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安田菜津紀さんが語るSDGsの課題と大学生を結ぶ点と線 安田菜津紀さんが語るSDGsの課題と大学生を結ぶ点と線

SDGsについて語るフォトジャーナリストの安田菜津紀さん

2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向け、社会が動き出しています。17のゴール、169のターゲットが設けられ、地球上の「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」ことを誓っています。世界中を駆け巡るフォトジャーナリストの安田菜津紀さんに、大事な視点や大学生ら若い世代だからこそできることについて聞いてみました。

グアテマラと日本で感じた「ジェンダー平等の実現」

──世界を取材・撮影されてきた安田さんですが、ファインダーを通じてSDGsで謳(うた)われている17の目標を意識したことはありますか。

この写真を見てください。2019年7月、中米のグアテマラに行った時の写真です。国際NGO「プラン・インターナショナル」の人たちと一緒に、山奥にある小学校で撮影した一枚です。

中米は「マチスモ(machismo)」といわれる男性優位の価値観が根強く残っていて、女の子に教育は必要ないという人たちもいます。そういう環境で育っていくと、女の子自身が自分の意思を表明していいんだという発想がそがれていくんですね。

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グアテマラ、バハベラパス県プルラ中心地から車をさらに2時間走らせた山奥の学校。国際NGO「プラン・インターナショナル」の支援を受け、女の子たちが通いやすいよう、男女別のトイレを作るなどの環境改善が図られている。©Natsuki Yasuda / Dialogue for People

──SDGsの目標にある「ジェンダー平等の実現」や「質の高い教育をみんなに」、「貧困をなくそう」といった動きですね。

この話はその続きがあります。グアテマラから帰国した時、日本ではちょうど参議院議員選挙でした。私は、グアテマラではなかなか女性の社会進出が進んでいない、これは大変だ、日本で伝えなくては、と思って帰国したのですが、グアテマラの国会議員に占める女性議員の割合より、日本の方が少ないことに気づきました。

グアテマラはグアテマラで解決すべき問題がありますが、日本でも課題があることを突きつけられた気持ちでした。

カルチャーを通じた発信に若者が呼応

──安田さんは、SDGsやその目標についてどう考えていますか。

2015年に国連で採択される前から、私は難民問題やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者といった自分ではなかなか声をあげることが難しい人たちを取材してきました。「誰一人取り残さない」というSDGsの理念は自分がこれまでやってきたことと重なりました。

ただし、「取り残さない」という目標を掲げている側は、少なくとも「取り残されている」側ではありません。ともすると、上から目線になってしまうので、やり方は慎重に考えないといけません。とはいえ、目標が掲げられることによって、社会課題について気づいた若い世代の人たちもいると思います。世界の問題を知るための間口を広げる、という意味で大切な目標設定だと思います。

──環境問題では、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが「国連気候アクション・サミット2019」で演説をし、欧米を中心に若い人たちに共感を呼び起こしています。

私が所属するNPO法人の事務所でも、インターンの大学生や高校生が10人ぐらいいます。SNSの一つ「Instagram」でどうしたら効果的に情報を拡散できるのかを考えています。大切なことを大切だと発信しても、もともとそのテーマに興味がある人にしか届きません。関心のない人も関わりをもってもらうための発信の手法を常日頃から考えています。私たちは、こうした若い人たちの試行錯誤から学ぶことが多いですね。

──SDGsの世界的潮流と日本とのギャップについて、どうみていますか。

海外では、特に音楽などのカルチャーからの発信に若者が呼応しています。アフリカ系アメリカ人への暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える運動「ブラック・ライブズ・マター」(Black Lives Matter)でいうと、ビリー・アイリッシュさんが声を上げたり、アリアナ・グランデさんがマーチに参加したんだと投稿したりして、意思表示をしています。

日本では、まだまだ政治を音楽に持ち込むなといった声が聞こえてきます。日本では政治について話すのは政治家だけというような風潮があり、私自身も写真家なのに政治を語るのかといわれたこともあります。国会や記者会見で「お答えを控えさせていただきます」という政治家もたくさんいるくらいなのに(笑)。

「コロナ禍で誰しも社会や政治と無関係でいられないという意識が持たれるようになりました。この社会や政治への関心の芽をどう育てていくのかがカギですね」

学生が動けば社会のエネルギーになっていく

──大学生ら若い世代に期待することは何ですか。

私自身の学生時代は、とにかく会いたい人に図々(ずうずう)しく会いに行っていました。それが私の財産になっています。環境問題など、色々なトピックで学生が動き、意思表示をしていく流れを既に多くの若い世代の人たちが築いています。それは社会のエネルギーになっていくはずです。

知り合いの高校生ですが、昨年、インドに留学していました。現地では、生活に困窮している子どもをドレスアップするファッションショーを企画したそうです。その資金はインターネット上のファンディングサイトを通じて集めたのですが、プラットフォームを作ったのは日本の中学生だったそうです。

──大学に期待することは何ですか。

大学は、学生の問題意識や社会課題に関する活動の芽を摘み取ることがないようにしてほしいですね。また、大学も人権や不平等など社会問題に対して敏感になり、大学で働く人たちの働き方、ジェンダーのアンバランスなど内部を改革していく柔軟性が必要です。変わっていく大学生たちに対して、大学も常にアップデートしていかないといけないと思います。就職を指導するのも大事だけれど、どういう大人になりたいのかを考える場を共有できるといいなと思います。

「日本でも小中学校や高校の授業でSDGsが取り上げられるようになり、私も講演を依頼されることがあります。勉強で忙しい子どもたちは、今すぐに自分の世界を広げるのが難しい場合もあるけれど、学んだことがポツポツと点になり、それがいつか線につながるでしょう」

「好きなものから入っていけば知識を広げられるし、
人にも伝えやすい」

──SDGsをスローガンに終わらせないためにはどうしたらいいと思いますか。

「こういう問題があることをまず知ることが大事」とはよくいわれますが、「自分は何ができるか」と問う人たちはすでに問題があることを知っています。では「知る」の次は何かといえば、「知らせる」こと。「SDGsって知っている?」といきなり話すのは難しいかもしれませんが、関連のある事柄をきっかけにするといいと思います。

私は日本にいる難民の人たちのことを伝える際、食文化を通して伝えようと取材をしてきました。シリアやミャンマーの難民の方々が経営しているお店にランチを食べに行き、そこで働く人たちに会うだけで心の距離が近くなります。

友だちの誕生日のプレゼントに意味のあるものをあげるのもいいですね。私はシリアの寄せ木細工のアクセサリーを持っていて、それを身につけるたびにシリアのことを考えます。 音楽や映画といったカルチャーにもSDGsのことが内包されているものがあります。好きなものから入っていけば知識を広げられるし、人にも伝えやすいと思います。

言葉だけではなく、自分が知らせやすい形を見つけるといいですね。

SDGsはまさに自分はどういう生き方をしたいかを問うています。買い物で環境に配慮したものを買ってみようかとか、その積み重ねは小さなことに思えるかもしれません。大切なのはこうして日常的に意識を向け続けることで、大きな「システムチェンジ」のための声を継続的に届けていくことではないでしょうか。

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©Kei Sato / Dialogue for People

やすだ・なつき フォトジャーナリスト

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属で副代表。16歳の時、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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