今年1月から3月にかけて募集が行われた第1回「ヘラルボニー・アート・プライズ2024」には、28の国と地域の924人から1973点の応募があり、グランプリには仙台市の浅野春香さんの「ヒョウカ」が選ばれた。
11月13日に東京・渋谷で行われた記者発表会には、ヘラルボニーの共同代表を務める双子の兄・松田文登さんと弟・崇弥さんが登壇した。
文登さんは、ヘラルボニー創業のきっかけには、知的障害を伴う自閉症の4歳上の兄・翔太さんの存在があったと紹介。「自分の原点は、兄の幸せを強くつくる社会を作りたいことにあるので、作家さんが(アワードを)受賞してよかったね、で終わらずに、その作家さんがそこの(高い)ステージを目指すのなら、力強く伴走していくのが私たちのモチベーションだし、それをやっていく」「ヘラルボニーと作家さんと、一緒に共に勉強していけるような、そういうアワードでありたい」と話した。
第2回アワードのグランプリ受賞作は、来年5月から東京と、ヘラルボニーの本拠地・岩手県、同社が今年新たに欧州の拠点を設けたフランス・パリの3カ所で展示されるという。
第1回アワードの最終審査の場に同席したという文登さんは、「圧倒的な表現がそこに存在していて、本当に感情がかき立てられる。作品の説明を作家本人がしていくことはなかなか難しいけれど、作品があることによって、いろんな感情をもらえることは、この世に生まれてきてすごく豊かなことだなと思うし、作品に出会えたことそのものが自分の思考を豊かにすると思っているので、いろんな発見がある展覧会であったらうれしい」と話した。
第2回アワードの審査員は、第1回に引き続き東京藝術大学長の日比野克彦氏と金沢21世紀美術館チーフ・キュレーターの黒澤浩美氏、新たにドイツから「EUWARDアーカイブ」「アトリエ・アウグスティヌム」ディレクター兼キュレーターのクラウス・メッヘライン氏、米国から「Creativity Explored」アート・パートナーシップディレクターのハリエット・サーモン氏の計4人が務める。
記者発表に参加した黒澤氏は、第1回の審査について「多くの国々と多くの作家の方々から応募があったこと自体に大変感銘を受けた。今までにない経験に自分の力で一歩踏み出そうという作家の方たちの勇気に感動した。今まで社会の中で目に見えないとされていた存在と言ってもいいかもしれない、そういう作家たちの作品が世の中に出ていって、皆さんの目に触れるところまでお手伝いできる支援の過程にあるということを審査員が強く自覚して作品を評価してきた」と振り返り、「障害のある人たちのアートを評価するというよりは、一人のアーティストの制作した、力と心のこもった作品を1点ずつ拝見する姿勢で臨みたい」と抱負を述べた。
ヘラルボニー・アート・プライズは、賞金300万円のグランプリ、賞金30万円の審査員特別賞、協賛企業による企業賞があり、各賞の受賞作品はヘラルボニーとのライセンス契約の対象になるほか、協賛企業のサービスやプロダクトに採用される可能性がある。
弟の崇弥さんは、「今回も『出口のあるアワード』ということは大変意識をしている。様々なスポンサー企業の皆様に支えられて、ただ支えられるだけではなく一緒に共創事業を生み出していくところにも注力している。企業の強みと作家さんの強みとが一緒になっていけるアワードになっている」と話した。
第1回グランプリの浅野さんの作品はヘラルボニーが購入してスカーフに商品化され、記者発表でも文登さんが身につけていた。パリで行われた作品展会場で販売もされたという。
また企業賞に選ばれた作品のうち、JAL賞を受賞した水上詩楽さんの作品「タイトル不明」は同社機内ドリンク用紙コップのデザインに採用され、トヨタ自動車賞に選ばれた澁田大輔さんの「クジラの群れ」はラリーカーのラッピングに採用された。