だ。老いを悪とするような社会的、文化的価値観にあって、「若さ」こそが自然なのだとでも言うように。

これからは老いるにしろ逆らうにしろ、年をとるなら騒ぎ立てずに颯爽と。プチ断食や10代の人からの輸血、成長ホルモン注射、人体の冷凍保存といったぞっとするエセ科学に頼ってまで、老化や死と格闘するような間延びした余生はもう御免。誰だって老けてみえたくはない、そう黙って理解しながらも、シワもまた自分の一部として受け入れることとしよう。(アマンダ・ヘス、抄訳 菴原みなと)©2017 The New York Times

 

Amanda Hess

ニューヨーク在住のライター。ウィスコンシン州、ネバダ州、ワシントン州、アリゾナ州で育つ。女性のネット上ハラスメントに関する記事で「ナショナル・マガジン・アワード」のPublic Interest部門を受賞。

 

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